メニュー(閉じる)
閉じる

ここから本文です

介護職に就いた私の理由(わけ)

さまざまな事情で介護の仕事に就いた方々の人生経緯と、介護の仕事で体験したエピソードを紹介していきます。「介護の仕事に就くことで、こんなふうに人生が変わった」といった視点からご紹介することで、さまざまな経験を経た介護職が現場には必要であること、そして、それが大変意味のあることだということを、あらためて考えていただく機会としたいと考えています。
たとえば、「介護の仕事をするしかないか・・」などと消極的な気持ちでいる方がいたとしても、この連載で紹介される「介護の仕事にこそ自分を活かす術があった・・」というさまざまな事例を通して、「介護の仕事をやってみよう!」などと積極的に受け止める人が増えることを願っています。そのような介護の仕事の大変さ、面白さ、社会的意義を多くの方に理解していただけるインタビュー連載に取り組んでいきます。


花げし舎ロゴ

花げし舎ホームページ:
http://hanagesisha.jimdo.com/

プロフィール久田恵の主宰する編集プロダクション「花げし舎」チームが、各地で取材を進めていきます。
久田 恵(ひさだ めぐみ)

北海道室蘭市生まれ。1990年『フイリッピーナを愛した男たち』(文藝春秋)で、第21回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。
著書に『ニッポン貧困最前線-ケースワーカーと呼ばれる人々』(文藝春秋・文庫)、『シクスティーズの日々』(朝日新聞社)など。現在、読売新聞「人生案内」の回答者、現在、産経新聞にてエッセイを連載中。

第113回 大学で勉強した理論と現場で学んだことを生かしながら自分に合ったスタイルで働き続けたい

小林美奈子さん(29歳)
医療法人社団勝優会
ホスピタルケア白金高輪 訪問介護事業所
サービス提供責任者/社会福祉士/介護福祉士
(東京・港区)

取材・文:石川未紀

やるからには、しっかり学びたい!

 小さいころは教員を目指していたんです。中学生のころから祖父母と同居するようになって、祖父に介護が必要になり、ヘルパーさんとかが家に出入りするようになると、福祉の仕事もいいなと感じ始めていました。

 いろいろ迷いましたが、最終的には、福祉の方にすすみました。両親は若いのだから、好きなことを思い切りやったほうがいいというタイプ、それに手に職をつけたほうがいいという考えも持っていたので、介護は大変だよとは言われましたが、反対はされませんでした。

 どうせなら、介護福祉士と社会福祉士の資格を両方とれる4年制大学でしっかり学びたいと思って、人間関係学部に進みました。大学では実習もあって、高齢者だけでなく、障がい者・児の施設なども行きました。やっぱり、祖父のこともあってか、私には高齢者のほうがあっているかなと思って、就職の際には高齢者福祉の道へ進むことに決めたんです。

 大学では、長期休暇中に実習があって、一般企業の就職活動がしにくいというのもあるんですが、同じ学科の学生はほとんどが福祉関係の仕事に就きます。100パーセントの就職率なんですよ。

つらかった看取りを乗り越えて

 卒業後は、ユニット型の特養に就職しました。一人で10人を看る感じですね。大学時代は理論や、自分の頭で考えることを重視してきたので、自分の頭で考えることと、現場のギャップもあり、当初は戸惑うこともありました。でも、多くのことは慣れて、むしろ大学で勉強したことが生かされているという実感も持てるようになりましたが、それでも、つらかったのは看取りです。特養は長くいらっしゃる方も多くて、思い入れや、情もやはり厚くなります。喪失感も大きかったです。でも、施設ではケアマネなどが中心となって亡くなった方の「しのぶ会」というのをやっていました。そこで、みんながその人のことを語り合うんです。そこで、思いを伝えることで心のつっかかりのようなものは解消できるようになっていったと思います。

 よく言われることですが、特養を経験するとだいたいの介護はできるようになるので、そういう意味でもよかったですね。それにユニット型だと、一対一で対話することもできたので、流れ作業的な介護になることもなかったです。

ワーク・ライフ・バランスは介護の世界でもできる

 仕事に大きな不満があったわけではないのですが、結婚をきっかけに特養は辞めました。特養は、夜勤もある変則勤務。仕事も大事ですが、夫婦としての時間も大切にしたいと思ったので…。

 実はそのあと、介護の仕事を離れたんです。事務職を半年ほど。でも、ずっと体を使う仕事から、全く使わない仕事で自分には事務職は合わないなということがわかりました…。それで、しばらくは介護職の派遣で働きました。ずっと特養にいたので、派遣でいろんな形態の施設に行って経験するのもいいと思っていました。

 ここも最初は派遣で来ていていたのですが、声をかけていただいて、今年の4月から、サービス提供責任者として社員となりました。最初はわからないこともあったのですが、ケアマネの方にいろいろ教えてもらいながら、頑張っています。

 現場で訪問介護をしながら、ヘルパーのシフトを作ったり、記録を確認する仕事もしています。少しわかりづらいのですが、ここは住宅型の有料老人ホームで、その同じ建物の中に訪問介護事業所があります。なので、ご利用者のほとんどが、有料老人ホームに入居されている方ですが、もちろん、外の方でご利用されている方もいます。仕組みが分かりづらいところもあるので、入居される方やご家族の方には丁寧に説明することにも努めています。今は早番のみの日勤で勤めているのですが、残業もほとんどなく、夫の仕事の時間とだいたい同じような時間帯なので、夫婦の時間をとることができています。介護の仕事というと、夜勤や残業がある、というようなイメージもあるかと思いますが、いろいろなライフスタイルに合わせて仕事することができています。

 在宅介護に興味があるので、居宅介護事業所をやっていきたいという思いはあります。先日、ケアマネの試験を受けたんです。できたら、主任ケアマネの資格までとって、地域と密着しながら、地域包括の仕事などもしていければと考えています。

 祖母は自宅で亡くなったのですが、昔と比べると、在宅で最期まで過ごすことができるようになってきました。医療の方もがんばっていて、在宅医療に力を入れているところも多くなっています。ここも医療法人社団なので、そういうところはとても勉強になります。大学で勉強した理論と現場で学んだことをうまく融合して、この世界にもっと貢献していけたらと思っています。

ご利用者の方のペースで食事を差し上げる
小林さん

【久田恵の視点】
 福祉のスペシャリストを目指そうとする人は、みんな現場で働き現場で学び、そこで学んだことを踏まえて理論構築していくという道をたどりますね。身体を通してしか学べない、介護もまたそういう分野の世界なのだと思います。