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福祉の現場で思いカタチ
~私が起業した理由わけ・トライした理由わけ

志をもってチャレンジを続ける方々を、毎月全4回にわたって紹介します!

【毎週木曜日更新】

第13回④ 伊丹純子 デイサービス・宅老所 民の家 代表取締役社長
今日の一日は二度とないから、今日の最善を尽くす。
夢は気軽にみんなが集まれる、憩いの居場所づくり。

デイサービス・宅老所 民の家 代表取締役社長
伊丹 純子(いたみ じゅんこ)
1968年生まれ。
認知症だった祖母、最愛の夫、優しかった父を見送り、福祉の道へ。訪問へルパー、小規模多機能型居宅介護での勤務を経て、2010年6月に起業。「人々のもうひとつの家になれたら」との思いで名付けた、デイサービス・宅老所「民の家」は今年で10年目を迎えた。現在は、「この地域で楽しもう」と介護セミナーや音楽会など手作りのイベントにも力を入れている。介護福祉士、社会福祉主事。


  • デイサービス・宅老所 民の家
    埼玉県新座市栄5-1-10
    048-482-1877

取材・文:原口 美香


前回は、現在の「民の家」の様子を中心にお話を伺いました。
今回の最終回では、立ち上げからこれまでを振り返って、経営や今後の夢、これから起業する方へのアドバイスなどをいただきたいと思います。


──立ち上げから10年目ですが、これまで経営面は順調だったのでしょうか?

 順調ではないです。介護保険の収入は正直なもので、この家の賃貸料、スタッフの給料や、社会保険料など支払って、金銭的には厳しいけれどなんとか運営できているというような感じです。

 例えば、要介護5の方が週5~6日いらっしゃって、最期までいらしていたとします。次の月には、その方を失った寂しさと共に収入もなくなってしまう。新たに要介護1の方をお迎えしても、当然金額も違ってきます。結構厳しいなって思うことも、しょっちゅうあるのですが、なんとか乗り越えています。本当に経営面のこととなると介護事業は厳しいです。特に他に収入源がない小さな事業の継続は大変なものです。

 誰かを亡くして、最期までみていると本当に家族を亡くしたような気持ちになってしまう。だけれど不思議とそういう時に新規の利用者さんが次々入ってくるのです。寂しさで心がついていけなくなっていても、亡くなった方に「泣いている場合じゃないよ、あんたたちがやるんだ、頑張んな!」って言われているねってスタッフと励まし合ったりして。「亡くなった方たちに恥ずかしくないようにやってこうね」といつもみんなで話しているんです。

──伊丹さんの今後の「夢」を教えてください。

 今、介護職や地域の方たちと楽しもうと、いろいろなイベントをやっているんです。
 音楽会だったり、ワークショップだったり。介護に関わらず様々な職種の方たちも来てくださって。これからもいろいろとチャレンジしていきたいですね。

 それからまだどんな形かは定まっていないのですが、障害を持った方や、「家に帰りたくないんだよね」っていうおばあちゃん方や、みんなが気軽に集まれる場所というものを作りたいと思っているんです。形にとらわれず、みんなが集まって泊まれたりもできる、プチ家出をする場所みたいな。障害を持った子たちが大人になると、「自分たちで仕事をしたいけれど上手くいかない」ということが多くあるんです。そういう子たちの場所も提供できたらいいなと。みんなで作ったり、売ったり。職場でもあり憩いの場でもあるような居場所づくりをしたいですね。

──これから起業を考えている方へ向けてアドバイスをお願いします。

 やれると思って進むことだと思うんです。どこかで枠を決めているのはきっと自分だから、その形を破ろうとするのも自分自身。前向きに、「きっとできる」と自分に唱える。根拠がないってよく言われますが、出来ると信じて進むことが大切と思うのです。

 そして一人では出来ないと知ること。共に頑張ってくれたり共に悩んだりする仲間を持つことがなにより必要だと感じます。決して諦めないことですね。

 「介護は大変」とよく言われていますが、おばあちゃんたちからいただく素敵なものが、本当にたくさんあると思います。ぜひチャレンジして、現在の介護のイメージを払拭してもらいたいです。

──伊丹さんが大切にしていることを教えてください。

 普通に過ごす一日も、笑って過ごす一日も、その一日は二度とない。だから例えば、利用者さんが帰る前に「お茶が飲みたい」と言ったとしたら、さっき入れた急須のお茶じゃなくて、新しいお茶を入れてあげたい。重く考えるわけじゃないけれど、また明日もあると思って私たち暮らしているけれど、明日何があるか分からないじゃないですか。自分だって、「あの時、残り物だったんだよな」って後で思うのは嫌だから、一杯のお茶を大切にしたいのです。おいしいものを食べたり飲んだりしてほしいし、もうちょっとお話しておけばよかったな、って後悔しないように今日の最善を尽くしていきたい。今、今日この時を大切に。

 それから亡くなった主人の代わりに、子どもたちをよくみてくれていた父がよく言ってくれていたことですが、「純子のいいところは笑顔だよ」って。多くは語らない父でしたが、最期までずっと言い続けてくれた。だからいつも笑顔でいよう! と思っています。

 たくさんの人に出会えてきた。いくつものご縁が自分を育ててくれた。この仕事をやらせていただいたおかげだと思います。みんなの笑顔がある限り、やり続ける責任も感じていて、できるところまでがんばろうと思っています。そして民の家を支えてくれる人々に心から感謝しています。

──ありがとうございました。

近くのレストランでの一枚。
「民の家は、いつまでもみんなの『第二の我が家』でありたい」と伊丹さん。


【インタビューを終えて】
取材当日、来られていた利用者さんにお話を伺うと、「ここは楽しいよ~」「食事がとってもおいしいの!」と皆さん、口々に教えてくださいました。
ゆったりとした時間が流れていて、スタッフさんも気さくな方たちばかり。細やかな気配りと温かな寄り添いに溢れた「民の家」でした。

【久田恵の視点】
介護の仕事との出会いから、その仕事が人生そのものになっていくプロセスがまるで川の流れるごとくに自然。伊丹さんは、まさに「介護という仕事に選ばれた」方なのですね。実践を通してあるべき介護のありかたを示し、そのクオリテイを高めてくれているのは、彼女のような方々なのだ、と実感させられます。

●インタビュー大募集
「このコーナーに出てみたい(自薦)、出してみたい(他薦)」と思われる方がいらっしゃいましたら、terada@chuohoki.co.jp までご連絡ください。折り返し連絡させていただきます。

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100歳時代の新しい介護哲学

「ファンタスティック・プロデューサー」で、ノンフィクション作家の久田恵が立ち上げた企画・編集グループが、全国で取材を進めていきます

本サイト : 介護職に就いた私の理由(わけ)が一冊の本になりました。

花げし舎編著「人生100年時代の新しい介護哲学:介護を仕事にした100人の理由」現代書館