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【医師との連携】夜勤中に異変のあった利用者の状態を医師へ連絡したら、うまく伝わらずに立腹させてしまいました。どうしたら医師との連携がうまくいきますか?

Q 【医師との連携】夜勤中に異変のあった利用者の状態を医師へ連絡したら、うまく伝わらずに立腹させてしまいました。どうしたら医師との連携がうまくいきますか?

もっと詳しい状況は?

 私は有料老人ホームの施設長をしています。ある日、介護スタッフのAさん(2年目)が夜勤業務中の午前1時に利用者のBさん(要介護1)からナースコールで呼ばれ、「少し頭が痛いし、気分が悪いので主治医のC先生に連絡してください」と言われました。
AさんはC先生に電話で連絡をして、Bさんの訴えている内容を伝えました。C先生からAさんに血圧などのバイタルサインの確認や当日の日中の様子等色々と聞かれましたが、Aさんはほとんど答えることができませんでした。C先生は立腹されたようで、様子観察してくださいと指示が出されました。

 有料老人ホームの医師は一人の固定の医師ではなく、利用者によって主治医は違っており、元々の指示も様々であれば、医師が捉えたいポイントも様々です。夜間、利用者に異変があり、介護スタッフが医師に連絡する場合、どのような方法で伝えるのが良いかアドバイスを頂ければと思います。

A、利用者の状況を的確に捉えるため、看護分野で活用されている「I-SBARC」を参考に、夜間でも医師に的確な情報を伝えることができるよう、伝達方法を標準化しましょう。

【ポイント】
●医師に的確に情報提供できるようI-SBARCをシートにして報告業務を標準化しよう
●利用者からの主訴とバイタルや記録など主観的情報と客観的情報を伝えよう
●介護職員として利用者がどうなって欲しいのかを伝えよう
●医師に往診、様子観察など指示、次回の報告のタイミングなどの提案をしよう
●復唱し、コミュニケーションエラーを防ごう

 夜間に起こる急変に対して、Aさんは入職2年目でうまく問題を処理することができませんでした。しかし、利用者や医師にとって新人かベテランかということは関係ありません。そこで、誰でも状況を説明することができるように、伝達事項を標準化することが必要です。

(画像はイメージです)

 皆さんは、患者の急変時の状況を的確に医師に伝達するために看護師が用いている、I -S B A R C(アイ・エスバーク)というコミュニケーションツールをご存知でしょうか。
 Ⅰ―S B A R Cは、もともとアメリカ海軍が開発した『上官に報告し、意思決定を仰ぐまで』の情報伝達の手段としてのツールです。一般的には「報・連・相」(報告・連絡・相談)に似たものです。
 難しいものではなく、状況を知らない人に短期間にわかりやすく伝えるためのツールです。それぞれの頭文字ごとに伝える内容が整理されています。
 実はI-SBARCのうちIとCは後から付け足された項目ですので、まずは、SBARの意味についてそれぞれの頭文字に沿って説明しましょう。

S・・・Situation(状況)

 SはSituation(状況)です。急変した患者(利用者)に起きていることを報告することです。夜間に医師へ連絡することは緊急性が高いものでしょう。そのため、現在起きている状況を的確に答えるようにしましょう。情報は主観的情報と客観的情報と分けると伝えやすいです。
 主観的情報とは、利用者の主訴です。
 事例の場合、利用者Bさんが「少し頭が痛いし、気分が悪いので主治医のC先生に連絡してください。」と夜勤者のAさんに訴えています。
 次に客観的情報とは、体温、血圧の測定値、服薬状況、食事や排泄状況、日中の様子、など、客観的に観察できる記録です。
 事例では、Bさんの訴えに関しては報告していますが、嘔気や悪寒があるのかなど、どのように気分が悪いのかが具体的ではありません。つまり、客観的な情報について医師には報告できていませんでした。そのため、医師はどう判断していいのかわからず、Aさんの対応に立腹しています。

B・・・Background(背景)

 BはBackground(背景)です。Aさんの既往歴、入所の経緯、治療の経緯や定期受診後から最近の様子など経過の報告です。
 事例の場合、医師はBさんの主治医なので治療の経過などは承知していますが、他科の受診状況、定期受診後のホームでの生活の様子はわかりません。
 例えば、「○日の定期受診後は特に変わった様子もなく、服薬、食事、排泄、活動など特に変わったことはありませんでした」などと報告します。

