メニュー(閉じる)
閉じる

ここから本文です

梶川義人の虐待相談の現場から

梶川 義人 (かじかわ よしと)

様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。

プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)

日本虐待防止研究・研修センター代表、桜美林大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。

数えて分類すれば、自己肯定感はアゲアゲ

 私は、従事者による虐待の防止研修を行う際に、虐待者になりたくなければ、自己肯定感を上げるようにすれば良い、とメッセージを送るようにしています。本気で、「自己肯定感を持てないと、ろくなことになりません」と思うからです。

 果たして、自己肯定感の向上に関するご質問やご意見を下さる参加者の方は少なくありません。しかし、限られた時間のなかでは満足のゆくお答えはできないため、まとめておきたいと思います。

 第1のポイントは、「対人援助職としての自信をつける」です。

 具体的な手立ての一つとして、「自験例のすべてに通し番号をつける」ようにおすすめしています。「たったそれだけ?」と思われるかもしれませんが、「自分はこれまで256事例も対応してきた」とか、成功と失敗に分けて「197勝59敗」と、実績を数字で意識するようになるため、ただ漫然と仕事をこなす日々は、自信を持ちやすい日々へと変わり、かなり効果的です。「痩せるには毎日体重を測ると効果的」と言われるのと同じです。

 二つ目のおすすめは、「自験例を分類する」です。どのような切り口の分類であっても、問題発生の仕組みや解決の機序についての洞察を深められます。深く考えないと、分類できないからです。私は長らく、養介護関係に着目し、干渉タイプ(支配型と溺愛型)、放任タイプ、葛藤タイプ、喪失タイプに分類してきました。

 私は、養介護関係の調整にあたる機会が多かったため、対人援助の先輩である子ども家庭福祉分野の分類を参考にしました。高齢者の場合、4割が干渉タイプ、3割が放任タイプ、2割が葛藤タイプ、1割が喪失タイプといった感じですが、かなり明示的に把握できていると思います。

 個別対応の対象も分類しています。「介入拒否」、「不平不満」、「良き相談者」、「パーソナリティー障害が疑われる場合」、「虐待を告知したうえで対立的に介入する場合」の5つに分けるのですが(「占いじゃないのョ、対応可能性は!」)、それぞれに適した戦略を考えやすく重宝しています。

 第2のポイントは、自分にできた「心の傷への手当」です。

 対人援助は、痛ましい出来事に直面し、理不尽な攻撃にも晒されるため、心に傷のできやすい仕事です。ですから、傷の癒し方も心得ておかねばなりません。私は、傷ついた出来事について、どのような方法でも良いから、とにかく「表現する」ようにおすすめしています。

 実際、守秘を担保したうえで、参加者全員順番に、「理不尽な目にあった出来事」を発表し、聞き手になったら、「自分も同じような目に遭った」とか、「こうしたら上手くきりぬけられた」とか意見を述べるワークショップを行いますが、効果は絶大です。被災地に赴いた心理職の方々がまず行うのは、被災者に痛ましい体験を表現してもらうことだ、というのも頷けます。

 対人援助職としてそれなりの実績を積み、プロゆえに避け難い心の傷にも強いというのは、スポーツ選手なら、さしずめ「戦績も良く怪我にも強い優れた選手」ですから、自己肯定感は低くなりようがありません。

「上げるのは自意識ではなく自己肯定感!」