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福祉の現場で思いカタチ
~私が起業した理由わけ・トライした理由わけ

介護や福祉の現場で働く人たちはもちろん、異業種で働く人たちのなかにも、福祉の世界で自分の想いを形にしたいと思っている人は、実はたくさんいます。そして、今、それを実現できるのが福祉の世界です。超高齢社会を迎え、これからますます必要とされるこの世界では、さまざまな発想や理想のもとに起業していく先達が大勢いるのです。そんな先達たちは、気持ちだけでも、経営だけでも成り立たたないこの世界で、どんな思いで、どんな方法で起業・トライしてきたのか、一か月にわたって話を聞いていきます。行政への対応や資金集めなど、知られざる苦労にも耳を傾けながら、理想を形にしてきた彼らの姿を追います。


●インタビュー大募集
「このコーナーに出てみたい(自薦)、出してみたい(他薦)」と思われる方がいらっしゃったら、
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までご連絡ください。折り返し、連絡させていただきます。

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花げし舎ホームページ:
http://hanagesisha.jimdo.com/

プロフィール久田恵の主宰する編集プロダクション「花げし舎」チームが、各地で取材を進めていきます。
久田 恵(ひさだ めぐみ)

北海道室蘭市生まれ。1990年『フイリッピーナを愛した男たち』(文藝春秋)で、第21回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。
著書に『ニッポン貧困最前線-ケースワーカーと呼ばれる人々』(文藝春秋・文庫)、『シクスティーズの日々』(朝日新聞社)など。現在、読売新聞「人生案内」の回答者、現在、産経新聞にてエッセイを連載中。

第37回③ 川添高志 ケアプロ株式会社/株式会社エイチ・ユウ・ジー 代表取締役
安心して利用していただくための
工夫や仕組みづくりを

ケアプロ株式会社/株式会社エイチ・ユウ・ジー 代表取締役
川添高志(かわぞえ たかし)
1982年生まれ。慶應義塾大学看護医療学部卒業。看護師・保健師。大学在学中に、米国MayoClinic研修。経営コンサルティング会社、東京大学病院を経て、2007年12月「ケアプロ」起業。「ワンコイン健診(現セルフ健康チェック)」をはじめ、訪問看護、サッカーナース等を展開。2020年「ドコケア」を開始。2021年5月、小児訪問看護・介護の「HUG」を事業譲受。日本在宅看護学会理事。

取材・文:石川未紀

―前回は、ドコケアの具体的な活動の内容と現場の様子を伺いました。
 ドコケアの仕組みは画期的ですが、実際に、登録者はどのように集められたのでしょうか?

 課題はやはり働く人の確保でした。最初の一歩としては、訪問看護や介護のステーションをまわり、ドコケアがこのようなサービスを始めたので、登録をしてほしいと呼びかけました。そのうえで、例えばA訪問看護ステーション用にドコケアのチラシを作って、そのステーションからご利用者の方にご案内していただくようにお願いしました。一方、実際に外出したいと考えている介助を望む方たちに、いつも利用している看護師や介護職の方にお願いして登録してもらうという方法を考えました。いつも来てくれている看護・介護職にお願いすることで、お互い安心して利用できると考えたからです。
 こうして1年ほどで、現在は約150名の登録があります。

―コロナ禍にあって、短期間でこれだけの登録者がいるというのは驚きです。

 介助する側の登録者の職域もひろがっています。一方で、利用したくても、高齢者の方はスマホやパソコンが使えないという方も多いですね。障害のある方のなかにも使えない方もいらっしゃいます。そうした方々にも情報はお届けして、実際の登録は家族や援助者の方に行ってもらえるようにしています。

―コンピュータで行うシステムはどこで作られたのですか?

 起業家を支援しているNPO法人の方に紹介していただき、社会的課題を解決するシステム開発を行う会社に構想をお話したところ、意気投合しまして……。そこにお願いしてドコケアのシステムを開発していただきました。

―異業種の方とも手を取り合って生まれたシステムなのですね。

 課題を克服するためには何が必要かと考えていけば、何をすべきかが見えてくると思っています。
 それについて言えば、保険も課題のひとつでした。このようないわゆる個人間での契約になるときに、問題になるのは、万が一事故が起こった時のことですね。お互いに安心して利用していただくために、東京海上の方にお願いして、ドコケアで一日活動するだけでも一日分の保険が適用される保険を作っていただきました。HPなどにもわかりやすく提示してありますので、お互い安心して利用していただけると思います。
 料金は、一時間あたり、医療職以外で2750円から、医療職で3850円からを推奨しています。最終的には、依頼者と介助者の間で料金を決めていただきますが、最低でも1時間1650円以上で設定していただきます。
 介助者の報酬は提示金額の75パーセントで、残りの25パーセントがドコケアに入ります。自費サービスよりも料金が低いので、ビジネスとして考えた場合には利益が大きいわけではありません。こうした新しい試みは、投資対効果を計画してもその通りにはいかないことが多々あります。自分たちの体力を見ながら、一歩一歩進めていくしかないと思いますが、大きな世の中のトレンドとして交通弱者が約2000万人いることや、モビリティ・アズ・ア・サービス(Mobility as a Service)を各企業が始めていることを考えると、時代の流れとしても必要なことだと考えています。
 一方で、通常の自費よりも安いと言っても、利用する側にとってみれば決して安い金額ではありません。医療的ケアが必要な方で看護師の方を希望すれば、推奨料金は一時間5500円前後になります。特別なイベントのときには利用しようと思っても、誰でも気軽に外食や外出を頼める額ではありません。
 そこで、企業等に寄付を働きかけ、協賛していただき、コロナワクチン接種のための付き添いを先着50名まで無料というキャンペーンを行いました。こうした課題にもできるだけ、さまざまなアイデアを出し合いながら、利用する方の負担を軽減できるように工夫していきたいと考えています。

―ありがとうございました。

一億総ケアラーの時代へ、できる人ができることを。