メニュー(閉じる)
閉じる

ここから本文です

梶川義人の虐待相談の現場から

梶川 義人 (かじかわ よしと)

様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。

プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)

日本虐待防止研究・研修センター代表、桜美林大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。

仏作って魂入れる

 私はこれまで、虐待問題への取り組みは、実践・教育・研究が三位一体となって展開することが望ましいとしてきましたが、最近のブログの記事の多くは、個別の事例や研修にかかわるものであり、「研究はどこへ行った?」と内心気になっていました。

 そんな折、認知症介護研究・研修仙台センター様から、厚生労働省の老人保健健康増進等事業として行う調査研究事業にお誘い頂きました。ここ数年、同センター様の高齢者虐待に関する調査研究事業は行われておらず、少し寂しく思ってもいましたから、私は大喜びです。

 具体的な内容については、まだ何かお伝えできる段階ではありません。しかし、この4月から、介護施設やサービス事業所には、虐待防止のための体制を整備する努力義務が課され、自治体には、介護施設やサービス事業所への支援や指導が求められていますから、そこに資するものになると思います。

 もっとも、私の灰色の脳細胞は早くも刺激され、「体制を構築しても機能せず、仏作って魂入れず、になることは避けなければ」などと考えはじめています。たとえば、有名無実化した調査や会議、後輩に知識や技術が伝承していかないことなどがすぐ思い浮かぶところです。言うまでもなく、体制は持続可能なシステムとして機能してこそなんぼですが、笛吹けども踊らずになりやすい、というわけです。

 そこで私は、仏に魂を入れるにはどうすれば良いか考え、「プログラミング思考」というキーワードにたどり着きました。ここでいうプログラミング思考とは、目的達成のための最も効率的な筋道を段階的に考える、という意味であり、いわば料理のレシピのようなイメージです。

 虐待防止のためにすべきことをレシピと同じくらい具体化できるのか、と問われると心もとなくもありますが、高齢者虐待防止法施行から15年も経ちましたから、施行当時よりは具体化できるのではないでしょうか。とくに、以下の2つの対応困難に注目すると良いと思います。

 1つ目は、入所施設などでは決まって観客と傍観者が存在し、外部からは内部の実情が分かりにくいため、自治体による調査にも限界があるという点。2つ目は、虐待者は、DVの夫によく似ていて、自己肯定感が低くその解消の矛先を利用者に向け易いことに無自覚だ、という点です。

 そして、これらの点を念頭に体制を整備するのですが、キモになるのは、何をどうすれば良いのか、自分たちはどのレベルにいるのか、ルーブリック評価などを用いて明確化することです。

 ルーブリック評価のなかに、観客や傍観者であることや、自己肯定感の低さのスクリーニングを盛り込んでおけば、対応困難への手当はし易くやすくなるのではないか、と考えます。少なくとも、監視を強化したり厳罰化したりして、虐待の芽や不適切なケアを潜在化させるよりは、建設的であるように思います。

「虐待防止仏に魂を入れるぞ!」
「仕事には身を入れないのに?」