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梶川義人の虐待相談の現場から

梶川 義人 (かじかわ よしと)

様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。

プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)

日本虐待防止研究・研修センター代表、桜美林大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。

疑わしきは罰する!?

 先日、旧知の間柄である埼玉大学の宗澤忠雄先生と、埼玉県虐待禁止条例についてお話したのですが、条例の運用に関する心配が出てきました。というのも、中国からの留学生たちから「虐待は犯罪ではないのか?」という質問を受けたばかりだったからです。

 音声翻訳機だよりのやりとりなので、私が誤解しているのかもしれませんが、「中国では虐待は犯罪」だそうです。私が、日本では犯罪として扱われる虐待と、犯罪ではない虐待がある旨を伝えると、彼らは「何だかよく分からない」といった怪訝な表情をしていました。

 確かに、中国のほうが分かりやすくはあります。日本では、虐待行為の殆どは刑法で規定されている行為ですが、刑法は「法は家庭に入らず、疑わしきは罰せず」であるのに対し、虐待防止法では、「法は家庭に入る、疑わしきは対応する」となり、悩ましいことが山ほど起こるからです。

 しかし、それでも私は、「法は家庭に入る」と「疑わしきは対応する」の精神は大切にしたいと思います。とくに、「疑わしきは対応する」ところで、虐待者から脱却するための教育的な対応は、険しい道のりなのだとしても諦めたくありません。

 刑罰として自由を奪い作業を強いる刑務所の矯正処遇でさえ、再犯防止への実効性の乏しさから、教育面の強化にシフトチェンジしている昨今でもあります。また、次回、詳しく書きたいと思いますが、虐待発生の仕組みと対応の機序について、少し見えてきた気もしているのでなおさらです。

 こうした経緯から改めて埼玉県虐待禁止条例を読み直すと、このブログ「凄いぞ!彩の国。」で、虐待禁止条例の凄さをご紹介したものの、虐待防止法に追加されたり、内容が明示されたり、新たな規定が追加されたことにより、虐待認定の範囲だけ広がっただけのようにも読み取れます。

 本来なら、未然防止(一次予防)、早期発見・早期対応(二次予防)、悪化・再発防止(三次予防)に関して、体制整備から支援者の教育・訓練にいたるまで、キチンと整える必要があります。しかし、これらに抜かりがあるなら、条例には虐待者への処遇に関する規定がないため、応報刑論的処遇の方向に進みかねません。

 そして、虐待者への応報や虐待者に贖罪を求める方向で条例が運用されたら、「法は家庭に入る」うえに「疑わしきは罰する」傾向が助長されてしまいます。ですから、虐待認定の範囲を広げるなら、その分、虐待者が虐待をしなくても済むようにする、教育的な対応もしっかりと強化する必要があるわけです。

夫「浮気は冤罪だよ!」
妻「疑わしきは呪う!」

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