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山口晃弘の超幸齢社会の最幸介護術

山口 晃弘(やまぐち あきひろ)

超高齢社会を実り多き「幸齢社会」にするために、
介護職がすべきこととは?
元気がとりえの介護職・山口晃弘が紡ぐ最幸介護術。

プロフィール山口 晃弘 (やまぐち あきひろ)

介護福祉士、介護支援専門員。1971年、東京都生まれ。高校卒業後、設計士、身体障害者施設職員を経て、特別養護老人ホームに入職し、介護職・生活相談員を務め、その後グループホームの管理者となる。
現在、社会福祉法人敬心福祉会 千歳敬心苑にて人材育成担当。著書に『最強の介護職、最幸の介護術』(ワニブックス、2014年)がある。

著書

『最強の介護職、最幸の介護術』
『最強の介護職、最幸の介護術』

最強のふたり

 「夏が来れば思い出す~♪」のは、ある男性介護職員K君のこと。
 身長が大きく、体重もあり、こわもてで無口のK君。利用者の前に立つ姿が、「立つ」というよりは、「立ちはだかる」という印象のK君に、私がよく注意したのは、「いいか。俺やお前のような体がでかくて、こわもての男は、普通にしているだけで怖がられる。だから、いつもニコニコしていなきゃダメだぞ」ということでした。

 そんな彼が担当になったのは、男性利用者のTさん。小柄で可愛らしいTさんでしたが、実は職人気質で男らしい。いつの間にか、K君をとても可愛がってくれて、二人はよく行動を共にしていました。
 当時、ケアマネジャーだった私に、K君はTさんからいろいろとニーズを聴き出してきて、その度私に提案をしてきました。
 「Tさんが水族館に行ってみたいそうです」「Tさんが東京湾のクルージングに行ってみたいそうです」「Tさんが奥様のお墓参りに行きたいそうです」など・・・・・・

 現場は人手不足。それを承知で、彼は自分の休みの日を使って、Tさんと出かけました。決して良いこととは言えませんが、Tさんとの出会いによって、K君は日に日に成長していました。期間限定のつもりで、彼の行動を許していました。

 その中でも忘れられないのが、「Tさんの奥様との思い出の場所は、江の島だそうです。奥様とデートで海を見に行っていたけど、もう何十年も海には行っていないそうです」とK君が提案してきたことです。
 車の運転ができないK君。つまり、「僕とTさんを乗せて江の島まで連れて行ってください」ということです。

 結局これは、遠足という形を取り、他の入居者も一緒に江の島へ行くことになりました。
 ほんの少しの時間だけ、みんなと別行動で海を眺めたTさんとK君。強い日差しが反射し、キラキラときれいに見えた江の島の海。Tさんは涙を流していました。それを言葉一つかけず、Tさんの顔も見ようとせず、ただ黙って海を見ていたK君。しばらくすると、K君は「行きましょうか」と言って、Tさんの車いすを押しました。

 あれから7年か8年くらい経つでしょうか。Tさんはもういません。ただ、K君の介護人生は続いているようです。いつもニコニコ、忘れてないかな? 頑張れ!K君!


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