メニュー(閉じる)
閉じる

ここから本文です

宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ

宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。

プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

大阪府生まれ。現在、埼玉大学教育学部にて教鞭をとる。
さいたま市障害者施策推進協議会会長等を務め、埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

新刊からのはじめての学習会

 秋分の日、新刊書『地域共生ホーム-知的障害のある人のこれからの住まいと暮らし』(全国知的障害者施設家族会連合会編著、中央法規出版)にかかわる関東地方の関係者の学習会が東京で開かれ、講師として参加しました。

 障害福祉サービスの利用者にとって重要なこの本の要旨と活用方法についてお話しました。その後でご質問を受けたところ、利用者とその家族にとって現行制度の仕組みがまことに分かりづらい点と、障害福祉サービスの利用者と事業者・施設の間に民主的に討議できる文化が丸で育まれていない点に、かなり集中した問題指摘があったように受け止めました。

 利用者・家族にとって理解不能な現行制度の仕組みについて、本書「第3章 職員の専門性の向上と待遇改善を求めて」(53-104頁)から拾うと、たとえば次の点があります。

 障害者支援施設の生活介護は年中無休の365日間で実施している実態があるのに、報酬請求は土曜・日曜を休みとする通所サービスの生活介護の支給決定上限日数269日とされてしまう点です。

「生活介護」という概念から言えば、障害のある人の介護の必要は365日の年中で途切れることなくある訳ですから、なぜ上限日数を269日にしているのかを利用者・家族は理解できないのです。

 この間、参議院のれいわ新選組の障害のある国会議員の「仕事中の介護」が、制度的には支給されない仕組みになっている問題とよく似ています。「仕事は経済活動であるから介護サービスを支給しない」という説明を当事者が理解できる訳はありません。

 要するに、サービスの支給総量を抑制するための論理を優先させているだけの話でしょうから、サービスを利用する側から言えば「屁理屈」の類にしか受けとめることはできないのです。

 職員配置と事業者報酬の関係についても、とても理解できない点があります。利用者の必要に応えるために人員配置率を最大に上げて、「人員配置体制加算」の配置率1.7:1(利用者1.7人に1人の職員配置)にすると現行制度の加算単価は2,120円/日(利用定員60人の場合)となります。

 ところが、人員配置率を1.7:1の「加算単価」では、配置率3:1(利用者3人に職員1人)の場合よりも、職員一人当たりの報酬は低くなるのです。つまり、人員配置率を上げないようにした方が施設にとっては「お得」という仕組みになっているのです。

 制度の仕組みに「利用者そっちのけ」の部分を放置したまま、障害者支援施設で「利用者主体のサービス」を実現しなさいといわれても、いかにも間尺は合わない。「利用者主体のサービス」という制度上の理念を実現しうる制度設計ができていない点は、利用者からは全く理解できません。

 もう一つは、サービス利用契約や個別支援計画への同意・捺印が、形骸化している問題にかかわって、事業所・施設・社会福祉法人のあり方に利用者・家族は、本心・本音を「とても言えない」という問題の指摘です。

 障害者支援施設は入所待機者が山のようにいて、サービスを利用する側よりもサービスを提供する側に圧倒的な力の優位性があります。サービス提供事業者に競争原理は全く働いていません。このようなパワーバランスの下で、「対等・平等な関係」における話し合いをするというのはとても無理です。

 平たく言えば、「次回のサービス利用契約で更新せず、打ち切られるかもしれない不安」に利用者・家族はさらされてしまうのです。

その上、先に指摘したような「制度の仕組みの難解さ、分かりづらさ」を利用者・家族が乗り越えて問題の所在を明らかにした上で、話し合いを作っていかなければならないのです。すると、サービスを提供する側を前に利用者が話し合いを作っていくハードルは、とても高いと言っていい。

 つまり、携帯電話の通信料金のように「何がお得になるのかは、にわかには理解できない仕組み」にしておいて、サービスを提供する側に説明責任を尽くそうとする実態があるのでもなく、「討議と民主主義」(ユルゲン・ハバーマス)の文化を福祉の現場に創ろうとしている訳でもない。このような現実に、とても納得できないという声を頂戴しました。

 『地域共生ホーム』で表した障害のある人の住まいと暮らしのあり方は、福祉制度・福祉サービスの現場のあり方を含めての文化的刷新を提案している「企画書」なのです。この企画のプロデューサーは、障害のある人たちとその家族に他なりません。それが即ち、社会福祉における当事者の参画です。

台風一過の青空-東京で

 千葉県には先の台風で甚大な被害がありました。それに輪をかけるように、また台風が無情にもやってきて、束の間の青空はあっても、束の間の安心さえ抱けないような状況が続いています。

 消費税率の上がる10月1日を前に、テレビやインターネットのショッピングセールは騒がしいですね。いくつかの日用品の値段を1か月ほど追跡していたのですが、「増税前の今がチャンス!!」と言いながら値上げしているものもいくつか発見しました。

 今回の消費税率の引き上げは、キャッシュレス・サービスの普及という目的を混ぜ込められてしまったので、「何がお得なのか」さっぱり分からない問題が生まれています。いうなら、障害福祉の現行制度と同じように分からない。「納税者そっちのけ」の税率アップです。

 仕事で忙しいのに、各社が参入した「○○ペイ」とか「ペイペイ」を全部調べ上げる暇もやる気もありません。オジサン世代とさらに上の年代の方々に「どれがお得なんですか」と訊ねてみると、私が訊ねた人は全員、「子どもに説明を受ける」「甥っ子・姪っ子に訊くことになっている」と答えます。私も、結局、娘のお世話になりました。

 福祉・介護サービスの分かりづらい仕組みに輪をかけるような、消費税率のアップとキャッシャレス・サービスの難解さを介して、わが国の社会システムは民衆の生活現実にさらなる格差を拡大する方向に向かっているのでしょうか。