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梶川義人の虐待相談の現場から

梶川 義人 (かじかわ よしと)

様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。

プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)

日本虐待防止研究・研修センター代表、桜美林大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。

タイヤ・チューブに空いた穴

 私には、「昔の大人たちは何でも自分で修理をしていた」という記憶があります。とくに、祖父母が農家だったせいもあるかもしれません。自転車のパンクなど、いともたやすく修理していたものです。タイヤのチューブをはずして水につけ、穴の開いた箇所を特定し、そこにゴムを貼りつけて、という具合です。

 先日、この記憶を呼び覚ます出来事がありました。研修の講師としてある男女平等推進センターを訪れたときのことです。私が日頃抱いていた疑問の答えが、まるで「チューブに空いた穴の見つけ方に似ている」と思ったからです。

 疑問というのは、「わが国の指導的地位にいる女性の割合は何故、人口の男女比と比べてずっと低いのか」です。政府は、成長戦略の一つとして、2020年までに指導的地位に女性が占める割合を30%以上という目標を掲げましたが、実際には1割程度にしかなっていません。

 そこで私は、「自転車のパンクを見つけるのに、丹念にチューブの傷をみていくスタイルのようだ」と感じたわけです。確かに、黒いチューブの小さな穴を見つけるのは容易ではなく、探すのに時間はかかりますし、見落とし易くもあります。

 つまり、既存の社会的システムの問題(穴)かを探索していくスタイルは、理にかなっているようですが、そんなに簡単に問題を特定できるのか、という疑問がわきます。社会的システムはとても複雑にからみあっていて、因果関係までも考えるなら、問題の特定は相当難しそうです。そのうえ、たった一つの小さな穴も見逃せませんし。

 しかし、チューブに空いた穴は、チューブを水につければすぐに発見できます。たとえ小さな穴でも、チューブ内の空気はそこから漏れ出て、水泡が出てくるからです。

 指導的地位にいる女性の割合の例であれば、さしずめ、はじめから人口の男女比に合わせるに等しいと言えます。「人口の男女比と同じ割合」を水に、社会的システムを「チューブ」に見立てるわけです。そして、チューブを水につけ、穴の空いた箇所を見つけ出し、塞いでいきます。

 考えてみれば、女性が主役の社会問題は少なくありません。厚生労働省の「平成27年度 高齢者虐待対応状況調査結果概要」によれば、従事者による高齢者虐待の被虐待者の73.4%は女性であり、養護者による高齢者虐待の被虐待者は、76.8%が女性です。

 また、内閣府の「平成28年版 高齢社会白書」をみると、介護保険の介護サービス受給者の70.8%は女性であり、厚生労働省の「平成28年 国民生活基礎調査」では、同居介護者の66.0%は女性だといいます。

 こうして、大きな社会問題である高齢者介護の問題でも、ズバリ主役は女性です。それなのに、男性中心の社会システムという眼で、チューブに空いた穴を探し続けようとするのは、到底建設的だとは思えません。私たちはしょせん、自然には抗えないのではないでしょうか。

妻「女と男、1:1」
夫「力関係は3:1…」