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宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ

宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。

プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

大阪府生まれ。現在、埼玉大学教育学部にて教鞭をとる。
さいたま市障害者施策推進協議会会長等を務め、埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

無責任の連鎖

 次に、通報を受けた春日部市の対応についてです。3人の虐待死亡者が既に火葬されていることもあり、「行政の調査権限では限界があり、警察に捜査を委ねた」というのが市の言い分です。虐待防止に資する虐待対応の一環としての事実調査・立入調査と、警察による犯罪捜査が代替可能な営みであると春日部市当局は考えているのでしょうか?

 警察による犯罪捜査は、虐待死亡事件の犯人を明らかにして立件するためのものであり、自治体による事実確認や立入調査は虐待の発生要因とメカニズムを明らかにすることによって、二度とこのような虐待が起こらないような防止のための措置を具体的に明らかにすることです。このような基本的な違いさえ分からなかったとすれば、つける薬のない無知蒙昧としか言いようがありません。

 春日部市の調査は、直接Oに面会するのではなく、Oに書面による問い合わせをして「何も思い当りません」という一言の返事をもって終わりにしているのです。しかも、このようなずさんな調査に批判が高まって設けられた「検証委員会」は、第三者の入らない市幹部だけから構成されていました。

 検証委員会が市の対応に問題はなかったとする根拠とした「警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律」は事件当時にはない法律で、今年の4月に施行されたものです。当時存在しなかった法律を根拠に自己正当化の論を展開するのは、目に余る無責任です。検証委員会に第三者を入れなかった点については、「調査記録が詳細に残っており、外部識者の意見を聞くには至らなかった」と説明しています。これらをつまらない言い訳だらけと感じるのは、私だけではないでしょう。

 この特別養護老人ホームは、虐待死事案については目をつむったまま、Oの就職時の履歴に虚偽あったことを理由に退職手続きを済ませています。つまり、虐待事案の責任を問うことなくOが退職すると、特養の法人事業者の側も「虐待との認識はなかった」との言い訳が成立することになるのは、不思議な符牒の合い方ではないでしょうか。

 O被告自身は、「前に勤めていた施設でも虐待を疑われた」という証言をしているのです。つまり、前の職場である施設も虐待通報の法的責任を果たしておらず、もしこの段階で虐待通報から事実解明と虐待防止の措置が明らかにされていたとすれば、春日部市の特養における4人もの犠牲は回避することができたのではないでしょうか。

 春日部市の虐待死事件は、職員(Oだけではない)、法人事業者とその幹部職員、春日部市の3つ巴による無責任の連鎖によって発生した重大な人権侵害事件と受け止めるべきだと考えます。