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ルポ・いのちの糧となる「食事」

下平貴子(出版プロデューサー・ライター)

食べること、好きですか? 食いしん坊な私は、食べることが辛く、苦しい場合があるなんて考えたことがありませんでした。けれどそれは自分や身近な人が病気になったり、老い衰えたりしたとき、誰にも、ふいに起こり得ることでした。そこで「介護食」と「終末期の食事」にまつわる取り組みをルポすることにしました。

プロフィール下平貴子(出版プロデューサー・ライター)

出版社勤務を経て、1994年より公衆衛生並びに健康・美容分野の書籍、雑誌の企画編集を行うチームSAMOA主宰。構成した近著は「疲れない身体の作り方」(小笠原清基著)、「精神科医が教える『うつ』を自分で治す本」(宮島賢也著)、ほか。書籍外では、企業広報誌、ウェブサイト等に健康情報連載。

第19回 ホテルが供する嚥下調整食コース
神戸ポートピアホテルの「家族で楽しむクリスマス2014」

はじめに

 今はまさに「食欲の秋」。年末年始にかけては“おいしいものが食べたい”気持ちが高まります。会食の機会が増えて、その度、どこで何を食べるか考え、準備するのも楽しい季節。クリスマスは洋食、忘年会は鍋、おせちは…などと予定を立てている方も多いことでしょう。

 私たちの食生活には「ハレの日」と「日常」を分けて考える習慣があります。ハレの日には人が集うので、いつもよりすこしふんぱつしてごちそうを食べ、楽しみます。かつては「行事食」と呼び、食べる物が決まっていて、意味をもたせていました。現代は柔軟に、行事そのものより、「会食」自体に重きを置き、何を食べるかは比較的自由になりました。日常では、家族そろってご飯を食べる機会が少なくなっているからでしょうか。何かの日には「そろってごちそう」が大事なことです。

 とはいえ家族の誰かに摂食嚥下機能障害があると、一般的には外食は無理だし、同じごちそうを食べるというのもあきらめがち。実は私も数年前の年末、「クリスマスなのになぁ」と思った記憶があります。それはクリスマスに限らず、誕生日も、年末年始も同じで、闘病中の家人の食べられる物は限られていたから、「いい歳して“クリスマス”でもないか」と、ごちそう欲を小さなケーキ1つに封じ込めました。
 けれど、小さなケーキが加わっただけでもすこし日常と違った食事は記憶に残っています。たとえ食べたり、飲んだりが困難でも、「ハレの日」を一緒に味わった思い出が大切です。ごちそうはあきらめたので、ケーキ以外に何を食べたかは覚えていません。つまり何を食べるかではないわけですが、やっぱりごちそうだったらよかったな。

 今回の記事は、ステキな食事会のご紹介です。お近くで興味のある方は、ぜひ(予約可能)。
 また超高齢社会の現代では、他のホテルやレストランもお客様から「嚥下調整食」を望まれることがあるでしょう。先駆例がイベントやメニュー開発等の参考になればとも思います。

家族そろって同じ料理に舌つづみ
「一流ホテルでお食事」の満足、全員に

 神戸市のポートアイランドにある神戸ポートピアホテルは、2008年から年1回、クリスマスシーズンに嚥下調整食のコース料理が味わえる食事会を催しています。6回目の開催となる今年も「家族で楽しむクリスマス2014 ホテルのやわらかコース料理 ~のみこみにくい人のために~」と題して、12月13日(土曜日)に開催予定で、現在予約を受け付けています(詳細、文末)。

 そもそも同ホテルの近隣に位置する兵庫医療大学リハビリテーション学部教授・野﨑園子先生から提案があって実現し、回を重ねているという食事会。地域交流プロジェクトとしてホテルと大学が共同で企画・運営しており、会食中の体調ケアも備えた、利用者にとって安心のプログラムです。
 当日は同大学からサポートスタッフが入り、食事会を見守ってくれるそう。供された料理に、さらに嚥下調整(もっと刻む、とろみを増すなど)が必要な場合は、その場で応じる体制も整えているとのことです。

「まずは美しく盛りつけたお皿をお持ちし、お料理を目で楽しんでいただいた後にリクエストにお応えして調整します。メニューづくりの段階から野﨑先生にもご協力いただき、食べやすさ、飲みこみやすさに配慮をしておりますので、多くの方はそのまま召し上がっていただけます。ご家族そろってホテルという非日常の空間と、料理人のつくる料理・味、そしてクリスマスムードと会話を楽しんでいただけるよう、準備を整えております」とは、同ホテル広報担当・高永みかさん。
 会食の部屋には大きなツリーが飾られ、ピアノトリオが奏でるクリスマスの楽曲を聴きながら食事が楽しめます。食前のひととき、嚥下障害がある人の食生活について野﨑先生の講話も予定されています。

 この日のために総料理長・岸本貴彦さんが熱心に工夫、選りすぐった特別ランチコース料理は下記の通り。前菜が「洋風」か「和風」をお好みで選べます。
「和食も食べてみたい」という参加者の声に応えて、昨年から前菜が選べる構成に変えたそうです。参加者の満足にこだわったメニューは例年大好評で、リピーターの参加も多いということです。
 例年、参加者は50名前後(10世帯前後)とのこと。募集定員はとくに定めていないということですが、万全なサービスとケアができる範囲として予約を受け付けていますので、参加されたい方は下記にお問い合わせください。

「家族で楽しむクリスマス2014」
 ホテルのやわらかコース料理 ~のみこみにくい人のために~

*写真は料理イメージです。

  • 日時:平成26年12月13日(土)
    • 11:30 ~ 受付
    • 12:00 ~12:15 兵庫医療大学リハビリテーション学部教授・
      野﨑園子先生による講話
    • 12:15 ~14:00 お食事

◆メニュー◆
  • ○ 選べる前菜
    <洋風オードブル>
    ・ずわい蟹とジュレ 青豆のクリームにのせて
    ・舌平目のショーフロワ サフランの香り
    ・帆立貝のクネルとキノコのリゾット
    <洋風スープ>
    ・カリフラワーのポタージュスープ オレンジの香り
    または
    <和風前菜>
    ・鯛すき ジュレ風~鯛・豆腐・かぶら・人参など~
    ・栗きんとん風/穴子のやわらか煮
    ・里芋の煮物風 柚子味噌掛け
    ・ぶりの照り焼き風/ほうれん草のお浸し風
    <和風椀物>
    ・湯葉ふわふわ真丈
  • ○ メイン料理
    ・黒毛和牛の赤ワイン煮込み
    ・トリュフ風味ポテトのグラタンと人参のフォンダン
  • ○ デザート
    ・ピスタチオとチョコレートのムース 温州みかんのジュレを添えて
  • ○ フレンチトースト・ソフトパン
  • ○ コーヒーまたは紅茶またはジュース

会場:神戸ポートピアホテル 本館地下1階 布引・北野の間
料金:5,500円(料理、税・サービス料込)

演奏:ピアノ 久保敦子さん / バイオリン 山田聖華さん / チェロ 川勝美歌さん

ご予約・お問い合わせ:神戸ポートピアホテル イベント係 Tel. 078-302-1117(直通)


 次回は、公益社団法人全国調理職業訓練協会の認定資格「介護食士」について、介護食士事業推進委員長(群馬調理師専門学校校長)遠山 巍先生にうかがったお話を掲載予定です。