【職員の育成の仕方】中途入職者の育成に難しさを感じています。どのようにアプローチすれば成長につながるでしょうか?
Q、【職員の育成の仕方】中途入職者の育成に難しさを感じています。どのようにアプローチすれば成長につながるでしょうか?
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もっと詳しい状況は?
中途採用で介護職の新人として特別養護老人ホームに入職したAさんは43歳の男性です。前職は高齢者施設の送迎車の運転業務で、その前は他業種でした。A さんよりも年齢の若いBさんがOJTの指導にあたりました。AさんはBさんの助言をなかなか受け入れず、自分の考えに固執する傾向にありました。他者に意見を求めることは少なく、現場で考え込んでしまう場面もみられました。
ある日、Aさんは利用者さんと言い合いになってしまいます。Bさんの介入により大事には至りませんでしたが、徐々にAさんはチーム内で孤立していきます。ユニットリーダーのCさんは大らかにAさんを見守り、積極的に声かけもしていました。Aさんは、マニュアル通りに真面目に仕事に取組みますが、状況判断に乏しく、周囲をヒヤリとさせることも度々でした。1年が経ち、ベテランのパート職員らが「Aさんは全然成長がみなれない」とCさんにこぼすようになりました。A、まずは中途入職者の力量を評価し、OJTを中心にチーム全体で育てよう!
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【ポイント】
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- ●中途入職者の場合、まずはどの程度の力量がるのか、評価しましょう。
- ●新卒であっても中途入職者であっても、新人研修の基本はOJTです。
- ●様々な手法を組み合わせ、チーム全体で育てよう。
介護労働安定センターの調査によれば、介護職の8割が中途採用であると報告されています。裏を返せば、新卒で介護職として現場に飛び込む人は少ないことを意味します。つまり、中途入職者によって介護業界は支えられていると言っても過言ではありません。
一方で、世に出ている新人研修のテキストブックやマニュアルは、新卒の新人をどう育てるかに焦点があてられています。したがって、今回の相談者のようにモヤモヤしながら人材育成にあたっている中堅スタッフ及び管理職の方々は多いのではないでしょうか。まずは中途入職者の力量をアセスメント
中途入職者はビギナーから介護職の経験がある方まで様々です。ビギナーと経験者ではアプローチを変える必要があり、まずはそこを確認しましょう。
Aさんのように高齢者施設での仕事経験があると、運転業務であっても、全くの新人より少し介護の仕事ができるのではないかとバイアスが入るものです。中途入職者が即戦力を期待され、入職と同時に現場に配置される事例もあり、早期退職につながるケースもあるようです。介護や福祉現場での人材育成は、①専門職として、②社会人として、③組織人として、という3つの視点から考えましょう。新卒の場合は3つのすべてを最初からやりますが、中途入職者の場合は、それぞれがどこまでできるのかアセスメントが必要です。介護職としてのスキルレベルを含めた職業能力評価シートなどを作り、活用すると良いでしょう。
職場での研修、基本はやはりOJT
職場研修の形態はいくつかありますが、新人職員の成長に直接的につながるのは、何と言ってもOJT(On the Job Training)です。OJTとは、職場での業務を通して先輩が後輩の育成に直接的に関わることです。
このケースですと、先輩のBさんにとっては、後輩のAさんは人生の先輩であり、OJTはなかなか難しかったことでしょう。同時に、若いBさんから教わるAさんにも様々な思いがあったことでしょう。 仕事ができるようになるプロセスを熟達化と呼び、ここで、OJTによる熟達化の理論を紹介したいと思います。先輩との共同作業によって新人は仕事を覚え成長するという理論で、認知徒弟制度と言います。提唱者のコリンズらは以下の4つのステップを踏むと論じました。-
【コリンズの4つのステップ】
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- (1)モデリング(見て学ぶ)
- (2)コーチング(手取り足取り教える)
- (3)スキャンフォルディング(できるところは一人でやる)
- (4)フェイディング(先輩徐々に退いていく)
