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ルポ・いのちの糧となる「食事」

下平貴子(出版プロデューサー・ライター)

食べること、好きですか? 食いしん坊な私は、食べることが辛く、苦しい場合があるなんて考えたことがありませんでした。けれどそれは自分や身近な人が病気になったり、老い衰えたりしたとき、誰にも、ふいに起こり得ることでした。そこで「介護食」と「終末期の食事」にまつわる取り組みをルポすることにしました。

プロフィール下平貴子(出版プロデューサー・ライター)

出版社勤務を経て、1994年より公衆衛生並びに健康・美容分野の書籍、雑誌の企画編集を行うチームSAMOA主宰。構成した近著は「疲れない身体の作り方」(小笠原清基著)、「精神科医が教える『うつ』を自分で治す本」(宮島賢也著)、ほか。書籍外では、企業広報誌、ウェブサイト等に健康情報連載。

第116回 食支援につなげる 
「栄養・食べる力」ケアの視点4

はじめに

 113回より管理栄養士の安田淑子さん(地域食支援グループ・ハッピーリーブス副代表)に食支援が必要な人を早期発見し、適切なケアにつなぐために、ベースとして必要になるケアの視点について、参考となるお話をうかがっています(全4回)。
 前回までは「低栄養とその健康被害」「低栄養の兆しの見つけ方」「なぜ低栄養が起こるのか」「地域で食支援の成果を上げるために参考となること」をうかがいました。
 最終回は、食支援が必要な人のタイプ別に2通りの食支援についてまとめます。

低栄養のおそれ
そんなとき、どうする?

 現在、病気や体調不良などの問題がないものの、低栄養の兆しがあり、食生活の見直しが必要だとご家族やヘルパーが気づいても、本人(ご家族)が食の問題に気づいていないことはよくあるようです。

 例えば、朝、昼に比べ夜にしっかりとした食事をとるという食生活を長年続けていて、高齢になるまで病気をしなかったという人は、夜にしっかり食べられなくなっても食の配分を見直すことが難しい場合があります。
 また、買い物や食事の支度のほか、家事全般が重労働になり、栄養について考えて食べるのも大変だという場合も多いようです。
 ご家族と暮らしていても、ご家族が留守をしている昼の食事は支度が面倒で抜いてしまうという方も。そして食事をすること自体が“時間がかかり、疲れる”という高齢者も少なくないでしょう。
 上記のような場合は、食生活改善を促しても、「高齢の方の気持ちや行動を変えるのは容易ではない」と安田さんは話します。

 「高齢の方の場合、とくに『エネルギー(カロリー)』と『たんぱく質』が不足する場合が多くみられます。無理を強いることなく、栄養を補える食品をプラスすることを提案してみましょう。
 高栄養補助食品のような特別なものが受け入れにくかったり、準備できない場合は、朝食に乳酸菌飲料やバナナを1本、温泉卵を1個、おやつにヨーグルトやプリンを1個追加などでもOKです。
 食生活の見直しには抵抗があっても、『健康のためにこれだけは食べて!』といったアプローチは聞き入れてもらいやすいようです。
 市販されている高栄養補助食品には、不足しがちな栄養が強化されたよいものがたくさんあり、エネルギー、たんぱく質、鉄分、カルシウム、ビタミン・ミネラル、食物繊維・オリゴ糖などが補給できる食品がドラッグストアや通販で入手できます。
 そして液体タイプ、ゼリータイプ、ふりかけ、クッキーなど菓子類タイプ、粉末タイプなどさまざまな形態の商品があり、味も多様です。食べる人の好みに合うものなら、続けやすいでしょう。体調や体重、活動の変化を見守りながら、適切に食べてもらいましょう。
 そして、高齢の方に低栄養の人が多く、予防が必要なことなどを繰り返し伝え、少しずつ食生活改善について理解を促していきましょう。栄養が補えると、元気が出て、その実感から栄養の大切さを理解していただけることもあります」(安田さん)

 一方、食生活の見直しに取り組めない理由が「過去に受けた栄養指導を頑なに続けている」や、「年寄りだから粗食でいいと思い込んでいる」などの場合は、医師や看護師、管理栄養士など専門職につなげる必要があるとのことです。

 「高齢になり、生活習慣病予防より低栄養のリスクのほうが高くなっていても、以前に受けた『生活習慣病予防の栄養指導』を守り、栄養制限やダイエットを続ける方は少なくありません。
 しかし本来、生活習慣病予防の栄養管理は10年、20年後の病気を予防するための栄養管理なので、高齢になったら見直しが必要なこともあります。
 同様に低栄養のリスクがあっても、高齢の方の中には『年寄りで、活動が少ないから、粗食がいい』と思い込んでいる方が多くみられます。
 いずれも一度、改めて主治医の診断を受け、本人に低栄養予防の必要を理解してもらいましょう。
 主治医にBMIや体重減少、指輪っかテストの結果などを伝え、その上で、必要な栄養制限かどうか診断をあおぎ、本人に直接伝えてもらうのがよいでしょう。
 臓器別の専門医療の中では、低栄養やサルコペニアのリスクが見逃されてしまうこともあります。数ヶ月に一度、洋服を着たまま、経過観察の診察を受けるだけだと、体重減少や筋肉量低下がわかりにくいためです。
 そして、主治医の前ではつい優等生になって『何も問題はありません』と応えてしまう患者さんが多いこともあり、栄養不足は発見されにくいです。ご家族やヘルパーさんが見つけた『低栄養の兆し』が主治医に伝わることが大切です。
 また、少食・粗食がいいといった偏見や、テレビで見た若い人向けの健康情報が影響している場合には、ご家族が説得を試みるより、医師や看護師、管理栄養士など専門職から話すほうが、聞き入れられやすいことがあります。
 みなさん、中高年時代にメタボリックシンドローム予防や生活習慣病予防の栄養管理が大切だと知り、気をつけますが、それが高齢になると適さないことはご存知でないのです。
 高齢の方にふさわしい栄養管理を知ってもらい、低栄養予防を促しましょう」(安田さん)

プロフィール
●安田淑子(やすだとしこ) 管理栄養士。地域食支援グループ・ハッピーリーブス(東京都新宿区)副代表。1993年より高齢者の栄養管理・食支援に携わる。ハッピーリーブスは、歯科衛生士・管理栄養士・理学療法士が協働で、在宅で療養する高齢者の食支援を行う任意団体。安田さんは主治医の指示書にもとづいて介護保険で行う「居宅療養管理指導」の訪問栄養ケアを担当。ほかに新宿ヒロクリニック外来での栄養相談などのほか、デイサービスでの昼食の栄養ケア、専門職向け食支援教育の講演、執筆など。著書に「介護スタッフのための 安心『食』のケア 口腔・嚥下・栄養」(共著、秀和システム刊)。

食支援最前線の人・実践法・情報・ケア製品が集まる
「新宿」と「京都」から学べる!
この記事でお話をうかがっている安田淑子さんも所属している新宿食支援研究会主催のイベントのご案内です。
第1回 最期まで口から食べられる街づくりフォーラム全国大会
<タベマチフォーラム>
日時:9月3日(日)
   (開場)9:15、(開演)10:00

会場:東京富士大学 二上講堂
  • プログラム:基調講演 京滋摂食・嚥下を考える会 代表 荒金英樹先生
    講演   新宿食支援研究会 代表 五島朋幸先生
    多職種フォーラム
    パネルディスカッション など
定員:500名 申し込み受付中!
詳細:http://shinnshokukenn.org/mysite2/forum.html
主催:新宿食支援研究会