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和田行男の婆さんとともに

和田 行男 (和田 行男)

「大逆転の痴呆ケア」でお馴染みの和田行男(大起エンゼルヘルプ)がけあサポに登場!
全国の人々と接する中で感じたこと、和田さんならではの語り口でお伝えします。

プロフィール和田 行男 (わだ ゆきお)

高知県生まれ。1987年、国鉄の電車修理工から福祉の世界へ大転身。
特別養護老人ホームなどを経験したのち99年、東京都で初めてとなる「グループホームこもれび」の施設長に。現在は株式会社大起エンゼルヘルプ地域密着・地域包括事業部 入居・通所事業部部長。介護福祉士。2003年に書き下ろした『大逆転の痴呆ケア』(中央法規)が大ブレイクした。

共に可笑しみ合える関係へ


 グループホームに入居しているおよねさん(仮名)は、とても感情の起伏が激しい方で、怒る・泣く・叫びわめき散らかすこともある。

 あるとき、およねさんの傍でおとめさん(仮名)が「しょじょじ」の歌をうたいだした。

「♪しょっしょっ、しょじょじ…ツン、ツン、月夜だ、みーんな出てコイコイコイ…」と。

 その時だ!
 およねさんがそれを聞いて

「みんなは出られないよ~無理だよ~」

 と号泣しだしたから、周りは吹きだした。

 婆さんとお付き合いさせていただいていると、転がるほど「可笑しなこと」がある。
 それは、この仕事に就いている人なら誰でも経験でいることだと思うが、なかなか公の場で語りにくいようだ。

 でも僕は、家族に対してもそうだが、ご本人にも「可笑しなできごと」を話したりする。
 それは、たとえ認知症になっても「可笑しいことは可笑しいってわかっている」と思い込んでいるからである。

 つまり「おかしい」と「可笑しい」は違うということなのだが、本人の可笑しさを聞いた家族は、一緒になって可笑しんでくれる。

 認知症という状態になると、思いもつかないような言動が起こり、それを哀しむ人、それを嘆く人、それを問題扱いする人がいるが、僕ら専門職までもがその人たちと同じように捉えるのではなく、起こったことを「ひとの可笑しみ」に変え、それは自分にも「形は違えどある」と語ることで、認知症に対する物の見方や考え方を変えていけると、僕は思っているからだ。

 あるとき、別のグループホームに親を入居させている家族が、「和田さんのところの入居者家族と話をさせてもらいたい」と訪ねてきた。ちょうど家族懇談会を開催していたときだったので、了解をもらって会ってもらった。

 その方があとで「何で皆さん、あんなに明るいんですか。親や配偶者が認知症なのにおかしい」って言われたので、「皆さん、最初はあなたと同じでしたよ」「でもね、僕らとお付き合いするようになって、可笑しめるようになったんです。ステキでしょ」って話した。

 以下、和田行男著
『大逆転の痴呆ケア』「まだ見ぬ介護者へ」より抜粋

・・・

私のこと笑ってくれていいですよ
きっとおかしなことを言ったり おかしな格好をすることでしょう
でもお願いです 陰で笑ったり 自分ひとりだけで 仲間同士だけで笑わないで
私にも笑っている訳を教えてください
きっと私も笑いの仲間に入り いっしょにおかしむでしょう
だって おかしいことはおかしいって 私にもわかるから

・・・

 堂々と共に「可笑しみ合える関係」を、本人や家族と築けるように尽力し合いたいものですね。

写真

 まさこさんが二階から下りてきたときの恰好ですが、職員さんがすかさず鏡をもってきて本人に見せると「この方、私ですか」と大笑い。
 よく語り合い、よく笑い合っていればこそ表情筋は緩やかさを取戻し、箸が転がっても笑えるんですよね。

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