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宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ

宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。

プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

大阪府生まれ。現在、埼玉大学教育学部にて教鞭をとる。
さいたま市障害者施策推進協議会会長等を務め、埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

「制度の谷間」と福祉ミックス

 3浪の大学生は「高等教育の無償化」の対象にならない-生活困窮家庭の下で苦学の末、長崎大学医学部に入った学生が、Covid-19の感染拡大からアルバイトができなくなり、勉学を続けることができない事態に直面している事態を、長崎新聞(10月10日電子版)が報じています。

 この4月から始まった「高等教育の無償化」は、学生の出身家庭の資産、年収及び本人の学習意欲を要件に、給付型奨学金と学費減免を受けることのできる制度です。しかし、この対象に入るには、所得制限と授業への出席状況や単位取得状況に加えて、2浪まで(3浪以上や社会人入学生は対象外)という要件があります。

 冒頭で述べた長崎大学医学部の学生は、苦学して難関の医学部に入学したのですから、政府と社会が未来の貴重な医療の担い手として積極的に支援するのが当たり前でしょう。それが「3浪」という形式要件から機械的に対象外とされています。

 いわゆる「制度の谷間」の問題です。無償化の対象を「2浪まで」とする合理的理由はどこを探してもないでしょう。この要件を取っ払ったところで、財政出動が大幅に跳ね上がることもないのではないでしょうか。「制度の谷間」をわざわざ作るように設計された制度です。

 2018年度の介護保険料滞納による差押えは、65歳以上の高齢者で1.9万人と最多を更新しました(https://digital.asahi.com/articles/ASNBB77KKN9ZUTFL00K.html)。生活保護を受給してはいないが、生活保護と同等の低消費水準世帯で、年金受給額が年18万円未満の高齢者の多くに滞納が発生していると言います。

 つまり、ある程度の年金額の受給水準以上で介護保険料が天引きされている階層と生活保護受給世帯の間に、介護保険料の払い込みのできない「制度の谷間」にいる高齢者が発生しているのです。

 1990年代から今日まで、「住民同士の助け合い」、福祉ミックス(自助・共助・公助)、「新しい公共」、PPP(Public Private Partnership)などが提示してきた考え方は、公的な制度の谷間を住民同士の支え合いやNPO・企業活動によって埋め合わせていく方針を示していました。

 公的な「制度の谷間」そのものをなくす課題については、なぜか十分に議論しないのです。住民同士やNPOによる共助の「美しい物語」がもてはやされるのですが、その効果測定や漏救の問題を取り上げた論文を見たことはありません。

 最近では、Covid-19禍に伴う生産者や飲食店の窮状を、クラウドファンディング(CF)で支え合う取り組みがさまざまに発展してきています。クラウドファンディングによって事業継続や困難からの脱出に成功している事例は、マスコミによって報じられます。

 しかし、CFによってもうまく行かなかった事例や失敗した事例も、間違いなくたくさんあるはずです。その上、全国の3浪以上の学生と社会人入学生の奨学金と学費の問題や、介護保険料の滞納問題については、公的制度の改善によって対応する以外に、合理的な解決策があるとは思えません。

 生活支援に係るシステムについて、自助・共助・公助を人権保障の観点から組み替えていく取り組みの中で、公助を柱として位置づけるべき課題の明確化を再確認すべき時期にきていると考えます。

 自助が成立せず、「制度の谷間」に放置されて公助も共助による仕組みも全く機能していない生活領域は、3浪学生や介護保険料滞納高齢者を氷山の一角として、母子世帯の貧困や被虐児童の成人後問題など、山のようにあるのではないでしょうか。

 Covid-19に伴う生活と労働の不安定化が進行する中で、「制度の谷間」に置かれつつも自助と共助によって何とか踏ん張ってきた人たちの生活や事業の破綻が、あるいは徐々に、あるいは急激に明るみに出てきています。

 8月17日のブログで、地域では虐待発生と家族の解体が「焼け野原が広がるように」進行していると書きました。現在進行している生活や自営業の破綻は、空襲の焼夷弾によって焼き尽くされるような、不可逆的な破綻であるところに問題の特質があります。

 Covid-19が終息するまで持ちこたえることのできない生活困窮世帯と自営業の方がたくさんいます。この人たちを切り捨ててしまう不寛容な社会ではなく、困難を乗り越える歩みを共にしながら、誰もが生きていること(生命-生活-人生)の意味を実感し相互承認できる営みを創造しなければならない。

 そのためには、社会福祉における公助の柱を太くするための営みの中に、支援の有効性を担保する専門性の確保と多様な立ち位置の人たちや組織の協働が必要です。それを推進するチャンネルとして、障害者施策推進協議会や自立支援協議会を活用できなければならないと考えます。

絶望的なオーバーツーリズムの復活した川越

 さて、東京の新規感染者数は、日ごとの凸凹があるにせよ、100~200人台が続いています。埼玉県では、ミュージカルの劇団で大規模なクラスター感染が発生し、100人の大台に乗る日が出てしまいました。

 その一方では、「Go-To〇〇」によって各地で人出が増大しています。というより、「増大させる政策に舵を切っている」と言った方が正確でしょうか。川越の「蔵造の街並み」は、今や「蔵造の原宿もどき」の様相を呈し、スイーツの食べ歩き通りです。

 感染者の増大は続いてはいるのだが、経済活動を活性化させるところで、Covid-19をめぐる現在の客観的状況は誰にもはっきりと分からないような状況に陥っています。経済活動の復活が独り歩きしつつある不安の下で、感染症の「専門家」の責任のある社会的発言が聞こえてこないと思うのは、果たして私だけなのでしょうか。