宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ
疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。
- プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)
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大阪府生まれ。現在、日本障害者虐待防止研究研修センター代表。
長年、埼玉大学教育学部で教鞭を勤めた。さいたま市社会福祉審議会会長や障害者施策推進協議会会長等を務めた経験を持つ。埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)、『障害者虐待-その理解と防止のために』『地域共生ホーム』(いずれも中央法規)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。
千葉家族会の緊急セミナーに参加して
そして、男女共同参画が社会全体のテーマとなってきた昨今は、利益を最大化するために従業員を「こき使う」のではなくて、子育てや家族生活の必要も考慮したワークライフバランスの質的向上が、企業社会においても重要なテーマに据えられるようになってきました。従業員のワークライフバランスをまっとうに追究しているような企業は、多くの場合、情報公開や内部告発の制度的担保などのコンプライアンス・プログラムも整備しようと努力しています。
このようにして、今日の職場は、業種・業態を超え、いわゆる「ブラック企業」「ブラック介護・福祉施設」を除き、商品・サービスの購入・利用者等の消費者の権利だけでなく、そこで働く従業員に対する人権擁護や情報公開を含む社会的責任の履行をも追求するようになってきています。「外向き」の権利擁護を考えるだけでなく、「内向き」の権利擁護を真剣に考慮できることが、現代組織としての最低限の存立条件と言っていい。
それでは、社会福祉法人の様々な事業所・施設における経営と管理運営において、職員のワークライフバランスの改善を具体的な課題として検討してきたところが果たしてどれだけあるのでしょうか。そしてまた、コンプライアンス・プログラムを具体的に整備する課題を正視してきた支援現場はどれほどあるのでしょうか。
福祉業界の特徴は、「福祉は人だから、職員を大切にしよう」とか「人権を擁護しよう」「法令を遵守しましょう」とか、掛け声に終始することは言いますが、それらを具体的・実務的にどのように進めるかを煮詰める点では、一貫して弱さを抱えてきたように思います。私見によれば、「福祉は人なり」という台詞ほど、無内容で、抽象的で、発言者の自己陶酔に過ぎないものはないと断言します。
仮に、福祉現場の職員のワークライフバランスを考慮できないような制度的現実があるとしても、それを福祉制度の問題としてあげつらうだけでなく、男女共同参画の見地から広範な勤労者の抱える問題と共通の地平において、事態の改善に声を上げるべきではないかと考えます。
たとえば、児童・高齢者・障害者という領域の別にかかわらず、夜勤体制を担保するための職員の担い手は、男性も女性も絶対に必要なのですから、福祉業界を上げて、支援者のための夜間保育所を整備するアクションを起こすべきです。それは、サービスの利用者にも必要不可欠な条件ですから、このようなアクションをサービス利用当事者や市民が共にすることによって、みんなの権利を守る地域づくりのための漸進的な協働を培うことが構想できると考えるのです。
千葉県袖ケ浦の虐待死亡事件は、支援現場とサービス利用者の間に不信感の渦巻くギャップを拡大しました。しかし今こそ、虐待防止を進めることを契機にして、支援現場と当事者・市民がみんなの権利を守り抜く新しい型のアクションを協働し、未来を拓く信頼関係の再構築をはかることができる絶好のチャンスなのではないでしょうか。