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山口晃弘の超幸齢社会の最幸介護術

山口 晃弘(やまぐち あきひろ)

超高齢社会を実り多き「幸齢社会」にするために、
介護職がすべきこととは?
元気がとりえの介護職・山口晃弘が紡ぐ最幸介護術。

プロフィール山口 晃弘 (やまぐち あきひろ)

介護福祉士、介護支援専門員。1971年、東京都生まれ。高校卒業後、設計士、身体障害者施設職員を経て、特別養護老人ホームに入職し、介護職・生活相談員を務め、その後グループホームの管理者となる。
現在、社会福祉法人敬心福祉会 千歳敬心苑の施設長。著書に『最強の介護職、最幸の介護術』(ワニブックス、2014年)がある。

著書

『最強の介護職、最幸の介護術』
『最強の介護職、最幸の介護術』

 私たち世代の青春ソングにプリンセスプリンセスさんの『M』という曲があります。

 女性の視点から、お別れした彼(M)のことが忘れられず、その時から時が止まったままでいる切ない気持ちを唄ったラブソングです。

 老人ホームで働いていると、たくさんの別れを経験します。
 女性入居者Mさんは、私が今の施設に転職してきた直後にご入居されました。
 いわば同期。入居当時、既に90歳代だったMさんですが、見た目も若々しく、私の中ではお婆ちゃんというより、お母さんのような存在でした。

 Mさんはとにかく外に出ることが好きでした。普通の生活であれば、一日一回は外に出るのが当たり前のように感じますが、老人ホームの入居者一人ひとりがそのような生活をしているかというと、なかなかそうはいきません。
 当時の施設は、特に外出の機会が少ない状態でした。

 「一日一回…、ちょっとでもいいから、外の空気が吸いたいな」
 寂しそうにそう言うMさんの気持ちに応えたいと、私は少しの隙間時間を見つけては、Mさんを外に連れ出しました。
 一緒に近くのコンビニなどに行って、夏は冷たいものを、冬は暖かいものを一緒に飲んだり、ちょっと遠出してMさんの大好きなお好み焼きを食べに行ったり、東京タワーを見に行ったり…。

 そのMさんも今年94歳。お会いした頃はわりとぽっちゃり体型だったMさんが、今年に入り、食事や水分があまり進まなくなり、みるみる痩せてきました。
 お別れの時が近づいている…。長年この仕事をしていますから、そのことは感じていました。なのに、それに抗うかのように、Mさんを外に連れ出し、少しでも外の空気を吸わせたり、ジュースを一緒に飲んだり、アイスを食べたりしていました。

 専門職として、冷静に受け入れなければいけないことと、三年間一緒に過ごしてきた家族のような想い…。
 先日、Mさんは静かに旅立たれました。

 Mさんからいただいた想い出は、私にとって人生の財産です。
 Mさんが最後の日まで見せてくれた笑顔…。
 私にこれからも頑張る理由をくれました。

 Mさん、ありがとう。
 さよならだけど、さよならじゃない。
 Mさんは、これからも私の心の中で生き続けます。