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梶川義人の虐待相談の現場から

梶川 義人 (かじかわ よしと)

様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。

プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)

日本虐待防止研究・研修センター代表、桜美林大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。

人は誰でも虐待者になり得る!?

 読売新聞(4月27日付朝刊)によると、児童養護施設などの子ども間で性的問題が起こっていることが明らかになったそうです。厚生労働省による初の実態調査の結果、2017年度には年間687件発生していたといいます。性的問題は多く性的虐待に該当しますから、施設の利用者間の虐待について考えてみたいと思います。

 虐待防止法はいずれも、子どもや障害者や高齢者が虐待者になることは想定していません。そのため、厚生労働省の実態調査により初めて問題が浮かびあがったという印象を持つかもしれません。しかし、子どもに限らず、障害者や高齢者の施設の現場では古くから、利用者間にも今でいう虐待があることは知られてきました。

 暴言・暴力は言うに及ばず、お金を巻き上げたり、性的嫌がらせをしたり、はては他の利用者を奴隷のように使い走りにしたりするなどです。虐待防止法の施行前には、「虐待」ではなく、「利用間のトラブル」や「利用者の暴言・暴力」「利用者の性的問題行動」などの表現でしたが、認識はされていたわけです。

 県の実態調査では、性的虐待に焦点があてられましたが、現場で古くから存在すると知られてきたのですから、身体的虐待や心理的虐待、経済的虐待など、他の行為類型についても実態を明らかにしたいものです。むろん、障害者や高齢者の施設についても同様です。

 いずれにせよ、人間の集団は、連携をして建設的な大事業を成し遂げる一方で、弱者同士のいじめなど非建設的なことも繰り広げるのですから、何とも御しがたいところがあるようです。SNSの功罪なども、一脈相通ずるのかもしれません。

 ところで、施設を一つの地域コミュニティに見立てることはよく行われます。両者の構造が似ているからでしょうか。だとすると、私たちのコミュニティに行政や警察が必要不可欠であるように、施設にも、虐待などの人身安全関連事案に対応する機能を持たせる必要があるのだと思います。

 虐待防止法を手直ししてカバーするのが良いのか、別に対策を考えるのが良いのか、すぐに答えを出せません。しかし、施設といわず、学校といわず、職場でもどこでも、ある程度の規模の集団は、行政の虐待防止センターや警察の生活安全課の機能を備えるほうが良いのかもしれません。

 古来より、集団内の身近な関係にある者の間には、虐待、DV、ストーカー、いじめ、ハラスメントなどの問題が発生しやすかったと言えるのですが、対策はいずれも遅れがちでした。ところが近年、続々と法令ができて対策はかなり進んできました。

 確かに、対策の進展は歓迎すべきなのでしょう。ところが私には、対策がバラバラに分散することで実効性を下げている部分があるようにも思えます。この点で、法令が被虐待者としか想定してこなかった利用者もまた虐待者になり得ると気づいた今は、バラバラになった対策を整理する良い機会なのではないでしょうか。

「110番の家の方が多い?」
「なんだかなぁ…」