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和田行男の婆さんとともに

和田 行男 (和田 行男)

「大逆転の痴呆ケア」でお馴染みの和田行男(大起エンゼルヘルプ)がけあサポに登場!
全国の人々と接する中で感じたこと、和田さんならではの語り口でお伝えします。

プロフィール和田 行男 (わだ ゆきお)

高知県生まれ。1987年、国鉄の電車修理工から福祉の世界へ大転身。
特別養護老人ホームなどを経験したのち99年、東京都で初めてとなる「グループホームこもれび」の施設長に。現在は株式会社大起エンゼルヘルプ地域密着・地域包括事業部 入居・通所事業部部長。介護福祉士。2003年に書き下ろした『大逆転の痴呆ケア』(中央法規)が大ブレイクした。

シンガポール行記1

 40年ぶりにシンガポールを訪れました。
 赤道の都市国家は、かなり近代化されていましたし、聞くと国土も埋め立てで増えているそうです。
 40年前との肌感的違いは、飛行機を降りた直後の「ムワッ感」で、今は空調が整っているので機内との温湿度差はそんなになかったですが、40年前に感じた蒸し暑さは今でも憶えているほど強烈でした。でも、その分「赤道付近まで来た」って感じもなくなりましたがね。

 前回はトランジットで一泊の滞在。今回は「注文をまちがえる料理店at World Ageing Festival」のイベントを行うための渡航で七泊滞在です。

 最初に訪れたのは、フロアスタッフとして働く認知症の状態にある方が住まう「ナーシングホーム」で、日本でいう有料老人ホームなんでしょうね。
 最初のお仕事は、フロアースタッフとして働いてくださる方々をサポートしてくれる方たち(ナーシングホームの職員さん)に会い、和田が「なぜ注文をまちがえる料理店をやることになったのか」を伝える研修会でした。もちろん通訳付きです。

 ナーシングホームの職員さんたちはシンガポール人、インド人、ミャンマー人、インドネシア人、フィリピン人と多民族国家シンガポールを象徴していましたね。職種はナース、ケアワーカー、栄養士(たぶんですが)、アシスタントナース、シニアケアワーカー、アシスタントセラピスト、マネジャーと多彩で、経験も四か月から二十年の方と幅広い方々です。

 研修会で意外に役立ったのが2018年頃に取材を受けたNHK海外向け放送番組「Face to Face」の録画で、プロフェッショナルの映像、注文をまちがえる料理店関係の映像、和田の所属する法人の実践映像、ロバートキャンベルさんとの質疑までが網羅された全編英語の番組でした。
 僕自身、取材された番組を初めて見ましたが、聞いてくれた職員さんたちから「(当時の髪型)尖った髪型のほうが今よりステキだ」と言ってはもらえましたが、大事なことが通じたかは「?」で、これは料理店本番のこの方たちの動きを見ればわかるはずです。
 ベトナムの日本語学校での講話もそうですが、通訳を介して講義するのは僕には難問ですね。

 ホームに到着してすぐに紹介されたのが、ナーシングホーム(新館)に暮らす人の居場所ではなく「備えた機能」だったことがおもしろいと思いました。
 日本なら施設を見て回ることを「見学」と言いますが、シンガポールでは「プリーズ・レッツゴー・ツアー」と言われ、「ツアー」というのが新鮮な響きでした。

 ナーシングホーム新館は四階建てで、一階・二階は「アリーナ(遊び場)」と呼ばれていて、リビング、カフェ、spa、GYM、各種ゲーム機器、美容室、調理場などが配置・配備されていて、リビング周辺には、昔のミシンやアイロンや算盤といったように、旧い物がいろいろ置かれていました。
 その中で「面白いなぁ」と思ったものをご紹介しますね。

 認知症の状態にある方が「帰りたい」と言われることは日本と同じように当たり前にあり、このホームでは「ある機能」を使って対応しているとのことでした。

 シンガポールの移動手段は、今は地下鉄が増強されていますが高齢者世代なら圧倒的にバスで、このアリーナの一角に本物のバスシートやつり革を配備し、椅子に座ると目前に設けられたでっかいスクリーンに町の景色を映すことができる「疑似バス乗車機能」を備えています。

 認知症の状態にある入居者が「帰りたい」と言われると、フロアからエレベータでアリーナに下りてきてこのスペースにお通しし、スタッフも一緒にバスシートに座り、車窓からの景色を見ながらいろいろな話をしているうちに到着・元のフロアにご案内する(つまり、戻らせる)という段取りをとるそうです。

 又、運転シミュレーター装置(下記写真)が備えられており、パソコン画面に映し出された景色を見ながらハンドル操作をすると、まるで本当に運転しているかのような感覚にさせる「疑似自動車運転機能」があり、かつて運転をしていた方には認知症の状態にあるかないかに関係なく、こちらをお勧めするそうです。

 皆さんの中にも、それに対する意見はいろいろあるでしょうが、僕は素直に「いろいろ工夫を凝らしているなぁ」と思えましたし、その「手前のこと」を知りたいとも思えました。

 手前とは、ナーシングホームでの日常生活の様子ですが、滞在中それを目にすることはありませんでした。どのような状態にある方がフロアスタッフとして働いてくださるのかお会いしたいと思ったので「日常生活の場面を見せてもらいたい」とオーダーは出していましたが、忘れられてしまったんでしょうね。

写真

シンガポールで流行っているレインボ―スプーン

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