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今月のケアマネジャー

ケアマネジャー

介護専門職の総合情報誌『ケアマネジャー』最新号の内容をご紹介します。

―ケアマネ基本スキルアップシリーズ(1)―
どうすれば“利用者のニーズ”にたどり着けるか

『ケアマネジャー』2023年12月号から、特集(ケアマネ基本スキルアップシリーズ(1) どうすれば“利用者のニーズ”にたどり着けるか)の内容を一部ご紹介いたします。

 読者アンケートで「ニーズ」とは何かについて質問したところ、さまざまな回答をいただきました。
「ニーズ」という言葉1つでも、まだ共通の認識がなされていないようです。
 そこで、改めて、ニーズとは何かを考え、ニーズを探り当てるために必要なポイントをまとめていきたいと思います。


ニーズについて2つの視点から考える

視点1 ニーズ探しにあたっての6つの素朴な疑問

 ケアマネジャーが利用者のニーズを把握するにあたって、 押さえておきたい視点を「6つの疑問」を軸に考えていきたいと思います。

〔疑問1〕ニーズは誰のものか

 まず考えてみたいのは、ケアマネジャーがたどり着こうとする「ニーズは誰のものか?」という疑問です。
 家族のものでも、ケアマネジャーのものでもなく、「ニーズは利用者本人のもの」であることは明確でしょう。
 しかし、ケアプランに「○○したい」となっていても、本人以外の誰かの「してほしい」「させたい」になっている可能性はないでしょうか。

〔疑問2〕ニーズを決めるのは誰なのか

 ニーズは利用者本人のものなのに、誰かが利用者のニーズを決めてしまえば、「自分のことは自分で決める」という「意思決定の自由」を奪うことにつながります。ましてや、AIに決められたくはないはずです。いずれにせよ、「本人不在のニーズ」になることは言うまでもありません。
 本人の納得なしに、ニーズを断定してはいないでしょうか。ニーズを決めるのは、たとえ認知症があったとしても利用者本人です。

〔疑問3〕他者にニーズを知られるとはどういうことか

 利用者からみれば、ケアマネジャーは他者にあたります。
 本人の口から語られるニーズはともかくとして、本人が語らないニーズを深掘りしていくのは、極めてプライバシー性の高い作業です。自分自身のニーズ探しは、希望とともに、問題のある現実を直視することでもあります。
 そんな利用者の気持ちに思いを馳せなければ、ニーズ探しはできません。

〔疑問5〕ニーズ探しにふさわしいのは誰か

 ニーズ探しは難しい作業だからこそ、「ニーズ探しの専門家であるケアマネジャーの出番!」となります。
 とはいうものの、利用者は、自身の問題を明らかにするニーズ探しを誰にでも許しているわけではありません。
 すべての利用者は、自分に強い関心を寄せてくれ、本当に信頼できる相手にしか、自分のプライバシーを見せたくはないはずです。

〔疑問6〕プライバシーを知るのは失礼ではないのか

 ケアマネジャーの行う「利用者のニーズ探し」は、職業的使命の1つです。問題整理のうえでニーズを探し出さなくては、その先に進めません。
 だからといって、プライバシーにずかずかと分け入るのではなく、節度をもって探すことが、利用者の利益になるはずです。
 利用者との間の信頼関係をていねいに築きながら、利用者と一緒にニーズ探しをしていくことが何よりも大切です。

視点2 ビジネス分野での言葉の使われ方からニーズを理解する

 ビジネスやマーケティングの世界でも、「ニーズ」や「課題」という言葉が出てきます。
 その使われ方は、ケアマネジメントの世界とはやや異なるようです。
 しかしそこには、「ニーズ」を理解するためのヒントをみることができます。

