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認知症のある人への食事支援

【この記事はこんな方におすすめ!】

  • ◆ 認知症のある利用者さんがなぜ食べないのかわからない
  • ◆ 口を開けてくれない利用者さんへの対応を知りたい
  • ◆ 好きなものしか食べない利用者さんの栄養状態が不安

アルツハイマー型認知症のある人への食事支援

認知症のある人の介護で食事拒否をされたことはありませんか?
食事をとってくれなかったり、偏った食事になったりしては、介護者からしたら心配になりますよね。
でも実は、認知症のある人の食事支援は、認知症の種類・病態を押さえることで、利用者さんに無理強いをすることなく解決できる場合が多くあります

この記事では、歯科医師の野原幹司先生に監修いただき、アルツハイマー型認知症のある人への食事支援について詳しく解説します。

目次

アルツハイマー型認知症とは?

アルツハイマー型認知症とは、アルツハイマー病が原因で生じる進行性の認知症です。

アルツハイマー病は、脳内に異常なたんぱく質がたまることによって脳が徐々に萎縮していく病気です。

認知症の約半数は、アルツハイマー型認知症だとされています。

アルツハイマー型認知症のある人とのかかわり方

アルツハイマー型認知症のある人には、次のような特徴がみられることをふまえてかかわるようにしましょう。

アルツハイマー型認知症の特徴

主な症状

アルツハイマー型認知症のある人の食事では、「食べ始められない」「途中で食べるのをやめる」「まったく食べない」などの食行動の障害が多くみられます。

食事支援を行う際には、そのような食行動の障害の原因を推測し、対応を工夫することが求められます

ここでは、その原因となることが多い中核症状周辺症状について簡単に解説します。

≪食行動の障害の原因①≫中核症状

中核症状

≪食行動の障害の原因②≫周辺症状

周辺症状(BPSD)

よくある困りごとへの対応例

ここでは、介護現場でよくみられる「アルツハイマー型認知症のある人に特徴的な食行動の障害」を取り上げます。
それぞれの「原因」と「対応例」を示しますので、支援の参考にしてください。

食べ始められない

考えられる理由として、「食事場面がわからない」「目の前のものが食べ物だとわからない」「食事に集中できない」「箸やスプーン、フォークの使い方がわからない」などがあげられます。

食事場面がわからない・目の前のものが食べ物だとわからない

原因 見当識障害・失認・記憶障害など
対応例 声かけをする(「食事の時間ですよ」「一緒に食べましょう」「○○さんの食事ですよ」など)

食事に集中できない

原因 失認・注意障害
対応例
  • ・「声かけをする」「ひと口目だけ介助をする」など、食事に注意を向けてもらえるようにする
  • ・食器やエプロンの模様が気になっている場合には、模様のない食器やエプロンを使うようにする

箸やスプーン、フォークの使い方がわからない

原因 記憶障害・失認・失行
対応例
  • ・とりあえず、箸やスプーンを持ってもらうように介助する
  • ・失行の程度が進み、箸やスプーンを使うことができなくなっている場合には、手づかみで食べられるものを提供する

途中で食べるのをやめる

考えられる理由として、「食事に集中できない」「疲れてしまう」「傾眠してしまう」などがあげられます。

食事に集中できない

原因 注意障害
対応例
  • ・集中力が持続しなくなっているため、「次はこれを食べますか?」「もう少し食べませんか?」などと定期的に声かけをする
  • ・他の利用者さんの様子が気になっている場合には別室で食べてもらうなど、食事に集中できるような環境を整える

疲れてしまう

原因 体力の低下
対応例
  • ・食事前に少し横になってもらう
  • ・少量で高カロリーな食事を提供する
    • ※ 無理に食べさせようとすると誤嚥や窒息に繋がるリスクが高まるため、要注意

傾眠してしまう

原因 睡眠不足や薬剤の影響
対応例
  • ・夜間に十分な眠りが得られるように日中の活動レベルを見直す
  • ・医師に相談し、睡眠薬などの投薬内容を見直す
  • ・食事前に少し睡眠をとってもらうようにする
    • ※ 栄養・カロリーをある程度摂取できていれば、無理に食べてもらうのではなく、間食や次の食事で不足分を補うようにしてもよい