A・・・Assessment(評価)

 AはAssessment(評価)です。Bさんについて、どのようなことが考えられるか、介護者として考えられること、原因ははっきりしないが、体調が悪化していることなど利用者の側にいるものとして状況から考えられることを述べます。

R・・・RecommendationまたはRequest(提案)

 最後のRはRecommendationまたはRequest(提案)です。介護者として医師に何を依頼したいのか、例えば、往診してほしい、指示がほしい、どの状況になったら再度報告したら良いかなどです。

I-SBARC

 さらに、SBARを完璧なものにするためにIとCがつけられたものがI-SBARCです。
 IはIdentity(報告者、対象者の同定)です。自分の所属、立場と利用者についてです。例えば、『夜分恐れ入ります、○○ホームの夜勤者で介護職のAです。先生が主治医のBさんのことについてのご相談です』といった感じ。
 CはConfirm(復唱)です。指示の内容を復唱し確認します。この二つは報告・連絡・相談の正確性を担保し、コミュニケーションエラーを防ぐために行います。
 事例の場合、Aさんは、Bさんの主訴は伝えていますが、体温、血圧、日中の状況など客観的な情報の提供がありません。そのため、医師は何をどう判断すればいいのか「何のために夜中に電話してきているのか」立腹するのもうなずけます。


 S B A Rのうち介護者として自分の意見を述べることは、看護師と違い難しいと思いますが、これらを夜間の報告のルールとして徹底しておくことが必要でしょう。

I-SBARCを先ほどの事例で実践

 この事例をI-SBARCに沿ってどのように医師に相談すればいいのか考えましょう。

 I(報告者、利用者の同定)
「夜分恐れ入ります、○○ホームの介護職員で本日の夜勤を担当しておりますAと申します。先生が主治医をされているB様についてのご相談です」

 S(状況)…主観的情報
「午前1時にB様からのナースコールに対応し、『少し頭が痛いし、気分が悪いので主治医のC先生に連絡してください』という訴えがありました」

 S(状況)…客観的情報
「体温は37.0度、血圧は130-80でした。気分が悪いのは体がだるいということでした。夕食は全量取られ、定時薬も服用しています。日中このような訴えはありませんでした」

 B(背景
「ここ数日の食事、排泄、活動、状況に特段変化はありません」

 A(評価)
「B様は気分が悪く不安を訴えているようでした」

 R(提案)
「対応についてと次回先生に報告する際の状況についてご指示ください」

(担当医からの指示などがある)

 C(復唱)
「わかりました、様子を観察し、体温が37.5度を超え、意識レベルが低下しているようでしたら、またご報告いたします。夜分失礼いたしました。ありがとうございました」

介護職の報告が医師の助けに

 介護職からの情報により、医師は今後の容態の変化について1次情報を得ることができます。後の経過で状態が悪化しても、同様に重要な情報の報告を続けることが大切です。
 I-SBARCシートを作成しておき、医師への報告の前に記入して、医師からの指示も的確に記録し、上長や施設長への報告にも活用しましょう。
 このように情報ををまとめ報連相することで、このシートは緊急時のみならす普段から活用することができます
 また、I-SBARCシートを整え、日頃からバイタルをとることが大切です。高齢者はいくつかの既往症を抱え、複数の薬を服薬しています。日々の食事、飲水、排尿、排便、活動、認知機能などが総合的に記入できるヘルスケア総合シートなどを活用します。そうすれば、夜勤者は日中やここ数日間の健康状態を把握することができます。
 最近では、写真や動画で記録をとることができるスマートフォンやタブレットと健康管理データを共有するI C Tが進化しています。客観的なデータが医師とのコミュニュケーションを円滑にするポイントです。

この記事は私が書きました

宮島 渡(みやじま わたる)

日本社会事業大学専門職大学院特任教授
全国認知症介護指導者ネットワーク代表

質問をしたのは私です

喜多 将之(きた のぶゆき)

SOMPOケア株式会社(現在、日本社会事業大学専門職大学院に在籍)

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