「問題(プロブレム)」と「課題(ニーズ)」

 ビジネスの世界では、「問題」と「課題」の違いを次のように説明しています。

・問題:理想的な状態(目標)とのギャップ
・課題:ギャップを埋めるための取り組み

 すなわち、「問題」とは、今の状態における理想と現実(現状)の隔たりをいい、問題を解決するために、するべきことが「課題」となります。問題はネガティブ、課題はポジティブ。「ポジティブなケアプランを ! 」と言われる理由は、そのあたりにありそうです。
 ただし、ケアマネジメントとビジネスの世界では、「理想的な状態(目標)」の性格が異なります。
 ビジネスの場合、理想的な状態は、経営上の目標として他者から告げられます。たとえば、「顧客を○○人増やす」などといった具合に、目標の設定者と実行者が違うのが一般的です。一方ケアマネジメントの場合は、目標を設定するのは課題の実行者である本人です。
 ビジネスでは、目標のクリアは業務命令ですが、ケアマネジメントの場合は、たとえ目標を達成しなくても、実行者である利用者を他者が責めることはできません。そればかりか、利用者自身が「やっぱり無理だったか」などと、折り合いをつけることもしばしばです。

「ニーズ」「ウォンツ」「デマンド」

 今度は、マーケティングの世界での使われ方です。ケアマネジメントの世界では、よく「ニーズとデマンドを区別しなさい」などと言われます。
 この場合の「ニーズ」と「デマンド」の区別の仕方には、いくつかの考え方があるようですが、それらは表1のように整理できそうです。

 両者を比較してみると、優先して解決するべきなのは「ニーズ」であること、「デマンド」は利用者の主観であって、客観的な見立てよりも優先度が低いこと、などが読み取れます。
 では、マーケティングの世界では、どうなのでしょうか?

マーケティングでのとらえ方

 マーケティングにおける「ニーズ」は、顧客の「必要性」であって、他者がつくり出せないものととらえられています。よく例示されるのが「喉が渇いたから、渇きを潤したい」というニーズです。喉が渇いているのは、その人本人であって、他者が喉の渇きをつくり出すことはできません。
 続いて、「ウォンツ」という概念が出てきます。これは欲求のことで、ニーズを満たすために思い浮かべる行動です。「渇きを潤すために、飲み物がほしい」というのが欲求です。
 しかし、ウォンツの段階では、商品の購入までには至りません。購買意欲と購買力が合わさり、「デマンド(需要)」が生まれ、A社のミネラルウォーターの購入という行動につながります。

 ここでのポイントは、「ニーズ(必要性)は、他者がつくり出せない」という視点と、ニーズの充足には「デマンド(需要)による行動が必要」だという視点です。何らかの欠乏が起こったとき、その欠乏を満たしたいというニーズは、人間性の基礎をなすものであり、それが、ウォンツ(欲求)からデマンド(需要)に変わったときに行動へと変容するのです。
 この考え方は、対人援助の世界で使われているデマンドとニーズの区分けとは異なりますが、利用者と一緒に行うニーズ探しを行う際に参考になる考え方だと思います。
 すなわち、「ニーズはその人固有のもの」であり、ウォンツ(欲求)とデマンド(需要)による行動がなければ、ニーズ(必要性)は充足できないという考え方です。
 これを、対人援助の世界にあてはめると、「利用者と一緒にニーズを明確化することで、新たなるデマンドを呼び起こす」ということになるでしょう。デマンドを単なる利用者の要求と片づけず、利用者が行動に結びつけたくなるニーズを、利用者と一緒に探していきましょう。

以降は、本誌(ケアマネジャー2023年12月号)をご覧ください。
執筆:佐賀由彦
ライター
編集協力:
柴山志穂美
神奈川県立保健福祉大学実践教育センター 地域ケア教育部長
取出涼子
医療法人社団輝生会 初台リハビリテーション病院ソーシャルワーカー
野口明子
居宅介護支援事業所ソラスト台東

以上は、『ケアマネジャー』2023年12月号の特集の内容の一部です。ぜひお手に取ってご覧ください。


特集

Chapter1
スキルアップ集中プログラムNo.1 ニーズについて2つの視点から考える
Chapter2
スキルアップ集中プログラムNo.2 協働作業としてのニーズ探し
Chapter3
スキルアップ集中プログラムNo.3 ミニスーパービジョンで読み解くニーズ探し

『ケアマネジャー 2023年12月号』
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  • けあサポでは今後、中央法規出版発行の月刊誌『おはよう21』『ケアマネジャー』について、最新号のお知らせや、介護現場の皆様に役立つ記事の公開をしてまいります。