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梶川義人の虐待相談の現場から

梶川 義人 (かじかわ よしと)

様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。

プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)

日本虐待防止研究・研修センター代表、桜美林大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。

ジャッジの悩ましさはまだ序の口

「暴行・脅迫要件」論争

 新聞で、刑法の性犯罪規定見直しの議論が、法制度審議会で進んでいることを知りました。読売新聞(9月22付夕刊)によると、性犯罪の定義について、暴行・脅迫要件をめぐり論争が起きているといいます。現行では強制性交罪の成立には「被害者の抵抗を著しく困難にする程度の暴行や脅迫を用いること」という要件を満たす必要があります。これが「暴行・脅迫要件」です。

 しかし、暴行や脅迫を直接受けなくても被害を受けることは少なくないという実態もあります。継続的な虐待、恐怖によるフリーズ状態、不意打ちなどの例があるからです。そのため、暴行・脅迫要件の緩和や撤廃を求める意見が出てくるのですが、そうなると今度は、客観的な判断が難しくなります。たとえば、同意の有無だけで犯罪を立証するのは難しく、冤罪を生む恐れも出てきます。

 そこで、暴行・脅迫の文言に加え、継続的な虐待、恐怖、不意打ちなどを列挙して、「結果的に拒絶する意思表明などが困難であることに乗じて性行為をした」という要件が案出されたものの、「これでは範囲が広くなり過ぎる」とか「結局、被害者が抵抗したり拒んだりしたことが問われるのではないか」という意見が出されているそうです。性的虐待について考えるうえで大変興味深い論争です。

悩ましさは続くよ、どこまでも?

 もっとも、「疑わしきは罰せず」の精神で臨む刑法なら、ジャッジに精緻さが求められますから、悩ましくて当然のように思います。しかし一方で、当事者支援にまつわる悩ましさは、さらに大きいかもしれないとも思います。実際、「疑わしきは対応する」の精神で臨む虐待防止では、虐待とジャッジされなくても、「望ましくない」状況を解消しようとして、支援上の悩ましさは継続するからです。

 性犯罪だとジャッジされなくても、被害者と加害者と目される人々がいる以上、事情は同じではないか、というわけですが、この意味で、法制審議会で議論されている別の論点には気になるものが沢山あります。その論点が当てはまりそうな事象を含む虐待事例は少なくないからです。たとえば、配偶者間でも強制性交罪が成立することの明確化は、DVの事例によく当てはまります。

 また、教員らの性暴力を取り締まるため、地位や関係性を悪用した行為を罰する罪の創設、盗撮やその他画像を提供する行為に対する罪の創設、盗撮などの画像を没収・消去できる仕組みの導入、性犯罪に及ぼうとして子どもを手なずける行為(グルーミング)に対する罪の創設、性行為同意年齢の引き上げなども、従事者による虐待事例にもよく当てはまります。当事者支援を考える以上、いやが上にも関心を抱かざるを得ません。

「こんなのまだまだ序の口!」
「その闘志、見習いたい!!」

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