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梶川義人の虐待相談の現場から

梶川 義人 (かじかわ よしと)

様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。

プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)

日本虐待防止研究・研修センター代表、桜美林大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。

ポンコツ料理人の憂鬱


いくら道具が良くても

 少し前の話になりますが、実母が女児を暴行死させるという虐待事例が発生しました。担当した児童相談所は、全国に先駆けてAI(人工知能)のリスク評価システムを導入していたものの、「保護確率39%」という結果を軽くみて保護しませんでした。

 情報通信技術(ICT)の活用に度々言及してきた私は、関心をいだき少し調べてみました。やはりいくつかの問題があったようです。1つには、対面による安否確認をせずにデータ入力しており、データの妥当性と信頼性に疑問符がつきます。

 2つには、保護する確率の判断基準が非常に曖昧なことが気になります。統計の「有意水準」とまでは言いませんが、3段階なり5段階なり、ある程度のグレードは設定しておかないと、「当て推量で判断した」と言われても仕方ありません。

 ですから、リスク評価システムそのものというより、使い方に問題があったのだと思います。質の悪いデータを用いて最終的に当て推量で判断するのでは、妥当性と信頼性の担保できません。もっとも、私たちも人のことを言える立場ではありません。

腕を磨きましょう

 というのも、私たち日本人のICTリテラシーはかなり低く、「ICT先進国が現在なら、日本は江戸時代」と言う識者もいます。行政の施策・計画のなかでも散々、ICTの利活用が謳われているものの、具体的でないことが多いため、納得せざるを得ません。

 ですから、子ども家庭庁が、一時保護の要否判断にAIを活用する国のシステムを開発中だとしても、手放しでは喜べません。いくら道具が良くても、料理人がポンコツでは美味しい料理を期待できないように、「猫に小判」になりかねないからです。

 私は、一番大切なのは、「AIによる可否判断」の真の価値(強みと弱み)が分かるのは、虐待事例への対応に必要な知識と技術を持つ者だけだ、ということだと思います。したがって、まずは虐待問題の専門家の養成に注力したいところです。

 虐待問題は、発生件数の絶対数が多く、また、対応困難な事例が多いことを考えあわせると、専門の養成機関が必要不可欠であると思います。たとえば、家庭裁判所の調査官や警察官の養成などを参考にすると、良いのではないでしょうか。

 かつてこのブログで、「実践・教育・研究の要素が三位一体で展開する仕組み」の必要性を訴えましたが、今まさに、その実現に向けて動く、絶好の機会であると思います。

「レシピ通りに作ったのに…」
「ポンコツ料理人の憂鬱ですね…」