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福祉の現場で思いカタチ
~私が起業した理由わけ・トライした理由わけ

志をもってチャレンジを続ける方々を、毎月全4回にわたって紹介します!

【毎週木曜日更新】

第69回②
西川こずえ 特定非営利活動法人縁 就労継続支援B型事業所 Daisy 施設管理者
ここを「仕事場」ではなく、「居場所」と
とらえてくださっている方がとても多い

西川こずえ
就労継続支援B型事業所 Daisy 施設管理者

1976年、京都市内で生まれ育つ。発達障害を持つ長男をきっかけに福祉の世界に関わるようになる。当初は、訪問介護事業所に勤めるが、就労継続支援B型事業所の仕事に巡り合い、支援のありように対する憤りから自らが事業所立ち上げに奔走する。2018年NPO法人縁設立。2019年就労継続支援B型事業所Daisy設立。

取材・文:毛利マスミ

――前回は、福祉業界に関わるようになったきっかけやDaisy立ち上げの理由などについてうかがいました。今回は、Daisyの運営について詳しくお聞きします

――Daisyのスタッフは現在何名いらっしゃるのでしょうか?

 8名です。そのうち立ち上げからの仲間が5名います。みなさん、私が仕事をするなかで出会った方々で、同じ理念を持っている仲間たちです。
 私は、「心がやさしい人」と一緒に働きたいんです。人の痛みがわかる人、「この人なら大丈夫」と、自分の子どもを安心して預けることができる人。そう感じた人にしか、立ち上げの相談もしなかったし、声がけもしませんでした。

 長男を福祉サービスに預けていたときに痛感したのですが、たとえば子どもが言うことと、支援者が言うことが食いちがうことってありますよね。たぶん、子どもも支援者もウソをついているわけではなくて、お互いの感じ方やとらえ方のちがいから、異なる話が出てくるのでしょう。そうした時に、大事になるのが「信頼」ではないでしょうか。
 私が支援者を信頼していたら、話に齟齬があっても、「立場や見方を変えたらそういうこともあるよね」と納得できます。でも相手に対する信頼がなかったら、「この人の言うことは本当なのか?」と疑心暗鬼になります。そして結果的に悪いことが起きたら、「この人が悪かったせいだ」とも思うでしょう。
 でも、そこに信頼関係が築けていれば、「ダメでも仕方ないな」と受け入れることができる。ですから私は、事業所設立を目指したときに、私自身が「この人なら」と思える方々に声をかけさせていただきました。
 そして結果論ではありますが、本当によいバランスの人たちが集まってくださり、それぞれの得意分野を活かして、互いにサポートし合って仕事をすることができています。多少の意見の食いちがいはありますが、目指す理念や志を共にしているので、揉め事もありません。

――2019年にNPO法人縁を立ち上げ、翌年にDaisyを開業されたのですよね。立ち上げにかかった費用はどのように工面されたのでしょうか

 NPO化することを決めた時に、妹から「理事は外部の人になってもらった方がいい」とアドバイスを受けました。実務に関わっていない人で、ある程度社会的地位もあり、外部から見守ってくれるような人がいい、とのことで探し、結果的に、妹の勤めている不動産会社の社長さんにお願いすることとしました。かねがね福祉のお役に立ちたいというお考えをお持ちだということは存じ上げておりましたので、思い切ってお願いをしたところ、ご快諾いただきました。
 自己資金も少なく、勢いで立ち上げを決めた素人集団でしたが、銀行からの借入れの際も、理事長の名前でお願いできましたし、本当に感謝しています。現在も多岐にわたり活動を支えていただいています。

――DaisyはB型作業所ですが、開所当時はどのようにお仕事を見つけてきたのでしょうか。また、現在はどのようなお仕事をされているのでしょうか?

 行政からのバックアップはほぼありませんので、仕事はすべて自分たちで見つけてきました。新聞に掲載されている内職募集みたいな記事に連絡をしたり、知り合いのつてで紹介していただいたりしました。でもちょうどコロナ禍と開所が重なったこともあり、内職の仕事も少なくて、苦労しました。それに、仕事ならなんでもいいわけではありませんので、なかなか難しかったです。
 いまDaisyには17名ほどの登録者がいらして、そのうち毎日10名ほどがきてくださり、Tシャツの袋詰めや封筒づくり、アクセサリーの値を貼ったり、袋詰めといった作業のほか清掃活動、お弁当の配達などをしています。
 また、2022年8月にはここから車で10分ほどの場所には工房Haruもオープンしました。そこでは、クラフトテープをつかったカゴやバッグを手づくりして販売もしています。もともとは、Daisyで手づくり作業もおこなっていたのですが手狭になったため、別の場所を開くことにしたんです。
 クラフトテープをつかった製品づくりは、手仕事が得意なスタッフがフォローをしますが、「これをつくってください」と主導することはせず、利用者さん目線を第一に作業を進めています。たとえば、利用者さんから「こういう色でこんなものをつくりたい」という希望があったら、それを最大限活かすものづくりをしています。利用者さんに任せると色使いも独創的な作品に仕上がってしまうこともありますが、利用者さんの希望を叶えて実現することが「やりがい」だし、そうしたオリジナリティあふれる作品だからこそ買ってくださる方もいらっしゃいます。
 こうした利用者さんの声を第一にする考えはDaisyも同じです。自己実現という意味でもここを「仕事場」ではなく、「居場所」ととらえてくださっている方がとても多いんですよ。

――利用者さんの思いを大切に、進めていらっしゃるのですね。そして、仕事場でありながら「居場所」になっているというお話ですが、利用者さんにとって居場所になるための条件は何だとお考えですか?

 やはり、「自分は求められている存在である」「役に立てている」「自分がここにいることが大事」と感じていただくことではないでしょうか。たとえば、作業にしても「ここまでやってもらったら助かります」「こんなに進めていただいてありがとうございます」という一言だけでも伝えることで、すごくうれしそうなお顔になったり、「私でも役に立っているんですね。そう言ってもらえるとうれしい」と話したりしてくださいます。それが、本人のやりがいにもつながって、「私、あそこに行かなきゃ。必要とされている」と感じてくださるようになり、それが「居場所」というか、「行っていい場所」「行きたい場所」になるのかなと思います。
 ここに来れば、仲間やスタッフといろいろな話もできて、やりがいもあって、しんどいことも分かち合える。それが「居場所」ではないでしょうか。

 スタッフは基本的には傾聴に徹して、威圧的にはならないことを心がけています。利用者さんとスタッフは上下の関係ではありません。障害の有無に関わらず、人として関わること。スタッフも利用者さんも「仕事仲間」なんです。

――ありがとうございました。次回は西川さんが感じている仕事の醍醐味ややりがいなどについておうかがいします。

工房Haruで制作した作品は展示会で販売する。

●インタビュー大募集
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「ファンタスティック・プロデューサー」で、ノンフィクション作家の久田恵が立ち上げた企画・編集グループが、全国で取材を進めていきます

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