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福祉の現場で思いカタチ
~私が起業した理由わけ・トライした理由わけ

介護や福祉の現場で働く人たちはもちろん、異業種で働く人たちのなかにも、福祉の世界で自分の想いを形にしたいと思っている人は、実はたくさんいます。そして、今、それを実現できるのが福祉の世界です。超高齢社会を迎え、これからますます必要とされるこの世界では、さまざまな発想や理想のもとに起業していく先達が大勢いるのです。そんな先達たちは、気持ちだけでも、経営だけでも成り立たたないこの世界で、どんな思いで、どんな方法で起業・トライしてきたのか、一か月にわたって話を聞いていきます。行政への対応や資金集めなど、知られざる苦労にも耳を傾けながら、理想を形にしてきた彼らの姿を追います。


●インタビュー大募集
「このコーナーに出てみたい(自薦)、出してみたい(他薦)」と思われる方がいらっしゃったら、
terada@chuohoki.co.jp
までご連絡ください。折り返し、連絡させていただきます。

花げし舎ロゴ

花げし舎ホームページ:
http://hanagesisha.jimdo.com/

プロフィール久田恵の主宰する編集プロダクション「花げし舎」チームが、各地で取材を進めていきます。
久田 恵(ひさだ めぐみ)

北海道室蘭市生まれ。1990年『フイリッピーナを愛した男たち』(文藝春秋)で、第21回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。
著書に『ニッポン貧困最前線-ケースワーカーと呼ばれる人々』(文藝春秋・文庫)、『シクスティーズの日々』(朝日新聞社)など。現在、読売新聞「人生案内」の回答者、現在、産経新聞にてエッセイを連載中。

第3回 ④ 三村千栄子 ミライブ 代表取締役
継続してこその起業。
働く仲間の人生観も大切にしたい

ミライブ 代表取締役
三村千栄子(みむら・ちえこ)
1956年東京生まれ、千葉育ち。
18歳で東京都品川区に転居して以来、結婚後も品川区内に住み続けるほど大好きな地域に。大学に通う傍ら商社の子会社に就職、その後転職先の倒産を経て、「同じ働くのであれば自分にとって天職と言えるような仕事に就きたい」という思いに。育ての親でもあった祖母が常々言っていた「働くとは、側(ハタ)をラクにすること」を思い出し、友人の勧めもあり、1994年介護職に転職。2018年9月居宅介護支援事業所と訪問介護事業所を起業。

            
  • ミライブ 花笑みケア 品川(株式会社ミライブ)
    TEL 03-6417-1351
    

前回は、起業に欠かせない理念や社名、オリジナルロゴの誕生などについてお伺いしました。
最終回の今回は、直近の課題や近未来の展望などについてお伺いします。


──直近の課題は?

 幸いご利用者の方には恵まれましたので、PR活動の焦点は働き手の確保です。ケアマネの立場で事業所さんなどに挨拶に伺っても仕事量に対する人手不足を実感しています。スタッフの確保と同時に組織の基盤もしっかりし、スタッフ育成をしながら離職による悪循環を断ち切り、いいサービスにつなげるような流れを確立したいです。

 スタッフが「この会社が好き」「この仕事が好き」と思える会社にして一緒にやって行きたい人を増やしたいし、自信を持って「一緒に働こうよ」と言えるような会社にしたい。それが一番なのかなって思っています。

──具体的な方策は?

 離職は決して悪いことではないと思います。プラス的な離職であればいいのですが、疲弊という形で介護職から去っていってしまうようなケースは防ぎたい。そのためには健全な就業環境の確立とハッキリとルールや処遇等をわかりやすく明示することです。

 介護業界は成熟していない部分が多く、就業規則や処遇面が守られていないような事業所も多数目にしてきました。ハッキリと見えるカタチでの評価をし、それを次につなげていく…というような、あまり複雑にしないことですね。単純な方が逆に明確だと思います。

 もう一つは“継続してこその起業”だと思うので、経営者としてシビアに数字を見ていくし、時には厳しい決定もしていかなければならない。

 言いにくいことを言えるような代表でなければならないと肝に念じています。それをどうやって伝えて理解してもらうか、それがみんなの総意になっていくように自分の思いも言葉にして伝えることが大事だと思っています。そういうコミュニケーションが枯渇してしまうと心が離れていってしまいます。ご利用者の方もそうですけど、働く仲間の夢だったり人生観だったり、そういったものも大事にしていきたい。

──これからの夢やビジョンは?

 今、地域密着や地域貢献というのがキーワードになり、言葉の中でいろいろ言われています。私自身は、本当に大好きな地域の中で自分たちの専門性を活かすことで、一人の人がこうなったとか、一人の人が変わったとか、小さなことでも地域の中で溶け込みながら、専門性を活かしてやっていくことです。

 その人の生き方は、働く人もご利用者の方のこだわりに対して、自分たちはどれだけこだわっていけるのかだと思うんです。

 小さいからどうとかいうのではなくて、どこに行っても通じるスタッフになるように会社としてサポートしていきたいと思いますね。単純に言えば、「いい仕事をするね」という。いい仕事はご利用者の方や地域にとってということになるかと思いますけど、いい仕事ができる会社でありたいですね。

ーありがとうございました。


就業規則が明示されている事業所内の様子

【インタビューを終えて】
 介護保険制度のことを知り尽くしているケアマネの起業は有利に働くのではないかと思っていたところ、一番役立ったのはケアマネの知識よりも人生を通じて培ったネットワークだったそう。次代を担う後輩たちにつないでいきたいという三村さんの話を伺い、人が場になり、人や時代を育んでいく場であると思いました。(取材・文:進藤美恵子)

【久田恵の視点】
 25年間、介護の現場で働き、この世界を知り尽くした上での、いわば満を持しての起業。三村さんは、きっと介護職の方たちのココロザシをつぶしてしまうような働き方の現状を改革できる方だと思います。自分が仕事を通して培ってきた価値観や、ネットワークや様々なノウハウを次代にどう伝えるか、これはリタイア世代と言われてきた六、七十代の新しい役割でもあるかと思います。実践によってしか伝えられないもの、とりわけ介護の仕事はそういうものですね。彼女のチャレンジに期待し、学びたいと思います。