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ルポ・いのちの糧となる「食事」

下平貴子(出版プロデューサー・ライター)

食べること、好きですか? 食いしん坊な私は、食べることが辛く、苦しい場合があるなんて考えたことがありませんでした。けれどそれは自分や身近な人が病気になったり、老い衰えたりしたとき、誰にも、ふいに起こり得ることでした。そこで「介護食」と「終末期の食事」にまつわる取り組みをルポすることにしました。

プロフィール下平貴子(出版プロデューサー・ライター)

出版社勤務を経て、1994年より公衆衛生並びに健康・美容分野の書籍、雑誌の企画編集を行うチームSAMOA主宰。構成した近著は「疲れない身体の作り方」(小笠原清基著)、「精神科医が教える『うつ』を自分で治す本」(宮島賢也著)、ほか。書籍外では、企業広報誌、ウェブサイト等に健康情報連載。

第84回 日々の暮らしと食に、じわじわ入る。 
「三鷹の嚥下と栄養を考える会」の食支援(後編)

はじめに

 「じわじわ入る」なんておかしなタイトルですが、そんな言葉がぴったりの活動に取り組んでいるのが、亀井倫子先生(歯科医師、コンパスデンタルクリニック三鷹)が主宰する「三鷹の嚥下と栄養を考える会」です。
 前回より2回に亘り、同会が開催した「一夜限りのKAIGOスナックin武蔵野」という前代未聞の企画の模様と併せ、同会の活動をお伝えしています。

方法論では生活は変わらない!
「最期までおいしく、元気」はどうしたら叶う?

 昨年10月に誕生した「三鷹の嚥下と栄養を考える会」を主宰する亀井倫子先生は、2011年、現在勤務しているコンパスデンタルクリニック三鷹に転職したことをきっかけに、食支援に携わるようになったと振り返ります。

「クリニックを経営する医療法人社団コンパスの理念が『食べることを支える』というもので、在宅や施設などの歯科治療と食支援に携わることとなり、それ以前の一般歯科治療とは異なる歯科治療の役割について日々考え、行動するようになりました。
 そして診療の中で、病気や嚥下障害が重症化する前の段階、つまり、日常生活の中で『口から食べ続ける、低栄養を防ぐ』備えが大切で、できることはたくさんあるけれど、知らない人が多く、入院などをきっかけに急変し、以前の日常生活に戻れないケースが少なくないことにショックを受けました。
 状態がわるくなるまで、嚥下や栄養について情報が乏しいのはもったいない。診療以外の場で、日々の暮らしを平穏に持続するために必要なこととして伝えたいと考えるようになりましたが、そうは言っても機会がありません。
 そこで介護現場の職員や、自分のクリニック内のスタッフ向けに研修会を開くなどしましたが、ただ情報を伝えただけでは人は動かない。患者(利用者)の生活は変わらないことに気づかされたのです。
 そんな中、たまたまご縁があり、2014年の10月頃から社団法人ダイアログの主催する医療マルチステークホルダー・ダイアログに参加するようになりました。
 自身を深く内省しながら、自分がどう在りたいのか、何を成し遂げたいのか、そういった目的を自分に問う対話の場に繰り返し参加することで、少しずつ自分の中に自己変容・行動変容が起き始めました。
 そして医療マルチステークホルダー・ダイアログで出会った仲間、おそらく日常生活の延長線上では決して出会うことのなかった、“ありえないつながり”である彼らと共に行動を起こすことになりました。
 そうして生まれたのが『三鷹の嚥下と栄養を考える会』です」(亀井先生)。

 亀井先生が仲間と共に抱いた目的は「『おいしく食べて最期まで元気で暮らせるまち 三鷹』をつくりたい!」。

「人の人生に直結する『嚥下と栄養』をテーマにしたことで、『三鷹の嚥下と栄養を考える会』の企画は、現場で生かせる知識やスキルの提供にとどまらず、医療・介護職個々の在り方、多職種での連携、医療・介護制度の変遷とビジョン、患者(利用者)のものがたりや死生観、街づくりといったことにも話が及びます」(亀井先生)。

 これまでに同会は「嚥下と栄養を学ぶ読書会+食事介助実習」「オーラルマネジメント・ダイアログ」、「保健医療2035提言書 読書会&ダイアログ」のほか、市民向けでは「どう食べたい? どう生きたい?」と題して健康寿命や低栄養についての講義・対話・口腔ケア実習などを開催しました。

2015年8月開催、嚥下と栄養を学ぶ読書会の模様

2015年11月開催、
保健医療2035提言書 読書会&ダイアログの模様

2015年12月開催、市民参加企画
「どう食べたい? どう生きたい?」の模様

「1月に開催した『一夜限りのKAIGOスナックin武蔵野』は、引きこもりがちな地域の高齢者や障害者の方々が街に出て『おいしく、楽しく、食べる』場をつくり、高齢者や障害者の孤立を防ぐと共に、飲食店経営者の方々など街のあらゆる立場の方々に、
  • ・ 嚥下障害・低栄養というものが存在すること
  • ・ 老い・病気・障害と共に生きること

を、少しでも身近に感じていただきたい、そういった『多様性を認め合うまち 三鷹』をつくりたいという思いを込めて開催しました。
 『三鷹の嚥下と栄養を考える会』で企画を行う場合、まず、世話人のメンバーで『その場を開催する意図』をていねいに練るところから始めます。
 誰に今回の場に参加してもらいたいのか?
 誰にこの企画を届けたいのか?
 私たちはその人に何ができるのか?
 その人は私たちに何をもたらしてくれるのか?
 具体的な対象を1人、リアルに思い描き、その人の本当のニーズにつながるための『問い』を立て、そこからコンテンツをつくっていきます。
 これからも、自分自身や仲間と、問い続け、対話し続け、動き続けたいと思います。
 口腔ケアも、嚥下障害に対する支援も『方法論』だけ伝えても生活は変わらない。
 皆さんがどう食べたいのか、どう生きたいのかを、あまり重苦しくならないように自然に問いかけ、引き出して、対話する中で、予防に取り組む必要性に気づいていただけるといいなと思っています」(亀井先生)。

 今後も、地域の医療・介護・暮らしに密着した企画が開催されることを期待し、注目します。

 なお、以下を取材し、後日記事を書かせていただくことになりました。
 現状、まだ参加申し込みが可能ということですので、お知らせいたします。

もっと知ってほしい胃がんのこと2016 in 立川
  • ◆ 日時:4月9日(土) 13:00~16:00
  • ◆ 場所:立川商工会議所 11階 第6会議室にて
  • ◆ 主催:NPO法人キャンサーネットジャパン
  • ◆ 協賛:日本イーライリリー株式会社
  • ◆ 後援:立川市、一般社団法人日本胃癌学会、立川市医師会、胃を切った人 友の会 アルファ・クラブ、NPO法人希望の会、公益財団法人HLA研究所 淳彦基金
 日本で最も多い「胃がん」について、専門医から詳しくお話をうかがうと共に、胃がん体験者の談話、来場者からの質問に答える「Q&Aトークセッション」も設けられるとのこと。過去に本連載でもお話をうかがった川口美喜子先生もご講演「胃がん治療後の症状や食事について ~困った時のヒント~」で登壇されます。
 来場者にもれなく「胃がんの冊子」を進呈。