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和田行男の婆さんとともに

和田 行男 (和田 行男)

「大逆転の痴呆ケア」でお馴染みの和田行男(大起エンゼルヘルプ)がけあサポに登場!
全国の人々と接する中で感じたこと、和田さんならではの語り口でお伝えします。

プロフィール和田 行男 (わだ ゆきお)

高知県生まれ。1987年、国鉄の電車修理工から福祉の世界へ大転身。
特別養護老人ホームなどを経験したのち99年、東京都で初めてとなる「グループホームこもれび」の施設長に。現在は株式会社大起エンゼルヘルプ地域密着・地域包括事業部 入居・通所事業部部長。介護福祉士。2003年に書き下ろした『大逆転の痴呆ケア』(中央法規)が大ブレイクした。

場面でのメンバー


 グループホームでも特養でも、介護施設の大小に限らず、よく見られる場面が「洗濯物たたみ」ではないでしょうか。
 椅子に座ってできることなので、足腰が弱くなっても・不自由な状態になっても比較的行いやすく洗濯物をたたむというわかりやすさもあるため、婆さんにとってとりかかりやすさがあるし、危険性も少ないといったような理由からでしょうか。
 つまり手っ取り早い「自立支援の姿」ってことです。

 今回ご紹介する写真は三点ともその光景を撮ったものです。共通するのは「洗濯物をたたむ光景」ですが、その背景にある「何のための支援か」は別物なのです。

 冒頭の一枚は、居室に二人います。
 窓側が「キクさん(仮名)」、手前が「ミツさん(仮名)」ですが、きくさんのお部屋でのことです。

 入居3年半経って、きくさんはいろいろなことができなくなってきていました。
 グループホームに入居してきた直後もそうはいきませんでしたが、「椅子に座ってテーブル仕事ができるようにセッティングする⇒テーブルの上に洗濯物を置いておく」という支援を続けることで、「それを目にする⇒自分からたたむ⇒タンスにしまう」という一連のことができるようになりました。でも、時の経過とともにそれが難しくなってきたのです。

 最初に難しくなったのが、タンスの中にしまうけれど何をどこにしまうのかわからなくなり、タンスの中がぐちゃぐちゃになってきました。その影響で、お風呂に行く前にパンツ一枚探しだすのが難しくなってもきました。そのため、写真にあるようにタンスの引き出しに「パンツ」とか「上着」とか書いて貼ることで、再び場所は適切に行えるようになりました。

 次にテーブルの上に洗濯物を置いておいても、それを目にしても、たたもうとされなくなりました。

 そこで、「昔からのおともだちなのよ」と言い合うみつさんに出番願う事にしました。
 二人は開設して最初に同日入居された二人ですが、そのことが影響していると思われますが、「昔からのお友だち」になっていました。

 「みつさん、きくさんの様子を見てきていただいていいですか」
 「きくさんって?」
 「昔からのおともだちの…」
 「あの方ね。どこにいるの?」
 「二階にいらっしゃいましたよ」

 そう伝えると、2階に上がっていったみつさんは、僕に聞かなくてもお部屋を探すこともなく、身体が憶えているかのようにきくさんのお部屋に行かれます。

 「どうしたの」
 「あら、こんにちは」
 「あれあれ、洗濯物がそのままになっているじゃない。手伝いましょうかね」

 と言ってたたみはじめました。
 しばらく経って見に行くと写真の光景になっていましたが、きくさんはみつさんに「悪いわね」とは言うものの、自ら手をつけようとはしませんでした。
 でも、みつさんがたたんでくれているのを眺めているうちに洗濯物に手をつけ、たたみはじめました。


 二枚目は、リビングです。
 前日に洗って干してたためなかったものや、夜勤中に洗って乾燥できたものを、誰も起きていない間に、リビングのテーブルの上に積み重ねて置いておきます。

 入居者には「自力で起きてリビングまで来られる人」「自力で起きられるが声掛け介助等が必要な人」「起床の声掛けが必要な人」「着替えまで支援が必要な人」など支援内容に違いがあり、リビングに集まって朝食を食べ始めるまでに時間差が生じます。

 ここでの洗濯ものたたみは、「その時間差の埋め合わせ」「婆さんたちが一緒に事にあたり関わり合いを生みだす」といったことに使わせていただきます。

 夜勤の僕が起床介助の必要な人にかかわっている間に、自力の方がリビングに起きて来られると、「テーブルの上の洗濯物を目にする⇒たたむ」が始まります。

 次に起きてこられた方は、その光景を目にして追随される方、自分からは手を出さないがそれを見る方が生まれます。

 この写真では、入居者8名中5名の方(ここまでに支援した方が2名)がいます。残り2名は自力で起きて来られますが、ひとりは遅めの方、もう一人は介助まで必要な方です。
 僕はこの光景を確認し、向こう側のカウンター(白い個所)に朝食のための「材料と道具」を出し目に見えるようにしてマサさん(仮名:立っている方)に、「まささん、洗濯物は他の方にお願いして、朝食の用意にお味噌汁をお願いしてもいいですか」と声をかけ、マサさんが調理を行い始めるのを確認したら、介助の必要な方のところへ向かいます。

 ここまで手配しておけば、他の方も洗濯物をたたみ終えると自然に調理に加わっていきます。
 もちろん最初からこのように進めることができたわけではありませんよ。


 三枚目は、同じように洗濯物を皆さん一緒にたたんでいる場面ですが、洗濯物をテーブルの上ではなく畳のところに積み上げて置くと、畳に座れる人は座ってたたみ、座れない人は椅子に座ってたたむので、畳に座れる人にとってはその機会を必然的に提供できるということであり、床から立ち上ることや座って足を伸ばすということが、自然に行えるということです。

 同じことでも、何に向かって行うかで成すものが変わるという事ですが、介護側が少し知恵を加えるだけで支援を受けた人たち同士、の新たな人間関係や生活環境が生まれてくるということで、それがこの仕事の専門性であり、介護職はクリエーターであるということの証なのです。