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梶川義人の虐待相談の現場から

梶川 義人 (かじかわ よしと)

様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。

プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)

日本虐待防止研究・研修センター代表、桜美林大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。

一から出直し

 新型コロナウイルスは私たちに、日常の暮らし方から社会全体のあり方まで、実に多くのことを見直させています。私は今、来週から始まる遠隔授業の準備に追われながら、しみじみそれを実感しています。

 その最中、九州大学名誉教授の小田垣孝先生による「新型コロナウイルスの蔓延に関する一考察」の主旨を知り衝撃を受けました。先生の試算では、新規感染者数が10分の1に減るのに要する日数は、PCR検査数が今の倍になれば接触機会5割減でも14日、検査数が4倍なら接触機会を削減しなくても8日になるそうです。

 「感染経路不明者がある程度増えたら、検査によって感染者を特定して隔離する」ほうが合理的だろう、と考えてきた私にすれば「さもありなん」です。精度の高い検査数が増え、「オール自粛」から「ピンポイント自粛」へと移行して欲しいと願うばかりです。

 ところで、高精度の検査数を増やして隔離する戦略は、虐待への取り組みと似ています。当事者をいち早くみつけ出し、集中的に支援をするスタンスだからです。そして、被虐待者でさえ声をあげないなど、隠蔽性の高い問題であるという特徴をふまえ、人々に遍く広く虐待問題の存在を啓発し、疑いを持ったら即通報してもらうような体制にしています。

 もっとも、「通報によって把握できるのは氷山の一角なのではないか」といつも心配されていますから、高精度の検査数はなかなか増えず、ピンポイント自粛も進まない状況とは、何か通じるものがあるのかもしれません。

 また、虐待の好発の構図は概ね、感染症対策において避けるべきとされる3密(密閉、密集、密接)と同じであり、この点でも似ています。虐待も感染も、距離的に「近い関係」にある者同士の間で発生しやすいからです。

 しかし、「近い関係」は、役割集団や情緒集団として必要であるがゆえに近いのであり、これを離し過ぎれば何らかの支障が出てきます。たとえば、外出自粛で社会的活動から離れた人が、家庭内では近づき過ぎになり、感染や虐待のリスクが高まることはその一例です。

 離れ過ぎも近づき過ぎもいけないのですから、間合いのとり方とは何とも難しいものですが、「適度な距離」を見極めないわけにはいきません。それなのに、感染症に限らず虐待の対策でもよく「必要なデータがとられていない」、「データのとり方がおかしい」、「修正までのスピードが異常に遅い」など、あまりに問題が多過ぎます。

 背景にICT活用の遅れがあるのかもしれませんが、私は、市井に生きる人々のリアルな生活実態を科学的に把握するという、はじめの一歩からやり直す必要があると思います。さもなければ、きめ細やかで理にかなった対策は考えられず、本当に役立つ「新しい生活様式」の提案には程遠いのではないでしょうか。

 「どん底から這い上がるために一から出直す」くらいに腹をくくりたいものです。

「やり直しても良いぜ」
「偉そうだけど、まあいいか」