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福祉の現場で思いカタチ
~私が起業した理由わけ・トライした理由わけ

志をもってチャレンジを続ける方々を、毎月全4回にわたって紹介します!

【毎週木曜日更新】

第23回② 南 寿樹 NPO法人くるみの会 生活介護事業所「来夢(らいむ)」 所長
子どもたちが「笑顔になる意欲」を
つくっていきたい

NPO法人くるみの会 生活介護事業所「来夢(らいむ)」 所長
南寿樹(みなみ としき)
1958年生まれ。愛知県立の特別支援学校の教員を務めながら、「フレッシュ」「紙風船」「ポップコーン」「あそび座」と車いすを利用する肢体不自由児者による4つの人形劇団を設立。なかでも「フレッシュ」は2000年にフランスの国際人形劇フェスティバルから招待を受け、海外公演も果たした。「世界初の肢体不自由児者の人形劇団創設と自立支援活動」で第46回博報賞特別支援教育部門を受賞。また、「愛知県障害者(児)の生活と権利を守る連絡協議会」副会長、「愛知県しょうがい者の生活を豊かにする会」会長を務めるなど、在職中から愛知県豊明市を中心とした障がい児者の社会自立支援活動を精力的に行っている。2019年に特別支援学校教諭を退職。


グループホーム建設準備募金活動も行っています。ご興味のある方は、ご連絡ください。

取材・文:毛利マスミ


──前回は、生活介護事業所「来夢(らいむ)」設立の経緯、活動の内容などについてうかがいました。今回は、障がい者福祉の現場で欠けている視点、「来夢」の理念、スタッフについてなどをお聞きします。

──長年、障がい者福祉に関わるなかで、現場で欠けている視点、必要なことは何だとお考えでしょうか。

 特別支援学校の教員と並行して、障がい者福祉の運動を進めてきましたが、教育にも福祉現場にも「障がいのある人の、自分探しから自分づくりを支援する」という発想が乏しいと感じています。
 「この世に生まれてきたからには、自分らしく社会の役に立ちたい。自分らしさとは何だろう」という自己実現に向けた支援が求められますが、その支援の形は、既成の作業(労働)にその人を当てはめるものであってはなりません。常に、その人にとっての可能性を模索して、共に知恵を出し合う努力こそが大切だと考えています。
 健常者も同じ課題がありますが、障がいのある仲間には自己実現への壁は厚く、高く、自分の本意ではないところであきらめてしまうことがとても多いのです。
 誰もが「生まれてきてよかった」と思えるような社会をつくるためには、どんなに障がいが重くても、自分らしく人の役に立っているという実感が持てることが必要です。

 「来夢」での活動は、完全自主性主義です。「先生、今日は何をするの?」と、問いかけてくる仲間には、「もう、先生じゃないよ。君がやりたいことをやろう」と提案します。
 私が利用者さんのことを「仲間」と呼ぶのも、同時代を生きる「同士」という意味を込めているからです。時代を切り開いていく仲間に、上下関係はありません。言いたいことが なんでも言える場・関係でありたいと思っているんです。

 また「来夢」のスタッフには、私と看護師は別として、いわゆる「専門職」はいません。福祉や教育職畑出身ではなくて、元ひきこもり、元不登校、元韓国料理店の店長などです。彼らはこれまで障がい者と接する経験もなかったので、「何をどうしたらいいのか」、わからないことだらけだと思います。

──スタッフに福祉や教育畑出身者がいないのは珍しいですね。あえて「専門職」を集めなかったのでしょうか?

 施設の開設準備期間中、たまたま健常者の親御さんから「うちの子が引きこもって困っている」「不登校で困っている」といった相談があり、「ボランティアに来てみたら?」と誘ったのがきっかけです。
 また、理学療法士を目指して学校に通ったけれど、人と関わる力が弱くて実習先でうまくいかずに留年を繰り返している。面倒を見てくれないかということで、うちに来たスタッフもいます。そのスタッフは、その後しっかりと資格取得もして、うちで力を発揮してくれています。

 福祉や教育の分野では、「来夢」はシロウトの集まりかもしれませんが、翻ると「専門職」って何なんでしょう。先日もスタッフ会議で話したのですが、4年間大学の授業を受けてきたって、それは知識だけであって、実際の現場では通用しないことが多いです。
 その仲間と普段から一緒にいて、反応を見ながら状態を理解し、心を通い合わせ信頼関係を築いていくことが、その仲間にとっての本当の専門職ではないか。教育コーディネーターとかスクールソーシャルワーカーが専門職と言われ、相談を持ち込まれるが、せいぜい言えるのは、「その子には当てはまらないかもしれないけれど、こういう子がいて、そのケースではこんな取り組みをしたら、こういう変化があったよ」というアドバイスくらいです。
 「発達障害とは、自閉症スペクトラム障害とはこういうものだ」というような理論は、決めつけでしかなく、現場では先入観がその仲間との信頼関係づくりを阻害することも多いです。

──「来夢」で掲げる理念「笑顔の生産」の意味を教えていただけますか?

 私は、仲間たちが「笑顔になる意欲」をつくっていきたい。私は仲間たちがどんな障がいを持っていても、「人の役に立っているな」「自分は求められているんだ」という手ごたえを感じてほしいのです。
 そしてスタッフには、その仲間が何を思い、何をやりたいのかを一緒に考えることが仕事だよと伝えています。障がいが重いほど、同じことをしても時間は何倍もかかります。それでも工夫すれば、その子にしかできない、その子だからできる、その子らしくできることが見つけられます。

 他の法人では職員のことをそのまま「職員」と呼んだり「社員」「従業員」「アシスタント」と呼んだりしますが、私は「ともに夢のプロジェクトをつくるスタッフ」という意味合いを込めて「スタッフ」と呼んでいます。
 それは「来夢」を、仲間たちだけが笑顔になって、スタッフが苦しかったり、悲しかったりする施設にはしたくない思いもあるからです。みんなで対等に一緒に「笑顔」を生産していく場でありたいのです。

 とはいえ、経験のないスタッフに身体をあずける仲間に不安を与えてはいけません。そこで大切にしているのが、言葉がけです。ここでは仲間たちのケアの際は「上体を起こすよ」「移動するよ」などと全てを声にするのです。仲間にとっては安心感につながり、スタッフ同士の連携にも役に立っています。もちろん気が利かないことも多々ありますが、仲間や親御さんたちには、要求や要望は声に出してほしいとお願いしています。
 大変なことも多い職場ではありますが、人生を試行錯誤しながら集まってきたスタッフたちも、ここで一緒に活動するのが楽しいと、資格取得のために研修に行くなど地道な努力を重ねています。

──ありがとうございました。次回は、教諭となったきっかけや活動の原点でもある教員時代に立ち上げた人形劇団についてうかがいます。

来夢での足湯の様子。みんなでゆったりと笑顔が絶えない。


●インタビュー大募集
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