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梶川義人の虐待相談の現場から

梶川 義人 (かじかわ よしと)

様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。

プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)

日本虐待防止研究・研修センター代表、桜美林大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。

梶川、初心に帰りまーす!




 私はこの数週間、「人に何かを提供する」ことについて考えて過ごしました。きっかけは、中央法規出版様の雑誌「おはよう21」の連載記事の執筆と、記事に連動した動画の作成です。そして、担当者の方との打ち合わせで「さすがにプロは違う!」と感じたからです。

 「読者に情報を提供する」。当たり前のように聞こえますが、読者のニーズから些細な表現の仕方にまで気を配るのですから、プロとは本当に凄いものです。私は触発されて、今から18~9年ほど前に、虐待防止研修の講師を務め始めた頃にタイムスリップしました。

 当時は、団体で活動していたこともあり、研修の前後に参加者アンケートを実施し、その結果から参加者のニーズを分析しては研修内容を見直していました。経験年数の長さや職種による違いなどに相当腐心して、研修内容を調整しましたし、知見を整理して学会発表もしていました。

 それなのに、いつしかこうした努力を怠るようなってしまいました。そのことで私には悔恨の念があるでしょうか。ふと、ミシュランの三ツ星和食店のオーナー料理人A氏の失敗のエピソードを思い出しました。

 A氏は、テレビ番組のなかで「失敗のはじまりは、ミシュランの星を獲得して評価が高まるほどに、星を落とすわけにはいかない、常に何か新しいことをしないといけない、と強く思うようになったことだ」と振り返っています。




 その後、国内に次々と支店を出し、和食が世界無形文化遺産登録されたことを期に、外国にまで出店して、事業の拡大路線を邁進しますが、経営は順調であるかにみえ、A氏は有頂天になります。ところが、突然、ミシュランの星を落とすことになります。

 当然A氏は、考え込み、悩み抜きますが、訳が分かりません。そして、失意のどん底の日々を過ごしますが、ふと、複数の常連客から同じようなことを言われたことに気づきます。その主旨は、「ときどき、『あれっ?どうしちゃったのかな』と思うようなことがあったけれど、やっぱりオーナーがいると違うね」です。

 つまりは、事業拡大に邁進するなか、経営に気持ちが偏っていき、「お客様のために本当に美味しい料理を提供する」という、料理人としては最も肝心な部分が疎かになっていったのです。確かに、客をないがしろにしておきながら、「新しい」も「本当に美味しい」もあったものではありません。

 A氏は、このことに気づき、再び三つ星を獲得すべく事業を立て直しました。しかし、こうなることを予見し、ミシュランの三ツ星を辞退する人も、実は少なからずいるのだそうです。つまりは、「人に何かを提供すること」は何事も、生涯をかけて極めるべき道なのかもしれません。

 こうして私は、虐待問題への取り組み歴約20年の経験を一旦お蔵入りにすることにしました。今は、初心に帰ってから歩む第一歩として、これまでの間に、当事者、支援者、研修の参加者にあったであろう変化について、丁寧に考察してみようと思っています。

「初心に帰って第一歩から!」
「もう少し時代を考えたら?」