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ルポ・いのちの糧となる「食事」

下平貴子(出版プロデューサー・ライター)

食べること、好きですか? 食いしん坊な私は、食べることが辛く、苦しい場合があるなんて考えたことがありませんでした。けれどそれは自分や身近な人が病気になったり、老い衰えたりしたとき、誰にも、ふいに起こり得ることでした。そこで「介護食」と「終末期の食事」にまつわる取り組みをルポすることにしました。

プロフィール下平貴子(出版プロデューサー・ライター)

出版社勤務を経て、1994年より公衆衛生並びに健康・美容分野の書籍、雑誌の企画編集を行うチームSAMOA主宰。構成した近著は「疲れない身体の作り方」(小笠原清基著)、「精神科医が教える『うつ』を自分で治す本」(宮島賢也著)、ほか。書籍外では、企業広報誌、ウェブサイト等に健康情報連載。

第151回 当たり前を疑い、変えていく
KTSM第7回全国大会に参加して

はじめに

 過日、小山珠美先生が主宰するNPO法人口から食べる幸せを守る会®(以下、KTSM)の第7回全国大会に参加しました(2019年7月7日、横浜市教育会館)。

 その1日を通じて感じたことと、来年開催の第8回全国大会日程をご紹介します。

「食べられない」に疑問をもつ
どう生きるか、問われている

 どんなことでもそれに関わる人たちにとっては当たり前の「流れ」や「約束事」があるのではないかと思います。それは当然、理にかなっていることが多いですが、中には目まぐるしい情報や検証の進化によって、今となっては見直されるべきこともあるでしょう。

 世代によってはご存知ないかもしれませんが、かつて歯は縦に磨けと教わり、ウサギ跳びが推奨され、鼻血を止めるときは上を向けといわれていました。
 今では逆が「当たり前」です。
 当たり前は変わるのです。
 きっと誰かが、当たり前とされていたことを疑い、より善き「解」や「快」を考えた結果でしょう。当たり前は自然に変わるのではなく、誰かが変えるのです。

 先日、KTSM全国大会に参加した帰り道、500人を超える参加者が集い、語り合う姿を思い出しながら、当たり前を疑い、変化に挑む人たちが集まっていたと思いました。

 たとえば急性期での「絶飲食」、数百キロカロリーの点滴。当然、退院までに十数キロ痩せる患者さんの姿は、医療や介護に携わる人には珍しく映らないかもしれません。
 病気やケガの手術直後などは、人工的に高栄養を入れたところで身につかないわけですが、その後も身を削る状態がただ放置され、そのまま二度と口から食べることはできないというレッテルが貼られてしまうことは「当たり前」でいいのか。
 この患者が人として自然な食生活に戻る術はないか? 強み、可能性はどこにある?

 おそらくKTSM全国大会に参加していた人それぞれが、身を削る誰かをきっかけに、当たり前を疑ったのでしょう。
 小山先生はもとより登壇者のみなさんは適切な医学的・福祉的ケアに変わる必要性を訴え、豊富な事例や体験を語り、変化は起こせることを示しました。

 また、昼休みに非公開で行われたKTSM家族会のミーティングでも、自分自身または家族をきっかけに医療の当たり前に疑問をもち、口から食べる幸せを守るために行動している様子が語られていました。
 医療や介護の専門職ではない家族会の変革を望む熱も高まっているのです。

 一般の生活者には「病院に入院している間に痩せ衰える」は当たり前ではありません。自分や家族が「口から食べる幸せを失っても仕方がない」などとは容易に思えない。
 そして家族会メンバーには支援によって「口から食べる幸せを取り戻せた」体験をもっている人が多いため、それを世に知らせ、支援を広めたいという熱意も強いのです。

 体験すること、体験を知ること。どちらも同様に感動を連れてきます。
 大会の最後に、KTSMの支援を受けて変わっていく患者の姿をとらえた記録映像が流れました。何も説明がない5分間の映像でしたが、言葉を超えた説得力があります。
 患者の目に光が戻り、覇気のある表情がよみがえる様子から、口から食べる幸せが守られることの意味を確かめたら、涙がにじみました。周りを見ると、目頭を抑えている人があちこちに。おそらくその感動は、次回大会までの参加者の「変革に挑む」モチベーションになるはず。閉幕の際の大拍手がそれを示していました。

 新しい「当たり前」をつくることや、新しい「当たり前」に習う(切り替える)のが、今を生きることでしょう。
 「当たり前」に疑問をもてないのは残念。疑問をもちながら、旧態依然にしがみついていたら、心が萎えてしまう。でも一人ではどうにもならない場合もあるから、先を歩く先輩たちに学び、仲間を得て、今を生きよう!

 次回、KTSM第8回全国大会は2020年6月7日(日)、会場は横浜市教育会館です。さっそくスケジュール張に書き込み、ぜひ予定を空けておきましょう。

 詳細や参加申し込みはKTSMウェブサイトで随時発表されます。