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「生きる・暮らす・よりよく暮らす」を実現するための経済的支援

第5回:12府県462市町村における医療費助成の調査結果からの考察

日本福祉大学 青木聖久

 第5回では、12府県462市町村に対する調査結果をふまえた、考察内容をお伝えします。これを通じて、皆さんの地域で、精神障害者保健福祉手帳(以下、手帳)1級及び2級所持者に対する①精神科の通院、②精神科の入院、③精神科以外(一般科)の通院、④精神科以外(一般科)の入院、というすべての範囲(以下、①~④の範囲)での医療費助成の実現につながればと願うばかりです。

医療費における医療保険証、自立支援医療(精神通院)との関係

 連載の3回目では、医療費の自己負担、自立支援医療について紹介しました。少しそのおさらいをします。例えば、精神科に通院した際の保険適用分の医療費が10,000円だった場合、健康保険や国民健康保険等の保険証を窓口に提示することで、多くは、自己負担はその3割になりますので、3,000円ですみます。自立支援医療を申請すれば、月額上限額が2,500円~総医療費の1割になります。仮に、1割負担であれば1,000円です。ここまで、よろしいでしょうか。

自立支援医療を必須にしていない市町村

 調査を通じて、手帳1級及び2級所持者に対して、①~④の範囲について、医療費助成を実現している岐阜県・山梨県・奈良県のすべての市町村では、必ずしも自立支援医療の利用を要件にしていないことがわかりました。
 仮に、自立支援医療の利用を医療費助成の要件にすれば、精神科の通院に限られるものの、例えば保険適用分の医療費のうち、その7割が医療保険から給付され、自立支援医療で2割が給付された場合、市町村の負担は1割(岐阜県・山梨県・奈良県の3県は要綱を定めていますから、その2分の1を県が補助し、市町村の負担は0.5割)ですむことになります。
 一方、自立支援医療の利用がなければ、市町村の負担は3割(都道府県が要綱を定めていれば1.5割)となります。

医療費助成(福祉医療)を実現するために自立支援医療の有効活用を

 財政面からすれば、利用できる社会制度を順番に使い、最後に残った部分のみ負担すれば、市町村の負担は最小限ですみます。
 実際、医療費助成の実施に二の足を踏む背景として、財源の問題があることはいうまでもありません。そう考えれば、精神科の通院に限られるものの、自立支援医療を、医療費助成を利用する際の要件にして有効活用できれば、市町村の負担はかなり減少します。
 したがって、手帳1級及び2級所持者に対して、医療費助成について要綱を定めていない都道府県においては、まず、①精神科の通院から始めてもらえればと思います。

滋賀県は自立支援医療を必須にした医療費助成方式

 実際、滋賀県では要綱で、自立支援医療の利用を、医療費助成の要件として定めています。
 したがって、滋賀県内の市町村における、医療費助成(手帳1級及び2級所持者に対する精神科の通院に対する給付:自己負担なし)の流れは次のようになります。

  • ① 精神科の通院において、利用者は自立支援医療を必須として、申請する。
  • ② その結果、利用者の自己負担分は、(所得に応じて)2,500円、5,000円、10,000円、総医療費の1割等になる。
  • ③ 市町村が「手帳1級及び2級所持者に自己負担分を給付する」という条例を定めることによって、その自己負担分に対して市町村が医療費を給付する。
  • ④ その場合、滋賀県の定める要綱に基づき、最終的な市町村の負担額は2分の1になる。

 まさに、滋賀県の取り組みは、自立支援医療を優先した形での医療費助成だといえます。まずは、ここから始めてもらえればと思います。

手帳1級及び2級所持者に対する要綱等の存在の意義

 愛知県の定める要綱では、手帳1級及び2級所持者に対して、①精神科の通院、②精神科の入院のみを医療費助成の対象にしています。
 要綱の規定をふまえつつ、愛知県では、すべての市町村が、①精神科の通院、②精神科の入院、③精神科以外(一般科)の通院、④精神科以外(一般科)の入院を含めた、①~④の範囲について医療費助成を実施しています。
 一方、長野県の定める要綱では、手帳1級及び2級所持者に対して、①精神科の通院、③精神科以外(一般科)の通院を、医療費助成の対象としているものの、約63%にあたる25の市町村が、①精神科の通院、②精神科の入院、③精神科以外(一般科)の通院、④精神科以外(一般科)の入院を含めた、①~④の範囲について医療費助成を実施しているのです。
 さらに、両県のいくつかの市町村では、①~④の範囲について、手帳1級・2級だけでなく、3級まで医療費助成の対象としています。これらをみれば、市町村は、必ずしも県の基準にしばられていないことがわかります。

部分的にせよ手帳1級及び2級所持者を対象にした要綱の定める規定は重要

 今回の調査でわかったことは、県の定める要綱どおりの医療費助成を実施している市町村がある一方、対象範囲を広げている市町村が認められるということです。たとえ部分的にせよ、都道府県の定める要綱で、手帳1級及び2級所持者を対象としていることには深い意義があるといえるでしょう。

市町村の規模や財政状況と医療費助成の実施は別物

 すでに紹介したとおり、長野県では25の市町村が、①~④のすべての範囲について、医療費助成を実施しています。実は、その25の市町村のうち、10の市町村については、手帳の3級も対象に、①~④のすべての範囲について、医療費助成を実施しています。
 しかも、それらの10の市町村の内訳をみると、1市、2町、7村となります。これら10の市町村の財政状況まで調べることはできなかったものの、間違いなくいえることは、小規模市町村が手帳1級・2級・3級を対象とする医療費助成を実施しているという事実です。
 医療費助成を実施している背景として、これらの市町村はきっと、財政とは別の視点からその意義を見出しているのではないでしょうか。

静岡県の市町村の特徴ともいえる精神科の入院に対する医療費助成

 今回の調査において、当初知りたかったことは、手帳1級及び2級所持者に対して、①精神科の通院、②精神科の入院、③精神科以外(一般科)の通院、④精神科以外(一般科)の入院において、どれぐらいの市町村が医療費助成を実施しているのかということでした。
 調査を通じて、意外な取り組み状況を知ることができました。
 そのひとつが、静岡県内の市町村の取り組みです。静岡県では、ほとんどの市町村が精神科の入院に対する助成事業を実施しています。具体的には、市町村間で差があることは否めないものの、月額上限1万円~5分の3を助成しています。このように、精神科の入院医療に焦点を当てた取り組みは大きな特徴だといえるでしょう。