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宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ

宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。

プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

大阪府生まれ。現在、日本障害者虐待防止研究研修センター代表。
長年、埼玉大学教育学部で教鞭を勤めた。さいたま市社会福祉審議会会長や障害者施策推進協議会会長等を務めた経験を持つ。埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)、『障害者虐待-その理解と防止のために』『地域共生ホーム』(いずれも中央法規)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

障害のある人のこれからの住まいと暮らし

 障害のある人の地域生活の充実にかかわる提言の書を、8月末に中央法規出版から上梓する運びとなりました。全国知的障害者施設家族会連合会のPT会議が分担執筆したものです。

 目次は次の通りです(出版までに修正することがあります)。

  • はじめに
  • 第1章 「地域共生ホーム」を創る
    〈コラム―トイレのロールペーパーを外してしまう施設〉
  • 第2章 「地域共生ホーム」から市民としての地域生活を創る
    〈コラム-「拡大家族」としての社会福祉法人〉
  • 第3章 職員の専門性の向上と待遇改善を求めて
  • 第4章 地域共生ホームの施設長のあり方
    1.社会福祉法人制度改革と社会福祉法人・施設長のあり方
    2.これからの社会福祉法人に自治と討議にもとづく福祉文化を創造する
  • 第5章 施設経営と運営のあり方について
  • 第6章 家族の役割と法的位置を明らかに
  • 第7章 国・地方公共団体の社会福祉の増進に係る役割と責任
  • 第8章 利用者の権利擁護
    ◇施設利用に伴うサービス利用契約と個別支援計画に関する実態調査報告
    ◇施設の暮らし点検シート
  • おわりに

 障害のある人が生涯にわたって安心した地域生活を過ごすことのできる支援体制や社会資源の整備は、まだまだ不十分であるというのが障害当事者・親家族の率直な意見です。

 しかし、ある社会福祉法人の施設では毎日お風呂に入ることができるのに、別の法人の施設では週2回しか入ることができないというのはなぜなのか。ある施設の食事は、温かいものは温かい状態で配膳されてとても美味しいのに、別の施設の食事では温かいものが冷め切った状態で配膳され、お世辞にもおいしい食事とは言えない代物が提供されています。

 また、市町村によって障害支援区分の認定調査員の「さじ加減」がいまだに異なるのはどうしてなのか。財政状況の苦しい市町村が、障害支援区分を低く抑えようとする傾向的事実もそこかしこから指摘されています。

 この間、ある県の市町村ごとの、就学前のライフステージにおける療育支援体制や親の障害特性に係る早期理解教育の取り組みについて知る機会がありました。市町村格差は絶望的なまでに開いており、法治国家とはとても思えないほどの不平等が拡大している実態があるのです。

 障害者虐待防止法の施行からこの10月で丸7年が経つことになります。ところが、首都圏の規模の大きい自治体の中にも、未だに虐待防止研修を1度も開催したことのないところが、実は珍しくありません。

 基礎自治体にさまざまな取り組みが丸投げされた「地方分権」の進展と、福祉・介護サービスの提供が利用契約制になったことが、市町村格差と事業者間格差を拡大する方向に作用しています。

 競争にもとづく支援サービスの質的向上がまったくの幻想であることはむろん、利用者市民の側から格差を点検する手立てさえ、事実上、剥奪されている事態に陥っているのではないでしょうか。

 そこで、本書は、障害のある人の地域生活の充実を展望するための住まいと支援のあり方について根本的に問い直し、支援サービスと暮らしの質がこれまで遅々として改善してこなかったさまざまな「からくり」を解き明かしています。

 これからの地域生活を創造するための考え方や、支援と暮らしの質のあり方にかかわる実践的で理論的な共通基盤を提示するとともに、地域生活の充実に必要不可欠な法制度の改善と条件整備の拡充の課題を明確に示しました。

 社会福祉基礎構造改革以降、はたして福祉・介護サービスに係る現実はより安定するようになってきたのでしょうか。事業者報酬の改定に象徴されるように、むしろ支援現場の戸惑いを産みかねない不安定要素が拡大しているように思えます。

 障害者権利条約のスピリットは、“Nothing About Us Without Us”(「私たちをぬきにして私たちのことを決めないで」)にあります。したがって、障害のある人の意思決定を起点に据えて地域生活のあり方を深めていく方針を、本書全体に貫いています。

 障害当事者とその親・家族をはじめとして、施設・事業所の支援者職員、社会福祉法人の幹部職員、自治体関係者等、多くの方々にお読みいただくことによって、これからの新しい地域生活の充実・発展ために多くの人たちの協働が生まれることを願っています。

川越八幡宮の紫陽花

 さて、梅雨の時節は、紫陽花が見頃ですね。紫陽花の色の移ろいに魅力を感じるのか、はたまた虚しさを感じるのかについて、最近の政治家の言動の移ろいが交錯して考え込んでしまいました(笑)