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和田行男の婆さんとともに

和田 行男 (和田 行男)

「大逆転の痴呆ケア」でお馴染みの和田行男(大起エンゼルヘルプ)がけあサポに登場!
全国の人々と接する中で感じたこと、和田さんならではの語り口でお伝えします。

プロフィール和田 行男 (わだ ゆきお)

高知県生まれ。1987年、国鉄の電車修理工から福祉の世界へ大転身。
特別養護老人ホームなどを経験したのち99年、東京都で初めてとなる「グループホームこもれび」の施設長に。現在は株式会社大起エンゼルヘルプ地域密着・地域包括事業部 入居・通所事業部部長。介護福祉士。2003年に書き下ろした『大逆転の痴呆ケア』(中央法規)が大ブレイクした。

違いを考察する


 介護とひと口に語られていることに疑問を感じている話はこれまでにも語ってきましたが、それとは次元の違う話で「介護の文化的違い」について感じたことがあります。

 沖縄の学生たちの実習等を受けた最終日に「どうでしたか」と感想を聞くと、皆一様に「デイサービスでもグループホームでも、利用者(入居者)自身ができるように職員さんがあの手この手で取り組んでいることに驚きました」と返ってきました。

 具体的にいえば、「何を食べたいかの意思を利用者に聞く」とか「買物ができるようにする」とか「服を自分で着られるようにする」というように、介護職が利用者の状態にかかわらず画一的に「してあげる」のではなく、一人ひとりに合わせて支援していることへの驚きです。

 これが沖縄ではなくて東京の学生たちの感想なら、事業者・事業所・責任者の違いくらいにしか思わないのですが、沖縄だけに文化の違いを感じました。

 というのもずいぶん前に、沖縄県八重山諸島のグループホームを訪ねたときのことです。
 そのグループホームの責任者の方は、僕の研修会を受けてくれたり著書を読んでくれていたようで、「沖縄では儒教の影響かと思いますが、和田さんが言うようにお年寄りができるようにというのは難しいんですよ」と言われていたこと、さらに、自社で在日韓国人の方専用の通所介護事業所を運営していた責任者から「儒教の影響か、和田さんが言う「できるように」という支援はなかなか難しいです」と相談を受けたことがあったからです。

 「若いもんがいるのに何で年寄りの私らにさせるのか」
 「お金払っているのに何で払っている私らがせにゃならんのか」

 と本人や家族から言われ、介護保険法が謳う「有する能力に応じ自立した日常生活を営むように」を実践しようにも、求められるのは何でもしてくれる「まかない職員」で、無理強いもできず苦心していました。

 文化というのは「人が自然を取り込んで生みだしたもの」だと僕は思っていますが、だとしたら、人が住まう自然環境が違えば文化=人の暮らし方が違うのは当たり前です。

 海岸近くに住む人、山中に住む人、年中食物に困らない地域に暮らす人、保存食に頼らざるを得ない地域に暮らす人では、暮らしの習慣も崇めるものも違うでしょうが、その違いは「ふつうが違う」ということです。

 沖縄の学生に「沖縄の結婚式は出席者が集まっていなくてもスタートするし、後からぞろぞろ入ってくるんだって」って聞いたら、「それが普通じゃないんですか」って逆に質問されました。そんな「ふつうの違い」がたくさんありますもんね。

 だからこそ「文化は違えど、どこに住まう人にも共通のこと」を見出して物事を整理して行く必要があり、そこまでも見越して介護保険法の目的は「尊厳の保持と有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるように」と謳っているのでしょう。

 「沖縄でふつうのこと」=「東京でふつうのこと」ではなく、お互いを知った上で関係づくりをしていかないと、歪みが生じてきてもおかしくないですからね。

 そういや先日聞いたのですが、ベトナムの人は注意を受けるときに腕組をする(手を隠す?)ので、技能実習などで日本に来て「注意しているのに腕組みをして聞くなんて!」と誤解を受け、さらに注意されることがあるそうです。これなんかも典型的な例でしょうね。

 相手との違いを知ることは大事なことだとはわかっていても、つい「自分の物差し」で見て・語ってしまいがちです。
 特に文化にかなりの違いがあるだろうなと思う地域の方々とかかわるときには要注意ですね。
 僕もこれから、文化がかなり違う地域で暮らしてきた人たちとの関係がスタートしますが、おっちょこちょいの僕は「人様の何倍も注意しないと酷いことをしてしまいかねない」と思わせてくれた沖縄の学生たちでした。

写真

 誰にもわかるように単なる水洗トイレなのですが、懐かしいモノでしたのでパチリ。
 和式便器で用を足すと、黄色のプラスチック製の鎖を下に引きます。すると上位に見える白いタンクに貯められている水がステンレスのパイプを通って便器内に流れ出し、その水流と水圧で「排泄物」を下水へ押し出すという水洗便器です。
 和式便器にかがんで用を足すと、ちょうどよい目の前にパイプがあるので、かがみ姿勢を維持するのが大変な体型の方、用足しが長引いてくたびれた時、力を入れてきばる時など、ついそこにつかまってしまい、酷い時は壊してしまうので、よく「パイプにはつかまらないように」と張り紙がしてありました。
 自宅はわかりませんが、僕らがトイレを使用できる飲食店などでも見なくなってきた水洗トイレ。
 自宅の便所で本を読む人もいるようですが、こうして「かつてのもの」を眺めて「いまのもの」と比較考察してみるのも、もよおすまでの暇つぶしにはいいですよ。

追伸

 名称は「注文をまちがえる○○」とか「世界一やさしいレストラン」というように違いますが、「注文をまちがえる料理店」が広がってきました。
 北海道石狩市・東川町で企画され、福島県須賀川市、神奈川県小田原市で動き出し、愛知県豊田市・碧南市で企画され、町田市、御殿場市、東京足立区、京都市、倉敷市で実施されましたし、継続的に実施されます。聞いた話では韓国でも実施されたそうです。
 お近くで見かけたら、お力添えをお願いいたします。

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