福祉の現場で思いをカタチに
~私が起業した理由 ・トライした理由 ~
志をもってチャレンジを続ける方々を、毎月全4回にわたって紹介します!
【毎週木曜日更新】
第16回② 庄司哲也 昭島デイサービス 晴れのち笑顔 代表
ケアの仕方もマネジメントも、経営も、
すべてを同時進行で勉強する毎日だった
株式会社SPECIO代表取締役
庄司哲也(しょうじ てつや)
1982年生まれ。2015年より電気事業会社が運営する介護事業の責任者として赴任。デイサービスを統括する。高齢者の多様な悩みを聞くなかで、認知機能低下予防に特化したプログラムを導入した。2019年5月には、より地域に密着した福祉を目指して親会社から独立。現在は、SPECIO代表取締役。
- ▲昭島デイサービス 晴れのち笑顔
http://harenochiegao.com/
取材・文:毛利マスミ
前回は、思いがけずに介護の仕事を手がけるようになるまでの道のりについて、お話しいただきました。今回は、立ち上げ時にもっとも苦労したという、スタッフのことについて伺っていきます。
──スタッフについて、ご苦労があったとのことですが具体的に教えてください。
うちは小規模な地域密着型通所介護(デイサービス)で、法で定められている人員基準として、管理者と生活相談員をそれぞれ配さなければなりません。従業員の勤務や給与の管理や事業所のマネジメントを行なう管理者には、とくに資格は必要ないのですが、生活相談員には資格が必要です。生活相談員は、生活相談や指導などを行うソーシャルワーカーですので、社会福祉士、社会福祉主事、精神保健福祉士のいずれかの資格、あるいは介護福祉士かつ施設またはデイサービスで1年以上の経験があることが、条件となります。
そして、事業所ではその資格を持っている人が休むと、介護報酬の請求ができなくなってしまいます。たとえば風邪を引いて休むと、その日はたちまち無報酬になってしまうというわけです。こうした資格のある人が常勤でいます、というだけではなく、実際に出勤していないと認められないのです。ですから、事業所では2人以上の有資格者を確保する必要があるのですが、私がここにきた時は、立ち上げから3か月ほどが過ぎた頃でしたが、すでに1人辞めていて、生活相談員が1人だけという状態でした。
もちろんすぐに求人広告を出してはいたのですが、なかなか応募はありませんでした。安定した経営のためにも、私と親会社のMKDの代表の2人で、社会福祉主事の資格取得のための通信講座の受講を始めていましたが、取得には1年はかかります。そうこうしているうちに、パートでなら来られるという方を見つけ、なんとかその日をしのぐといった毎日が続きました。また、管理者についてもよいスタッフに恵まれず、私がここに来て4か月くらいの時に辞めてしまいました。それで私が管理者になったのですが、介護も経営もまったくの素人の私が、ケアの仕方もマネジメントも、すべてを同時進行で勉強していったという感じです。
残っていた唯一の生活相談員とも、しょっちゅう「辞める・辞めない」で揉めていて、引き留めるのが本当に大変でした。
──苦境はどのように脱したのでしょうか?
しかしついに、その生活相談員もある日突然、来なくなってしまったんです。私が資格を取得する約1か月前のことでした。あの時は、本当にどうしようかと思いましたね。ご利用者さんはいらっしゃるのに、1か月間無報酬でやるのかと暗澹たる気持ちになりましたが、立ち上げ時にお世話になったコンサルタント会社にお願いして、人員を融通してもらうことで窮地を脱しました。
またさらに大変だったのは、夜勤のスタッフの確保でした。当時は、介護保険外のサービスとして、1泊3000円で夜の宿泊も請け負っていました。この利点は、ご宿泊していただくことで、前日から翌日のデイサービスの利用者を安定して確保することにつながる、ということにありました。当時はそのような形態が「流行って」いたんです。立ち上げ時は、利用者さんの確保が本当に難しかったので、宿泊サービスはありがたいシステムではありました。しかし、夜勤はすべてを1人でこなさなければならないハードな現場です。当然、信頼関係がないとお任せできない仕事ですが、なかなかよい人材とは巡り合えませんでした。私の家はここから徒歩10分ほどと、何かあったらすぐに駆け付けられる位置関係にありますが、現場のことが気になって、家にいても休まることはありませんでした。本当に人手が足りず、私が昼も夜もぶっ続けで勤務することも多かったですね。消防法の改正もあり、この宿泊サービスは2018年4月にやめました。
現在のスタッフは5人で、本当にすばらしいメンバーです。現在の管理者は、立ち上げ時にパートで務めてくれていた人で、次々とスタッフが辞めていくなかでも「私は続けるよ」と私を支えてくれました。また、一般の応募で来てくれた男性も、とても気立てがよく、気働きができる人です。その二人が知人や後輩に声をかけてくれて、現在のスタッフに落ち着きました。人手不足はどこの事業所も抱える問題だと思いますが、最初に苦労した分、今は本当に恵まれていると感じています。
──ありがとうございました。
次回は、運営を軌道にのせるまでの苦労をお伺いします。
写真は、これまでのメニューの1例で、プロも顔負けのクオリティだ。
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花げし舎編著「人生100年時代の新しい介護哲学:介護を仕事にした100人の理由」現代書館