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梶川義人の虐待相談の現場から

梶川 義人 (かじかわ よしと)

様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。

プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)

日本虐待防止研究・研修センター代表、桜美林大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。

これまでの枠を超えようとしないのは罪?

 和歌山県に和田メリヤス株式会社という会社があります。今では希少な「吊り編み機」でニットを編んでいます。1時間に1メートルしか編めませんが、生地には伸縮性があって肌触りは良く、丈夫で長持ちと品質は折り紙つきだそうです。

 昔はみな、この吊り編み機を使っていましたが、生産量が十数倍と大量生産でき、工賃も沢山取れる機械が普及して使われなくなったといいます。しかし、この会社の社長さんは、品質で勝る吊り編み機を使い続けたわけです。

 詳しくは分かりませんが、大量生産のできる機械は、カギ状のフックで糸を引っ張って編むため、画一的に大量生産できるのに対し、吊り編み機は、糸を引っ張らないので糸に負担がかからず、製品は画一的ではなくても、高い品質になるようです。

 もっとも、吊り編み機の取り扱いは難しく、ネジ1本にしても「あそび」を紙一重のところで調整して全体のバランスを取らないと、うまく機械を回せず上手に編めないといいます。なんだか、人を育てたり介護したりすることに通じるものを感じます。

 以前、このブログで、オーダーメイドとレディ・メイドのケアに触れたことを思い出します。吊り編み機はオーダーメイド的で、大量生産の機械はレディ・メイド的だからですが、それぞれ一長一短があって、どちらを採用するかは悩ましいところです。

 この点で、あるホテル・チェーンのエピソードはヒントになりそうです。そのホテル・チェーンは「どんな変形な土地にでもホテルを作れる」点が強みだといいます。何と、ホテル業なのに設計と建築が自前でできるのだそうです。

 実は、変形地でのホテル建設には、沢山のメリットがあります。外注では建設費がかさむため出店を断念する競争相手を尻目に、お客様を誘導しやすい立地に出店できますし、変形地であることを逆手に取り、店舗ごとに特徴を持たせられます。

 また、ICT(情報通信技術)によって全店舗をつなげば、店舗ごとに料金やチェックイン・チェックアウトの時間を柔軟に設定するなど、スケールメリットを活かせます。このようにいたるところにオーダーメイドの要素が加味されていて驚きます。

 ここでも以前、ブロック遊びのブロックのように、人が”つながる”メリットについて述べたことを思い出します。他と“つながる”ことは、「自分の枠を超えようとする」第一歩だからかもしれません。

 和田メリヤス株式会社は、希少な吊り編み機の部品にさらに工夫を加えて新製品を開発し、グッドデザイン賞を受賞しています。また、件のホテル・チェーンは、ホテルには希少な設計・建設部門を持っています。いずれも、それまでの自分の(同業種が持つ一般的な)枠を超えています。

 最近、児童虐待防止に向けた政府の緊急総合対策にDV対策が追加され、児童相談所とDVの相談機関の連携が強化されました。分野横断的な展開は、人身安全関連事案全体に望まれますから、どの分野でも、これまでの枠を超える努力をしていきたいものです。

「よし!自分の枠を超えるぞ!!」
「羽目を外してどうするの…」