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梶川義人の虐待相談の現場から

梶川 義人 (かじかわ よしと)

様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。

プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)

日本虐待防止研究・研修センター代表、桜美林大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。

浜の真砂は尽きるとも…


身体拘束にならないために

 ある事例では、中等度認知症の80代の女性を家族が1人で介護していました。そして家族は、夕食を食べたことを忘れた本人が、夜中に冷蔵庫を開けて中の食べ物を食べてしまうために居室の入口に柵をしたり、家に帰れなくなり警察に保護されたために家族が外出するときはいつも外鍵に施錠をしていたので、不当な身体拘束だと目されました。

 一般に、こうした事例への支援では、身体拘束が必要になる状況を詳しく観察して状況判断と方向づけを行います。この事例では、昼夜逆転になりがちな生活リズムに注目し、それを解消するために、家族や知人の付き添いで散歩し日光を浴びる時間を増やしたり、夜早めに部屋を暗くしておき、足浴によりリラックスして貰うことにしました。

 また、できる限り家族が一緒に会話しながら夕食をとり、記憶が残るような工夫もしたところ、幸いにもかなりの改善がみられました。しかし、日中独居になる時間帯があるようなときは、もうひと工夫が必要になります。福祉用具の認知症老人徘徊感知機器の活用や、ボランティアや近隣住民に見守りの協力の依頼などです。

やむを得ず身体拘束するとき

 場合によってはなお、外鍵の施錠を検討しないといけないこともあります。そうした場合には、厚生労働省身体拘束ゼロ作戦推進会議「身体拘束ゼロへの手引き」(2001)を参考に、「不当な身体拘束」にならないよう知恵を絞ることになります。

 第1には、本人と家族と支援者で身体拘束の適正化のため会議を開き、手続きなどを定めて、例外3要件を満たすか判断します。つまり「切迫性:自傷他害の可能性が著しく高い」、「非代替性:身体拘束その他の行動制限を行う以外に方法がない」、「一時性:身体拘束その他の行動制限が一時的である」を確認するわけです。

 第2には、本人や家族に内容、目的、理由、時間、期間等が説明され同意したことの記録が必要になります。したがって、説明や手続きに関する事項の明文化も、実際に身体拘束を行う時点での個別の説明や、見守りカメラなどによる観察も必要になります。そして、定期的に再検討し、例外3要件を満たさないなら直ちに解除します。

出ていく悩み、入ってくる悩み

 ところが先日、この外鍵の施錠について再考を促すような事件が発生しました。警察の捜査員である男性警部補が、窃盗の疑いで逮捕された事件です。とくに、本人が「認知症である高齢者の家に防犯指導で訪れて現金を盗んだ」と証言した点が気になります。

 数年前から職務で知り得た情報をもとに、認知症の高齢者宅を訪れていた可能性があるといいますから、稀な事件だとは思う一方、わが国には独居や日中独居になる高齢者は大変多いのですから、かなり気がかりです。

 これまで述べてきた外鍵の施錠の問題は、本人が居室や家から「出ていく」ことへの行動制限の視点からのものでしたが、今後は、第三者が「入ってくる」に対する防犯の視点からも考えないといけない問題なのかもしれません。

 本当に、浜の真砂は尽きるとも世に施錠の悩みは尽きまじ、です。

「冤罪での拘束は凄く辛い…」
「体験者の言葉は重い…」