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宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ

宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。

プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

大阪府生まれ。現在、日本障害者虐待防止研究研修センター代表。
長年、埼玉大学教育学部で教鞭を勤めた。さいたま市社会福祉審議会会長や障害者施策推進協議会会長等を務めた経験を持つ。埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)、『障害者虐待-その理解と防止のために』『地域共生ホーム』(いずれも中央法規)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

消滅可能性市町村896

 先週、日本創成会議(増田寛也座長)は「消滅可能性都市」のデータを公表しました(詳細は、『中央公論』2014年6月号参照のこと)。この指摘によれば、わが国のおよそ半数自治体が消滅するというのですから、「生き残る自治体もある」というような問題ではなく、わが国そのものが縮小から消滅に至る現実的可能性を意味するものと受け止めるべきでしょう。

 今回の問題指摘は、20~39歳の「若年女性人口」の減少に着目し、地方と中央の経済雇用格差が縮小しないために東京への人口移動が継続するという前提で試算された結果を公表しています。

 そこで、このままでは人口の維持が困難となって消滅に向かう可能性のある自治体が896か所にのぼり、その内、2040年時点で人口1万人を割り込む523自治体は消滅可能性が極めて高いものと評価されました。

 『中央公論』誌には全国状況が鳥瞰できる小さな図が掲載されています。それもご覧になっていただきたいのですが、一つの目安として、同誌のデータから都道府県ごとの状況を作成したものが、次の図です。なお、日本創成会議発表のデータは、福島第一原発の重大事故によって今後の人口予測に著しい困難のある福島県をひとまず除外したものとなっていますから、この表は福島県の市町村数を除外した自治体数とその割合から作成しています。

(消滅可能性自治体の都道府県別状況)
都道府県市町村
消滅可能性自治体数(%)自治体数
北海道147 (82.1)179
青 森35 (87.5)40
秋 田24 (96.0)25
岩 手27 (81.8)33
山 形28 (80.0)35
宮 城23 (65.7)35
(東北) 137 (81.5)168
群 馬20 (57.1)35
栃 木7 (28.0)25
茨 城18 (40.9)44
埼 玉21 (33.3)63
神奈川9 (28.3)33
東 京11 (28.2)39
千 葉27 (50.0)54
(関東)113 (38.6)293
新 潟18 (60.0)30
長 野34 (44.2)77
山 梨16 (59.3)27
静 岡11 (31.4)35
愛 知7 (13.0)54
岐 阜17 (40.5)42
富 山5 (33.3)15
石 川9 (47.4)19
福 井9 (52.9)17
(中部) 126 (39.9)316
滋 賀3 (15.8)19
三 重14 (48.3)29
京 都13 (50.0)26
奈 良26 (66.7)39
大 阪14 (32.6)43
和歌山23 (76.7)30
兵 庫21 (51.2)41
(近畿)114 (50.2)227
岡 山14 (51.9)27
広 島12 (52.2)23
鳥 取13 (68.4)19
島 根16 (84.2)19
山 口7 (36.8)19
(中国)62 (57.9)107
香 川9 (52.9)17
徳 島16 (66.7)24
愛 媛13 (65.0)20
高 知24 (70.6)34
(四国)62 (65.3)95
福 岡22 (36.7)60
大 分11 (61.1)18
佐 賀8 (40.0)20
長 崎13 (61.9)21
熊 本26 (57.8)45
宮 崎15 (57.7)26
鹿児島30 (69.8)43
(九州)125 (53.6)233
沖 縄10 (24.4)41
全 国896 (54.0)1659

 ここからは、896の消滅可能性自治体について分け入ってみてみましょう。福島県の市町村を除く全国の市町村数は1659ですから、全体の54.0%と過半数の自治体が消滅に向かっているという深刻な事態が明らかにされています。

 都道府県別に見ると、関東・中部地方と沖縄を除く全国で過半数の自治体が消滅する可能性にあることを示しています。とりわけ、北海道から東北にかけての各地は8割を超える自治体数を示し、山梨、奈良、和歌山、鳥取、島根、香川を除く四国、長崎、そして鹿児島の件において消滅可能性市町村が6割を超える事態となっています。

 さまざまな研修で地方に足を運んでみると、全国の自治体と地域づくりの関係者からは「若い人たちをどのように呼び込むのか」という話が必ず出てくるのです。全国で若者の争奪戦をしているような按配なのですが、日本創成会議のデータは地域ごとの工夫で乗り切れるような事態ではないことを明らかにしているといっていいでしょう。

 そこで、同会議は「ストップ『人口急減社会』」のための提言として、(1)国民の「希望出生率」の実現、(2)地方中核都市圏の創成を柱に政策提言をしているのです。それでも、あまりにも遅きに失した提言ではないかとの感想を私はどうしても払拭することができません。

 消滅可能性市町村の割合が96.0%に達する秋田県は、自殺が多いために数年前から自殺予防の取り組みに力を入れてきました。昨年、秋田で自殺予防の取り組みを進めている方に話を伺いました。

 「精神保健の見地からの自殺予防の取り組みは、ほぼやり尽くしたといっていいと考えています。問題の深刻さは、地域そのものがなくなりつつある現実です。高齢化した限界集落がついに消滅しようとする最後の局面で、発生する自殺です。たとえば、これまでなら10世帯くらいは残っていて、移動販売車が週に2回は入っていたところが、5世帯を切っていくと、雪深い季節には完全に他の地域と閉ざされた孤立集落、いえ完全に孤立した単独世帯が放置されるのです。」

 これが「壊死する地方都市」における「極点社会」の現実です。地域社会が消滅に向かうプロセスにおいて、究極的な孤立に由来する暮らしと命の消滅が発生しています。つまり、人権と個人の尊厳をずたずたに引き裂く地域社会が、わが国の全国に広まりつつあるということではないのでしょうか。

 世界遺産やオリンピックのムーブメントに接すると、それらに対する期待もないではないですが、みんなの未来がそこから拓かれるのか、見えてくるのかという点で私には疑問符が付くのです。自分たちの地域だけは生き残ろうというような傾きを強く感じます。

 極点社会とは、少子高齢化が進展する地平を超えた、わが国が消滅に向かいつつある現実だと考えます。決して、関東・中部地方だけが生き延びる未来はないでしょう。

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