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梶川義人の虐待相談の現場から

梶川 義人 (かじかわ よしと)

様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。

プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)

日本虐待防止研究・研修センター代表、桜美林大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。

ホリスティックじゃないと「ダメよ~ダメダメ」

 最近、ハマっていることがあります。それは、「デフォルト・モード・ネットワーク;Default Mode Network」という脳の働きに関する説に着想を得て、虐待防止を見直す作業です。

 定説では、「私たちが、勉強や家事や仕事など意識的な作業をせずに、ただぼんやりしている時は、私たちの脳もまた、ぼんやりと休んでいる」されてきたのに、実は、脳が勝手に活動しているようだということが分かってきました。

 それも、使われる脳エネルギーは、意識的な作業をしている時より、ぼんやりとしている時の方が数十倍も大きくて、調べてみると、脳は、何やらネットワーク活動にエネルギーを費やしている、というのだから痛快です。

 これが「デフォルト・モード・ネットワーク」ですが、具体的な活動として、自分自身について考える「自己認識」や、自分自身の5W1Hに関する認識「見当識」や、「記憶」にも深く関係しているといいます。

 アルツハイマー型認知症では、症状出現の前でも、このネットワークの繋がりの弱まりが確認できるので、それは早期診断に役立つのではないか、ともいわれていますから、相当インパクトがあります。

 私は、この説のこうした成り立ちから、「物事は『ホリスティック(Holistic;全体)』に見た方がよい」という教訓を得ました。

 つまり、「虐待防止」を想定した時点で、「意図的な作業」のみに注目するというフィルターをかけてしまい、その他のことは、「ただぼんやりしている」と、思い込んでしまうのではないか、というわけです。

 それでは、「ダメよ~ダメダメ」ですから、虐待防止の全体は「部分の総和以上の何か」であるという視点から見直しているのですが、すると、多々思い当たることが出てきます。

 かつて、行った全国規模の調査の、「高齢者虐待防止を直接の活動目的にする団体は皆無に等しい」という結果に、「全国的なネットワークを作りたい」という目論みが外れて、落胆しましたが、男性介護の支援を行う団体は、虐待者の多くが男性(息子と夫)を占めるという事実を踏まえると、高齢者虐待の防止を、直接的な目的としては謳っていなくとも、虐待防止には大いに役立っている筈ではないか、というようなことです。

 これまで、様々な研修の効果測定を行い、現場のニーズは充分に慮れると、些か天狗になっていましたが、「自治体の規模が小さくて、既に地域包括ケアシステムが実現できているため、あらためて高齢者虐待の早期発見ネットワークを構築する必要がないことだってある筈ではないか」とか、「理不尽な要求をする利用者・家族に対して、裏で悪口が言える職場環境にある従事者は、ストレスが発散できて、案外、虐待にはなりにくいのかもしれない」など、枚挙に暇がありません。

 収拾がつかなくなっても困りますので、発見から事後評価に至るまで、数多ある虐待防止の必要項目について、二つの方針のもとに見直すことにしました。

 一つは、「◯◯するのが良い」が多数派だとしても、「◯◯してはダメだ」ないし「□□するのが良い」という少数派もいるなら、これらを包含して止揚する方向を目指す、という点です。

 二つは、「意識的な作業をしていること」だけを評価することへの反省です。つまり、「何も作業をしていない」と、無条件に「ダメ」と評価を下してはいないか、という点です。もちろん、これらも包含して止揚する方向を目指す、という点です。

 いきなりハードルが上がった感がしますが、今、話題の錦織圭選手も、マイケル・チャン氏のもとで、基礎練習を地道に繰り返すことなくして、この躍進はなかったと言われていますから、私も、是非、頑張りたいと思います。

輝きたいなら地道な基礎固め!