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宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ

宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。

プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

大阪府生まれ。現在、日本障害者虐待防止研究研修センター代表。
長年、埼玉大学教育学部で教鞭を勤めた。さいたま市社会福祉審議会会長や障害者施策推進協議会会長等を務めた経験を持つ。埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)、『障害者虐待-その理解と防止のために』『地域共生ホーム』(いずれも中央法規)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

本当に事実ですか?

 理研のSTAP細胞の研究をめぐる「不正」「捏造」問題が指摘される中で、京都大学iPS細胞研究所教授の山中伸弥さんは、「実験ノート」の記録がもっとも大切であると国会の参考人として証言しました。介護・福祉領域の研究において、はたして「不正」や「捏造」はないのでしょうか。

 研究論文の「不正」の一つとして、「コピペ」(コピー・アンド・ペースト)が問題になっています。電子データを「コピー」し、複数のコピーを自分の思い通りに組み合わせて「ペースト」するまで、パソコンの簡単な操作でできてしまいます。そこで、研究上の行き詰まりを自分でしっかり受けとめて克服しようとせずに、安易に切り抜ける「アクティングアウト」のように「コピペ」してしまう「不正」は、従来よりも発生しやすくなっていることは間違いありません。

 しかし、パソコンによる「コピペ」が流行る以前から、「古典的なコピペ」もかなり目についたように思います。社会保障・社会福祉の領域では、「高名な」研究者の剽窃が告発されたこともありましたし、先行諸研究の文献からの「引用」の組み合わせだけで自説は無きに等しい「論文もどき」もかなりありました。

 「論文もどき」は「引用」を明記してはいるものの、研究の手続きとしては明らかな「不正」や「捏造」があります。たとえば、元の研究上の見解を曲げて(明らかに「意図的」なものがあります)引用するものや、自説の無内容さ(新しい見解はない)を先行諸研究にあるすでに確立した権威を借りることによって、いうなら「虎の威を借りる」ように自分の「論文もどき」の正当性を仕立て上げる手口もあります。

 これらの古典的な「不正」や「捏造」の大部分は、まともな研究者が読めばすぐにわかります。しかし、読むだけではどうしても指摘しにくい「不正」「捏造」が、介護・福祉の事例研究の領域では放置されてきたのではないでしょうか。

 事例研究の理論と方法を論じたものに目を通しても、もっとも肝心な点が抜け落ちているように思えてなりません。それは、事例研究で文章化されて報告される内容が、そもそも事実なのかどうかという疑問です。

 さまざまなフィールドの事例研究やケースカンファレンスに参加すると、日常の記録は形式的で断片的な事実の記述しかないにもかかわらず、提出される事例報告には細かな事実から利用者の表情までが、さも事実であるかのように書きこまれていることがあるのです。同一のフィールドの報告であるにもかかわらず、事例報告の書式は統一されていない(事例検討の枠組みの議論がなされていないことの証左)ことは決して珍しくありません。

 介護・福祉の領域は、制度上のサービスの種類、地域・家族の特質や固有の問題、それぞれのフィールドのもつ歴史や文化などに由来して、それぞれのフィールドに多様な特徴や相違点が存在するところです。