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梶川義人の虐待相談の現場から

梶川 義人 (かじかわ よしと)

様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。

プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)

日本虐待防止研究・研修センター代表、桜美林大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。

備えあれば憂いなし


医療ネグレクト

先日、加藤厚生労働大臣は、ある宗教団体の元信者を支援する弁護団からの「子どもの輸血を拒否させるよう指導することなど、教団に児童虐待の可能性がある」という訴えに対し、「医師が必要だと判断した子どもへの輸血を含む治療行為を保護者が拒むことはネグレクトに該当する」と述べていました。

 本人による輸血拒否なら、実はわが国でもかなり以前から問題になってきました。1992(平成4)年、宗教上の理由から輸血拒否をしていた信者が、手術のときに無断で輸血を行った医師と病院に対し損害賠償を求め訴訟を起こし、輸血拒否や自己決定権について争われた裁判などはつとに有名です。

 判断能力の乏しい子どもの輸血を、保護者が宗教的な理由から拒否をする事例も、実はかなり以前からあって、厚生労働大臣の言葉を待たずとも「ネグレクトにあたる」と考えられてきました。そこで、数多くの医学系の学会や病院は、輸血拒否をする人々への対応のガイドラインを作成して、運用しています。

 しかし、子どもに不利益が生じるのは、輸血拒否に限ったことではありません。実際、「医師が必要だと判断した医療行為の保護者による拒否」について、厚生労働省雇用等・児童家庭局総務課長通知「医療ネグレクトにより児童の生命・身体に重大な影響がある場合の対応について」(平成24年3月9日、雇児総発0309第2号)も出されています。

備えあれば憂いなし

 こうした文脈からすれば、判断能力が乏しくなった障害者や高齢者の場合も、養護者が医療行為を拒否するなら、医療ネグレクトを疑うのが自然だと言えます。また、必要な介護サービスに関しても、専門家が必要だと判断しているのに養護者が拒否をするなら、同様にネグレクトだと考えられると思います。

 実際問題、私も事例検討会でこうした事例にはよく出くわします。ただし、その背景は宗教上の理由だけではありません。養護者が、自己流のやり方や民間療法の方が「医療より正しいのだ」と思い込んでいたり、経済的搾取を狙って介護サービス費を抑えようとしていたり、かなりバラエティー豊かです。

 いずれにせよ、対応するにあたっては、「『意思決定支援』の支援」「狙え!意思決定支援の一石二鳥」で述べてきた「意思決定支援」を軸に支援展開します。そのため、自ずと多専門職・多機関間協働のチーム対応が前提となります。

 もっとも、こうした養護者たちは、ある程度類型化できそうなので、既述の「医療ネグレクトにより児童の生命・身体に重大な影響がある場合の対応について」などに倣って、想定される事態にどう対応するか、ガイドラインくらいは作成しておいた方が良いかもしれません。まさに「備えあれば憂いなし」です。

「ガイドラインは、必要です…」
「説得力あります…」