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宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ

宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。

プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

大阪府生まれ。現在、日本障害者虐待防止研究研修センター代表。
長年、埼玉大学教育学部で教鞭を勤めた。さいたま市社会福祉審議会会長や障害者施策推進協議会会長等を務めた経験を持つ。埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)、『障害者虐待-その理解と防止のために』『地域共生ホーム』(いずれも中央法規)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

Social Exclusion-2つの差別・虐待事案から

 この1週間は、耳を疑うような差別・虐待の事案が2つ明らかになりました。一つは、山口県下関市の障害福祉サービス事業所職員による知的障害のある人への暴行・脅迫行為からなる虐待事案です(https://www.youtube.com/watch?v=Di2ZH2BINSM)。もう一つは、室蘭市で5月23日に予定されていた視覚障害のある人たちの卓球交流会が、盲導犬同伴での宿泊をホテルに拒否されたために中止になっていたという差別事案です(http://dd.hokkaido-np.co.jp/news/society/society/1-0139008.html)。

 下関市の障害者支援事業所の虐待は、元職員の画像による内部告発からFNNが報道しています。まるでチンピラやくざのような複数の男性職員による、男性利用者への著しい人権侵害・傷害行為です。

利用者の顔面を複数回強く殴打する、「言うことを聞かない」ことを口実に「今日のごはんなし」と見せしめ的懲戒を重ね、胸ぐらをつかんでは「どっちの職員がいいのか」と脅迫し、段ボール箱その他で利用者の頭を叩くなど、生々しい映像が報道されました。

 この施設は、1984年に開設していますから、「今ここで」発生した虐待では絶対にありません。開設当初から、支援の教訓や専門性を蓄積したことはなく、心無い職員だけがこの事業所に残っていくという職場で、地域の社会資源不足にあぐらを掻いて、漫然と経営と運営を重ねてきたという法人事業所ではないでしょうか。まさに、業界の構造的問題を反映した虐待事案です。

 施設長、サービス管理責任者はこの事実を毎日見ているのですから、すでに「つける薬のない」状態にある法人組織だと強く疑われます。下関市は、改善指導ではなく、事業所の指定を取り消すと同時に、利用者の告発を支援し、刑事事件としても立件する方向に動くべきだと考えます。このような事業所を改善指導だけで放置すれば、千葉県立施設で発生したような虐待死亡事件に行き着いてしまう現実的可能性があるからです。

 この施設従事者等による虐待の映像は、作業をする場面のものでした。職員には、支援の専門性は皆無だと断定できます。作業工程を障害特性に係わって分析し再構成するシステマティック・インストラクションをした形跡はなく、障害特性に関する専門的知見のイロハさえ認められません。あるのは、「言うことを聞かせる」ための暴力と脅迫です。

 このような実態の事業所が、「障害者支援事業所」として行政機関から「指定」され「認可」されること自体の問題を取り上げない訳にはいきません。「チンピラやくざ」の類が「支援者」面をして、「行き違いややり過ぎはあったかもしれないが、自分たちはこの人たちを思ってこそ頑張っているのだ」と、まず間違いなく言い張るのがこの手の連中の救いがたい病理です。指定や認可の要件を抜本的に改める新たな立法措置を講ずるべきだと、私は主張します。

 もう一つの差別事案。これは明白な身体障害者補助犬法違反であり、北海道差別禁止条例にも違反する差別です。北海道新聞の報道によると、宿泊を拒んだホテルは、「数年前にペットの犬を持ち込み、糞尿のにおいと抜け落ちた毛の清掃で客室が数日使えなくなった」として、「盲導犬にも犬特有のにおいがあると思うし、抜け毛が心配」と話したと伝えています。

 視覚に障害のある人たちの卓球やブラインド・テニスを観ると、私は心を打たれます。音を鳴らす球とはいえ、転がってくる球ではなく、空中を飛んで来る球を打ち合うさまは、実に驚異的で感動を覚えます。平城京の時代から、全盲の人には晴眼者にない卓越した能力があるとして、僧になる道が開かれていたというエピソードが胸をよぎります。

 そのようなすばらしいスポーツを通じて交流を図ろうという企画が、無知蒙昧で差別的な室蘭のホテルのために中止に追い込まれたというのですから、北海道はこのホテルを指導した上で、十分な認識と運用の改善がない場合には、ホテル名を公表すべきでしょう。

 さて、これら二つの事案に接し、わが国は、はたして障害者権利条約を締結しているのか、はたまた障害者虐待防止法や障害者差別解消法を成立させているのか、疑わしい思いに駆られる関係者はさぞや大勢おられることと思います。現在の法制度は、虐待防止や差別解消を何ら進捗させることなく、有名無実だといえはしないのかと。

 障害者の権利条約は、社会的なインクルージョンを権利としています。ところが、これら二つの事案は、社会的排除(エクスクルージョン)の極みです。つまり、〈虐待者-被虐待者〉〈差別者-被差別者〉という二者関係に閉じられた問題ではなく、構造的に産出された社会問題であるからこそ、虐待防止や差別解消には個別性と全面性をもった手立てが講じられなければならないということです。

高知県産仁淀川山椒

 さて、実山椒は私の好物の一つです。先日、NHK「今日の料理」で「実ざんしょうの塩漬け・しょうゆ漬け」(5月18日放映、NHK出版テキスト『今日の料理』5月号、82-87頁)を観ました。実山椒さえ入手すれば、作ることは「実に簡単、すぐ完成」と私は受けとめました。しかも、煮沸消毒した瓶に詰めれば「1年は日持ちします」というところも実に魅力的。

 作り置きすれば、向こう一年間は「いつでも好きな時に実山椒を食べることができる」と意気込んで、さっそく、極上の高知県の仁淀川山椒を買い付けました。思いのほか安かったため、1箱500gを2箱購入したのです。

 ところが、「想定外の事態」に直面しました。「実ざんしょうは小枝から外しながら、水につける」ところは、テレビではものの10秒程度で次のあく抜き場面に移りましたし、NHKテキスト『今日の料理』でもさらりと通り過ぎるだけで、所要時間も書いていません。

 しかし、実際にやってみると、500gの実山椒を小枝から外すのに3時間はかかります。それで、2箱ですから、6時間延々と、黙々と、実山椒を小枝から外す作業にかかりっきりとなりました。

 作業開始は午後22時。観念的想定では24時までにすべての工程を終え、「実ざんしょの塩漬け・しょうゆ漬け」が完成しているはずでした。しかし、最初に1時間ほど作業を進めたところで、事態の深刻さを自覚します。「明日に続きをしようか」とも思うのですが、このような青果は「鮮度が命」と考え、あく抜きまでやり遂げようと決意。

チリメン山椒-旨っ!

 結局、空が白んできたころに何とか「あく抜きまで」を達成し、パタン休。翌日、作り上げたチリメン山椒を熱いご飯にのせてほおばると、ひときわ香り高く美味な一品に仕上がっていました。NHKの「今日の料理」さん、専業主婦だけが料理を作っている時代じゃないのだから、手間と時間のかかるところはちゃんと説明してほしい!!

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