まったく食べない

考えられる理由として、「虫歯や歯周病がある」「入れ歯が合っていない」「食事環境の変化に戸惑っている」「原因不明の拒食」などがあげられます。

虫歯や歯周病がある・入れ歯が合っていない

対応例
  • 歯科受診をすすめる
    • ※ 利用者さんが受け入れてくれる場合には、噛まなくてよいミキサー食に変更する(治療や入れ歯の調整が終わったら元の食事形態に戻す)

食事環境の変化に戸惑っている

対応例 できるだけ元の環境に近づける(施設内でのフロアや介助スタッフ、テーブルやいすの位置・高さなどを変更・調整する)

原因不明の拒食

対応例
  • ・食事時間にこだわらず、食べられそうなときに食べてもらう
  • ・手を尽くしても食べてもらえない場合には、経管栄養を検討する
    • ※ 拒食はたいてい1~6か月程度でおさまるため、経口摂取のための嚥下訓練や味覚刺激は行っておく

その他の注意すべき症状

嗅覚の低下

アルツハイマー型認知症のある人の6~7割は、嗅覚が著しく低下しています

➡食事を楽しんでもらうために、味の濃い食事を提供することが有効かもしれません。

  • ※塩分や糖分を使いすぎると身体によくないため、山椒や柚子、香味野菜、酢などを使うのがおすすめです。

嗜好の変化

アルツハイマー型認知症のある人は、嗜好が甘味に偏ることがあります

  • ➡「食事はあまり摂取しないものの、甘いお菓子なら食べる」という場合には、無理に食事をとってもらうのではなく、市販の経腸栄養剤などで栄養を補うようにすることがよいかもしれません。
  • ※甘いものに限らず、「好きなものなら食べる」という場合も同様です。

食事をしたことを忘れる

記憶障害のために、食事をしたことを忘れてしまう場合があります

  • ➡何度も食事を要求する人のなかには、「準備するのでお待ちください」と声をかけ、座って待ってもらっているうちに、食事を要求したことを忘れることがあります。
    否定しない声かけをして、やり過ごす対応をしましょう。
  • ※否定してしまうと「否定された!」という負の感情だけが残って関係性が悪くなります。
  • ※やり過ごすことができず、食事の量や回数が非常に多くなってしまう場合でも、健康状態に影響しないのであれば問題ありません(カロリー過多にならないように食事を提供しましょう)。

まとめ

ここまで、食事支援をスムーズに行うための考え方を、アルツハイマー型認知症の症状にそって解説してきました。

認知症のある人がかかえている食事の困りごとは、認知症の種類・病態にもとづいて原因を考えてみると、解決のヒントが見つかることが多くあります。

その他の認知症のある人への食事支援についても別記事で解説していますので、ぜひチェックしてみてください。

ただ、どれだけ工夫しても食べてくれなかったり、誤嚥を繰り返して肺炎になってしまったりする利用者さんもいます

そのような場合でも、安易に食べることを禁止してしまうのではなく、食べられる可能性を探り続けることが、利用者さんの生活を支える介護職・医療職に求められます

利用者さんやその家族、そして自分自身に後悔が残らないよう、最善を尽くしましょう。

そして最後に、当たり前のことですが、食事支援を行う際には利用者さん一人ひとりがもつ「食」への思いを尊重することを忘れないようにしましょう

*   *   *   *

もっと詳しく知りたい人にはコチラの本がおすすめ!

『認知症患者さんの病態別食支援──安全に最期まで食べるための道標』
野原幹司(著)、メディカ出版

『認知症の人の食事支援BOOK──食べる力を発揮できる環境づくり』
山田律子(著)、中央法規出版

(監修)野原 幹司 先生
 大阪大学大学院 歯学研究科 准教授

大阪大学大学院歯学研究科修了、歯学博士。専門は摂食嚥下障害、栄養障害等。著書に『認知症患者さんの病態別食支援』『薬からの摂食嚥下臨床実践メソッド』など多数。