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和田行男の婆さんとともに

和田 行男 (和田 行男)

「大逆転の痴呆ケア」でお馴染みの和田行男(大起エンゼルヘルプ)がけあサポに登場!
全国の人々と接する中で感じたこと、和田さんならではの語り口でお伝えします。

プロフィール和田 行男 (わだ ゆきお)

高知県生まれ。1987年、国鉄の電車修理工から福祉の世界へ大転身。
特別養護老人ホームなどを経験したのち99年、東京都で初めてとなる「グループホームこもれび」の施設長に。現在は株式会社大起エンゼルヘルプ地域密着・地域包括事業部 入居・通所事業部部長。介護福祉士。2003年に書き下ろした『大逆転の痴呆ケア』(中央法規)が大ブレイクした。

改めて「多職種協働」

 よく「多職種協働」といわれます。
「協働」を調べると「同じ目的のために対等の立場で協力して共に働くこと」とあり、「協力」を調べると「心を合わせて働くこと」とありますから、「同じ目的のために対等の立場で心を合わせて働くこと」ということでしょうか。

 介護事業の場合でいえば、要介護状態にある方の生活を支援するために、介護職員のみならず、医療従事者や行政職員など「異なる専門性をもった職種が、心を合わせて互いに対等の立場で共に働くこと」が「多職種協働」ということになりますでしょうか。

 この「多職種協働が大事」だとよくいわれますが、よく考えると「大事かどうか」という尺度で語ることではなく、多職種協働なしには生活支援は不可能であり、そういう意味では「不可欠」だという捉え方をしておくことが大事なのではないでしょうか。

 そもそも、私たち人類の暮らしは、地球規模の多職種協働社会によって成立しているといっても過言ではありません。
 現に、ロシアのウクライナ侵攻によって「協働」が崩れた途端、エネルギー危機や食糧危機に見舞われ、多大な影響が僕ら日本に住む一個人の生活に及んでいますからね(いろんなものが高くなってきましたね)。

 もっと話を狭くして考えても、人は傷つきやすいですから病気や怪我をしますから人の暮らしに「医療」は欠かせず、しかも要介護状態にある方の多くは何らかの疾病をもっていますから、「介護従事者」と「医療従事者」は両輪のごとく必要不可欠で、介護と医療の異なる専門性をもった職種の協働なしに生活支援は成立しません。

 これを「暮らしの場」から考察すると、同じ入居系の介護保険事業でも、グループホームと特別養護老人ホーム(以下特養)では多職種協働の「カタチ」が違ってきます。

 というのも、グループホームは制度的に事業所内に医療従事者の配置義務がありませんから、「介護」と「医療」だけで考えても多職種協働は事業所外の方々との展開になりますが、特養の場合は、事業所内に医療従事者だけでなく栄養士や生活相談員といった専門職も配置されていますから、事業所内と事業所外の多職種協働となります。
 しかも医療従事者は、看護職員のみならず療法士等も配置されていますし、給食委託だと委託先にも専門職がいますので、より多職種協働となります。

 また、多職種協働は異なる職種の専門職が配置されているだけで成立するものではなく、協働する意味は「目的を成すために」ですから、目的を一にするためにも目的の到達点を確認し合うためにも「対等関係における話し合い」が必要で、心を寄せ合えるチームカンファレンスが必要ということでもあります。
 重ねて心を寄せ合うためには、誰かが一方的に指示して終わるようなカンファレンスでは、心は開けないでしょうし、協働は成せないでしょう。これは肝です。

 僕がこの仕事に従事して1年8か月ほど経った頃、ずっと気になっていたことを看護職員に尋ねました。
 それは、ヨネさん(仮名)という方が、お風呂以外、ずっとベッド上の生活をしていたことで、食事もベッド上で摂っていたことです。
 「ヨネさんは、なぜ寝たきりなんですか」
 「寝たきりにしておかないといけない状態ではないのよ」「ならば僕(介護従事者)の仕事だ」
 そう思い、それからヨネさんが昼食を皆さんと同じリビングで座って食べることを取り戻せるように支援し、その姿を取り戻すことができました(結論のみ書きます)。
 これは僕にとって、初めての多職種協働の結果です。

 また、多職種協働を一番実感したのは老人保健施設で相談員として仕事をしていた時で、医師、看護職員、理学・作業療法士、管理栄養士、介護職員、その他事業所外も含めて関係職種とチームカンファレンスを重ねてきました。
 異なる専門性の寄せ合いは、ホント、チカラが湧きますよね。これだけの専門職種がいたら、なんでもできそうな気になりましたから。

 それ以降、コトを成すために、医師、歯科医師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、管理栄養士、介護支援専門員、住環境コーディネーター、地域包括支援センターや行政の方々の知恵と力をお借りするように進めてきましたし、家族もチームメイトと捉えて取り組んできました。

 「自分だけでは成せない」ことを知れば知るほど、多職種協働の不可欠さを思い知らされてきましたし、そういう経験から、僕の所属法人では本社に管理栄養士や理学療法士を配置して医療職の配置義務がない介護保険事業所の弱点を補っているし、外部の言語聴覚士による摂食嚥下をはじめとした食支援に関する特別な専門課程(一年がかり)の研修を行ったりもしています。

 また、法人として「緊密な医療連携」と称して他法人の医師、歯科医師、薬剤師、訪問看護師たちとチームを組み、法人として対等に声を出せる関係づくりを行い、言いにくいことも言い合える関係づくりをしています。
 介護従事者は医療職に対してはなかなか思うことを言えないですから、法人を間において、コトを成すために心合わせられる関係づくり=法人連携を目指しています。

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 警察署や交番に「本日の事故件数・累積件数」という看板を掲げていますが、ところ変われば品代わるで、宮古島では事故ではなく「泥酔い者の路上寝件数」が掲示してあります。
 島の方に聞くと、本当に多いようで、サトウキビ畑で寝ている人の足だけが道路に出ているなんてこともあり、非常に危険なんだそうです。
 まぁ、最も寒い1月で平均気温17℃の地であり、アルコール度数30度以上の泡盛をグイグイ飲みますから、路上で寝てしまうのも無理からぬことでしょうか。
 ちなみに「酒はナマビュウでビューフサリはダメよ」は「酒はほどよく、呑み過ぎはダメよ」って意味だそうです。もうすぐ宮古島並みの気温になる春、気をつけねばです。