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宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ

宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。

プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

大阪府生まれ。現在、日本障害者虐待防止研究研修センター代表。
長年、埼玉大学教育学部で教鞭を勤めた。さいたま市社会福祉審議会会長や障害者施策推進協議会会長等を務めた経験を持つ。埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)、『障害者虐待-その理解と防止のために』『地域共生ホーム』(いずれも中央法規)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

刑務所より劣悪な処遇?

 この23日、「共同通信の全国調査によって」、4県の県立と社会福祉事業団の障害者支援施設で居室に施錠監禁する拘束が常態化していることが分かったとの配信がありました(https://news.yahoo.co.jp/articles/242a5da0721cd92a6fa1a9888744745de9adae1a)。

 広島では24時間施錠という人がいるほか、埼玉、新潟、兵庫では長時間の施錠が10年以上続いている例が見られたといいます。いずれも「利用者の安全のため」だと稚拙な言い訳をしているようです。

 ただ、この報道の根拠となった共同通信の「全国調査」の詳細は明らかにされていない点は気がかりです。虐待に関する調査は簡単には成立するものではなく、通常の社会調査や調査取材のやり方では、なかなか事実に迫ることが難しいはずです。

 虐待の発生している施設が、調査に「毎日拘束しています」と自ら回答することはまずありえない。虐待に係わる社会調査は、回収率を期待できませんし、回答内容が真実であるのかどうかについて担保することもことのほか難しい。

 これとは別に、同通信社は1月17日に、自治体に通報のあった2件の施設従事者等による障害者虐待の記事を配信しています。

 一つは、千葉市の障害者支援施設「千葉光の村授産園」が、問題行動を起こした利用者2人に1個5キロの砂袋を両手に持たせたまま4時間立たせるなどしていた虐待です。もう一つは、社会福祉法人三篠会(広島市)運営の「ふれあいライフ原」で、男女7人の看護師が、排せつ介助の際にわいせつな発言をしたり、入所者の鼻に指を押し当てブタに見立ててふざけていた虐待を繰り返していたことです。

 いずれの虐待事案も、職業的支援者の行為とはとても思えません。支援現場において、支援とは真逆の虐待が跡を絶たない問題の深刻さを痛感します。

 人権擁護と法律遵守にかかわる見識、職業的支援者にふさわしい専門性、管理職による虐待防止のためのガバナンス、自治体の虐待防止の視点を持った監査指導、国の虐待防止に資する支援条件の抜本的改善等、これらすべての取り組みが不十分であるか、皆無であるか、何も噛み合っていないか。

 強度行動障害で「利用者の安全を守るために拘束は止むを得ない」という言い訳はうんざりです。このような拘束を実施する支援現場から、「強度行動障害」(行政用語に過ぎません)の状態像を十分に行動分析したアセスメントの話を聞いたことがありません。

 行動分析によるアセスメントもしないまま、常識的な支援の経験値の延長線上で対応できないから、「安全のためには拘束はやむを得ない」という言い訳に飛びついている事案が殆どです。支援水準を向上させる組織としての責任の所在が全くありません。

 強度行動障害支援者養成研修を「実施しました」「受けました」というアリバイだけは存在します。でも、それらが現場の実務に活用されている事実を耳にしたことはこれまでに一度もありません。つまり、この研修は現状では無意味です。

 社会福祉法の施行(2000年4月)によって、自治体が直営や社会福祉事業団(自治体設立の社会福祉法人)の施設で社会福祉サービスを実施する義務は廃止されました。

 社会福祉法は自治体直営の支援サービスは不要であり、「民間でできるものは民間にやらせる」ことを求めます。自治体の実施責任は、プランニングによる支援システムの管理に収斂します。

 そこで、公的な施設は、民間に移譲するか、「一般の施設では受け入れ困難な状態にある障害のある人を受け入れる」ことを存在理由に存続するかのいずれかとなりました。

 ところが、自治体直営や社会福祉事業団の施設を存続させるとしても、社会福祉事業法の時代のように、正規雇用で公務員待遇の職員を雇用し続けることはできません。一般の社会福祉法人と同様に、非正規雇用の比率を高め、職員の待遇を大幅に下げることになったのです。賃金が半額になった社会福祉事業団も珍しくありません。

 私が、都道府県や社会福祉事業団の職員から実際に伺った話を紹介します。

「社会福祉事業団の職員の待遇を公務員並みだったところから大幅に引き下げて以降、専門性のある職員が辞めて、不適切な支援が常態化した」

「自治体直営の形は続けているが、専門性の低い有期雇用やパートの職員の比率が大幅に上昇したため、そこかしこで支援が破たんするようになった」

「社会福祉事業団の施設の支援水準が下がって、拘束を含む虐待が常態化するようになった事態を隠蔽するために、職員を他の施設職員と交流することになる虐待防止研修には派遣しないようにしている」

「不適切な支援の状態のままで社会福祉事業団の施設を維持し続けることは困難であるから、どこかで事業団と施設を安楽死させる手立てが必要だと考えている」

 県立や社会福祉事業団の障害者支援施設といっても、かなり以前から、強度行動障害のある人に対する拘束の常態化した事案があるのは事実です。

 このような施設が存続している場合、施設への出向から本庁に戻って位の上がった先輩の虐待を施設から暴くことは、公務員の流儀としては「ご法度」ですから、内部からの通報によって明らかになることはありません。通報を回避して、身内と組織を守る強固な土壌があるのです。

 さらに、「一般の施設では受け入れ困難な状態にある人を受け入れる」ことを理由に存続している公的施設の支援条件は、以前よりもはるかに劣悪になっているのですから、処遇困難度の高い利用者に対する不適切な支援は慢性化しやすく、虐待の発生しやすい状況が生まれています。

 県立や社会福祉事業団の施設の拘束が明るみに出たため、他の社会福祉法人の障害者支援施設に利用者を分散移行するケースが目立ちます。が、これで十分な支援が実施されるという保障があるのかどうかは疑問です。処遇困難ケースに十分に対応できる支援の専門性や支援条件が移行先の施設にあることの説明はとくにないからです。

 自閉症スペクトラムの障害特性に係わる「専門施設」を装いながら、不適切な支援と虐待を慢性化させている施設も知っています。この虐待が明るみに出ないのは、利用者への施設内虐待があることを親御さんが知ったとしても、高齢化しつつある親御さんが引き取って再び養護する生活条件はなく、通報を躊躇するからです。

 すると、施設は「行き場のない人をあずかってやっているだけで支援でしょう」と開き直ってしまいます。つまり、拘束の常態化とは、支援放棄の常態化です。

 最大の問題は、行動障害の発生と拡大を未然に予防する「切れ目のない地域支援システム」が整備されていない点です。とくに、発達障害に対応できる専門的な人材は圧倒的に不足しており、既存の社会資源や支援者をネットワークして「お茶を濁す」施策の常套手段はまったく功を奏さないのです。

 行動障害の発生・拡大を未然に防止するための社会的手立てを十分講じないまま、二次障害である「強度行動障害」を産出し、その挙句の果てに、障害のある人には毎日の長時間に及ぶ拘束が、10年を越えて実施されているというのです。

 このような事態が政策的に放置され続けているわが国の現実は、もはや「施設従事者等による虐待」の域を越えた「社会的虐待」に該当するのではないでしょうか。

障害者支援施設より拘束時間の短い施設-川越少年刑務所

 1日20時間を超えるような施錠監禁を10年以上続けているという事実は、障害者支援施設の基本的な社会的責務を放り投げていることを意味します。刑務所よりも劣悪な処遇である社会福祉施設に存在理由などありません。

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