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宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ

宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。

プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

大阪府生まれ。現在、日本障害者虐待防止研究研修センター代表。
長年、埼玉大学教育学部で教鞭を勤めた。さいたま市社会福祉審議会会長や障害者施策推進協議会会長等を務めた経験を持つ。埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)、『障害者虐待-その理解と防止のために』『地域共生ホーム』(いずれも中央法規)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

これからの都立府中療育センターに期待して

 先日、東京都立府中療育センターの虐待防止研修会に講師として参加しました。1968年4月の設立以来、半世紀余りにわたって重要な役割を果たしてきた東京都ならではの社会資源です。

 重度心身障害のある人たちの医療・看護・教育・福祉等の総合的な支援を実施するだけでなく、新しい治療・支援につながるさまざまな研究・開発を手がけてきたセンターでもあります。

 1970年代から80年代にかけては、重度の身体障害のある人たちによる自立生活運動の取り組みが展開されていく舞台にもなりました。

 身体障害のある人にとっての自立生活運動とは、施設から出たところの地域で支援サービスを活用しながら自律的に暮らしを充実させていくことです。

 その意味では、大規模施設としての府中療育センターは批判の対象になりましたが、歴史的に距離を置いてみると、自立生活運動の社会的な足掛かりを作った施設だと評価することもできるでしょう。

 平成に入って以降、医療・福祉・教育の世界で脱公的セクターの政策がずっと続いています。東京都は、直近のところで都立病院の独立行政法人化を知事が表明しましたから、府中療育センターの医療・看護職の人事異動への影響もあるのではないかと心配しています。

 脱公的セクターの動きは、医療・福祉・教育にかかわる財政支出の抑制を目的の根幹に据えていることは明らかですが、ここで一度、この間続いてきた「脱公」の施策を根本的に点検し直す必要があるのではないかと考えています。

 私も職場が「国立」から「独法化」する渦中に身を置いて、功罪両面があると感じてきました。「公」であればいいと主張する気は毛頭ありませんし、現に、障害福祉サービスを展開する某株式会社の第三者委員も務めていて、この企業のサービスの質は高いと考えています。

 ところが、地域支援システムにおける連携を構想する段になると、いささか困った事態に直面するのです。脱公的セクターの施策が進んできた結果、連携支援システムの「公共性」を確保することはとても難しくなっているのです。

 日本には、「公」は柔軟性にもとる杓子定規な硬直性に、「民間」は公共性を顧みようとしない傾きに、それぞれが両極化する方向に向かって振り切れてしまう「難治性の病」が巣食っているのではありませんか。最近、公私の組織それぞれに、コンプライアンスに疑いのある事案がはびこってきたような気もするのです。

 公共性のある地域支援システムの構築は、公民それぞれの持ち味を生かすことによってはじめて展望することができます。でも現実は違います。「脱公的セクター」の進展が地域支援システムを「私化」する方向に傾きを強めている事実をあらゆる地域で確認しています。

 また、独法化を進める際の聞き飽きた決まり文句に、「人材をこれまでより柔軟に活用することができる」というのがあります。この台詞は実にいかがわしい。この台詞の根拠となるエビデンスは、本当にあるのですか。

「財政の削減と効率の観点から見れば、人材を柔軟に活用することができる」、つまり人件費コストを下げることができるというのは、独法化されたあらゆる組織で確かなものです。しかし、公共性のある職務の発展を削いできた一面もあることを正視しようとする努力は、おしなべて希薄だったと思います。

 府中療育センターを利用する方の多くは、医療・看護・福祉・教育等の密度の高い総合支援を日常的に必要としています。つまり、日常的な支援には、多様な職種の連携と協働を必要不可欠とする現場です。

 それだけに、それぞれの専門職に高度な専門性のあることが、課題認識の共有をときとして難しくすることも出てきます。医療的な見地からは「動かないでいてもらわないとリスクが高くなる」事態が、生活支援の見地からは「自律性と生活の質を高める動きとして大切だ」となるようなギャップが職員間に生れやすい。

 研修に訪問した日は、創設52年が経った今、府中療育センターの新棟が完成し、引っ越しのシミュレーションを実施している最中でした。これまでの大部屋が小部屋に変わるなどの数々の改善が図られています。

 小部屋化を「人の目が届きにくくなる密室化」に帰結させることなく、それぞれの利用者にとっての親密圏を充実するための、新たな取り組みの工夫が問われることになります。府中療育センターならではの手厚い専門職による支援体制を、重度心身障害のある人たちの幸福追求にぜひとも結実させてほしいと心から願ってします。

梅が咲く

 さて、梅が咲きました。寒の戻りはありますが、春の訪れは近いようです。

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