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再録・誌上ケース検討会

このコーナーは、月刊誌「ケアマネジャー」(中央法規出版)の創刊号(1999年7月発刊)から第132号(2011年3月号)まで連載された「誌上ケース検討会」の記事を再録するものです。
同記事は、3人のスーパーバイザー(奥川幸子氏、野中猛氏、高橋学氏)が全国各地で行った公開事例検討会の内容を掲載したもので、対人援助職としてのさまざまな学びを得られる連載として好評を博しました。
記事の掲載から年月は経っていますが、今日の視点で読んでも現場実践者の参考になるところは多いと考え、公開することと致しました。


第44回 知的障害をもつひとり暮らし高齢者をどう支えるか
(2002年9月号(2002年8月刊行)掲載)

スーパーバイザー

奥川 幸子
(プロフィールは下記)

事例提出者

Hさん(在宅介護支援センター・看護師)

事例の概要

S氏(男性)79歳(身長148㎝、体重38㎏)

紹介経路

 H13年4月18日、近所の人より電話が入る。「以前はよく外を出歩いているのを見かけたのですが、近頃はあまり見かけない。近隣としてどこまで手を出せばいいのかわからず、電話をかけました」

初回面接

4月19日
 S氏は在宅介護支援センターより徒歩5分ほどの所に住んでいる。訪問して驚く。今どきこんな人がいるのだろうか。文化的な生活をしている人たちに囲まれた住宅街の一角に、ところどころ瓦や天井板が抜けて星が見える部屋で寝起きしているのは、一見ロマンチックのようにも見えるが、やっぱりすさまじいとしかいいようがない。総菜が入っていた発泡スチロールのパックや、枯れた葉っぱ、古い広告紙等を米の空き袋に突っ込んで、外にも家の中にも幾重にも積み上げている。丸めてある布団は汚れてたとえようのない色に変色している。すぐ傍に置いてあるこたつの掛け布団も同様である。そのこたつに入ってご飯を食べているS氏を見て、またまた驚く。髭は伸び放題で仙人のようだ。顔色は青黒く生気のない目をしている。何日も着替えていないだろうと思える服からは何ともいえないすっぱい臭いがしているし、家の中からは象やカバのし尿のような悪臭がして吐き気をもよおしそうになり、思わず手で口を押えてしまった。

プロフィール

奥川 幸子(おくがわ さちこ)

対人援助職トレーナー。1972年東京学芸大学聾教育科卒業。東京都養育院附属病院(現・東京都健康長寿医療センター)で24年間、医療ソーシャルワーカーとして勤務。また、金沢大学医療技術短期大学部、立教大学、日本社会事業大学専門職大学院などで教鞭もとる。1997年より、さまざまな対人援助職に対するスーパーヴィジョン(個人とグループ対象)と研修会の講師(講義と演習)を中心に活動した。主な著書(および共編著)に『未知との遭遇~癒しとしての面接』(三輪書店)、『ビデオ・面接への招待』『スーパービジョンへの招待』『身体知と言語』(以上、中央法規出版)などがある。 2018年9月逝去。