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高室成幸のケアマネさん、あっちこっちどっち?

高室 成幸 (たかむろ しげゆき)

全国津々浦々、研修・執筆・アドバイザー活動を神出鬼没(?)・縦横無尽に展開する高室成幸さん(ケアタウン総合研究所)。
研修での専門職との出会いや、そのなかでの懇親的な現場を届けます。

プロフィール高室 成幸 (たかむろ しげゆき)

ケアタウン総合研究所所長。
日本の地域福祉を支える「地域ケアシステム」づくりと新しい介護・福祉の人材の育成を掲げて活躍をしている。「わかりやすく、元気がわいてくる講師」として全国のケアマネジャー、社協・行政関係、地域包括支援センター、施設職員等の研修会などで注目されている。主な著書に『介護予防ケアマネジメント』『ケア会議の技術』『ケアマネジャーの質問力』『新・ケアマネジメントの仕事術』(以上、中央法規)、『地域包括支援センター必携ハンドブック』(法研)など著書・監修書多数。

又吉直樹の『火花』は、何かを持っていた

 昨日、お笑い芸人のピースの又吉直樹(35歳)が芥川賞を受賞しました。
 初めて書いた小説が芥川賞を受賞したのは、私の記憶では洋画家の池田満寿夫以来ではないでしょうか・・・
 これは、とてもスゴイことです・・・。

 才能とは、こういうことなのか、と思ったりします。芸人であっても(失礼!)、こうやって純文学のトップを取れる人が現れるのですからね・・・かつてヨシモト芸人で他の業界で耳目を集める活躍をするといえば国会議員や知事などになるのがパターンでした。西川きよしや横山ノックがわかりやすい例です。

 さて、芥川賞といえば、若手作家の登竜門です。直木賞がエンターテイナー(娯楽)系とするなら、芥川賞は私小説といわれ、自分掘り起し系です。ときには自らの身内の恥をも世間に晒すことを辞さない・・・今風にいうと自虐ネタを文学に昇華するといえばわかりやすいでしょうか・・・。

 今回の「火花」は今年の雑誌「文学界」2月号に掲載されました。デビュー当時から好感を持っており、彼の太宰治を語る時の熱さとNHK番組「オイコノミア」でのユニークな発想がおもしろかったので、書店で手に入れました。
 ページを開くと、いきなり熱海あたりの夏祭りのシーンから始まります。売れない若手漫才師がステージに立っています。音が悪いマイク相手に必死にしゃべり倒す2人・・・しかし観客は誰ひとり聞いている風でもなく、主人公はその悔しい気持ちを吐露します。

 ああ、芸人さんはこのようなせつない気持ちで地方の舞台に立っているのか・・・と思いながら読み進めました。
 やがて、営業が終わった主人公が1人で飲み屋に入ると、そこに天才芸人と主人公が尊敬する彼がいます。話の流れで、なぜか師匠になってくれと懇願し・・・そこから主人公と天才?芸人との、痛々しくもほのぼのとした、やるせなく、どこかゆるい物語が始まります。

 この小説を読み進めて驚いたのは「又吉文体」があるということでした。・・・文体とは、読んだだけで、これは谷崎潤一郎だ、井上ひさしだ、とわかる文章ということです。
 つむぎだす文章だけでなく独自の視点があるということ。アングルといっていいでしょうか。
 これには驚きました。

 ここ数年、タレント芸人さんでも器用な人が多く、小説を書く人もチラホラ増えています。爆笑問題の大田光もその人。劇団ひとりもそうですね。いずれも読みましたが、展開がどうのこうのというより、文章が練れていない・・・深みがない。誰かの文体に似ているな、と読み手に思わせてしまう。

 漫画ならひと目でわかりますよね。この人、手塚治虫にかぶれている、どこかさくらももこっぽいな、とか。小説も同じです。いまも物議をかもしている少年A著「絶歌」は、随所に村上春樹っぽい表現がありました。

 話を戻しましょう・・・
 私の20代、音楽シーンはフォークソングからニューミュージックに移り、怒涛のように新人があらわれ大ヒットを飛ばしまくっていました。中島みゆき、荒井由美(現:松任谷由美)に始まり、財津和夫、谷村新司、さだまさし・・・一方、文学の世界はいい新人が現れず、芥川賞なども「受賞作なし」「佳作のみ」が割と多かったように思います。
 ある選考委員が次のように述べていたのが忘れられません。
 「才能のある人が音楽ばっかりにいっちゃってねぇ。これじゃ、小説はどうなるんでしょうね」

 当時の音楽シーンでは作曲だけでなく作詞までこなす「シンガーソングライター」というスタイルが普通になっていました。それまでの「作詞・船村徹、作曲・遠藤実、歌・美空ひばり」という分業体制が当たり前だった歌謡界では、かなり衝撃的でした。
 つまり作詞までやるのですから、言葉に敏感で、韻を踏んだ文章が書ける才能がないとやってはいけないわけです。
 ですから、さだまさしさんがいくつもの完成度の高い小説が書けるのも、ある意味、うなづける話なわけで・・・

 その才能がいまどこにながれているか・・・それが「芸人」の世界ではないでしょうか。見てくれ?はさておき、俳優・司会・コメンテーターまでこなすには、それ相応の知識と見識が必要ですし、なによりユニークな切り口を視聴者は求めています。
 その地平を開いたのが引退をした島田紳助でしょう。彼のニュースキャスターとしての堂々とした仕切りぶりには驚きました。最初はどこか軽んじていた評論家や政治家、学者も彼の視点の鋭さに、次第にいちもくを置くようになりました。(これに有頂天になってしまってからの墓穴ぶりはみなさんがご存知の通り・・・残念です)

 かねてからお笑い芸人で俳優で成功した人はたくさんいます。古くは森繁久弥、最近ではビートたけし、片岡鶴太郎、カンニング竹山などなど。その理由の1つは「ペーソス」があるから。お笑い芸人は、みなを笑わせているのに笑われる存在です。社会的には、まだまだ低いポジションです。みんなを笑わせるというすばらしい仕事なのに、その程度のことしかできないのか、という、どこか蔑み(さげすみ)の目でみられるのを由として、あえてその道を選ぶ・・・
 彼らの心には人間としての哀しみとおかしみが交叉した感情がつねに流れている、と思います。
 まさに「火花」に出てくる天才?異才芸人Aは、そういう人です。その異様さとおかしみと情けなさを弟子を宣言した主人公の目を通してあたたかく描かれます。

 最後の最後の1ページに大どんでん返しがあります。
 ここを読むと、やっぱり又吉は「芸人の書き手だ」と納得されると思います。
 私がおすすめする一冊です。

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研修会場・写メ日記

東京都大田区介護保険課
「モチベーションアップの方法」

長崎市 ライフデザイン(株)コンサルティング事業部
「ケアマネジャーの仕事力~新・ケアマネジメントの仕事術~」