ところで、私は地域医療に従事する医師です。私の研修医時代、地域医療を担う医師の育成法は確立されておらず、先輩達からは「君らがレールを敷け」とよく言われました。恩師の五十嵐正紘先生は、北海道で地域医療に従事しながら、独自に地域医療を担う医師の育成法を考案し、7つのステップに整理しました。マイセオリーをつくりあげたわけです。
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【五十嵐の育成7ステップ】
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- ①まず見る
- ②手取り足取り教わる
- ③できるところは一人で実践
- ④概ね一人で実践
- ⑤放り出される(一人で考え、対処する)
- ⑥後輩を教える
- ⑦一人立ち
五十嵐先生が唱えたのは1980年代で、コリンズと同時期かそれ以前です。放り出されたり、教育に関わるステップを経たりして1人前になれるとよく言われたものです。
話を戻しましょう。コリンズも五十嵐も「まず見る」と言っています。あなたの事業所に法人の理念を体現できるロールモデルとなる職員がいるとベストです。中途入職者OJTへの具体的なアプローチ
年長者へのOJTを成功させるために、まずはコーチングとティーチングに注目してみましょう。OJTにはどちらのスキルも必要です。
指導する立場となると、「教える」ということで上から目線となり、どうしてもティーチングが中心になってしまいます。そうではなくて「支える」というコーチングの手法がOJTでは重要です。特に中途入職者には、新卒以上にコーチングのスキルを駆使してアプローチすることを意識しましょう。
もっと具体的言えば、Aさんが実践した行為について、どうフィードバックするかがポイントです。
Aさんのように、なかなか成長できない方でも、良いところは必ずあるはずです。例えば、真面目なところや規則を守るところは、良いところですよね。良いところを見つけ出し、褒めましょう。
このようにして、まずは聴く耳を持ってもらうことです。失敗したスキルであっても、良かったところを拾いあげ(positive)、でもここがよくなかった(negative)、じゃあ次はどうすれば良いか(positive)、という具合にpositive-negative-positive(PNP)の順番に言葉を並べてフィードバックすると良いでしょう。本当に伝えたいことは、PNPのNの部分に持ってきます。頭ごなしに「それ、ダメ」などとフィードバックしていませんか?様々なOJTのシステムによりチーム全体で支える
職場で成長していくためには、業務支援、内省支援、精神支援の3つの支援が必要と言われています。業務支援はルーチンワークの中でできますが、人生の先輩に内省支援や精神支援をすることは気が引けるでしょう。
そういうときは、ベテランや管理職にサポートを頼るのも良いと思います。OJTには、ぴったりマンツーマンで行うプリセプターシップのような形式から、メンター制度のように同じ部署にはいないのだけれど、ベテラン職員が精神的にサポートするという形式もあります。
また、Bさんへの負担を考慮して、チームメンバーの各人がAさんの育成にかかわるという手もあるでしょう。朝の申し送りの時間だって、効果的にフィードバックできれば内省支援につながります。
状況に応じて様々な手法を駆使し、チーム全体で新人を受け止め、柔軟に育成にかかわることが、新卒・中途採用に関わらず、職員の成長をもたらし、結果として質の高いケアにつながります。おわりに
その後ユニットリーダーCさんは、Aさん、Bさん、管理職と話し合い、Aさんの希望もあって別のフロアに異動となりました。そして、Aさんは新しいフロアで急成長を遂げたそうです。そのプロセスには、大らかに見守るCさん、決して見捨てることはせず丁寧に指導にあたったBさん、Cさんを支え職員全体の成長を願う管理職の存在があり、組織全体で緩やかに見守る風土があったからでしょう。さらに言えば、管理職とCさん、CさんとBさんの間にもOJTがあったものと想像します。配置転換からの成長については、正統的周辺参加という学習モデルを触れたいところですが、これは別の回にしましょう。
さて話は冒頭にもどりますが、中途入職者によって介護業界は支えられている現状があり、中途入職者を含めた体系的な人材育成システムを構築する必要があります。皆さんの組織では、どのような育成しているのか、見直してみましょう。この記事は私が書きました
鶴岡浩樹(つるおか こうき)
日本社会事業大学専門職大学院教授
つるかめ診療所副所長質問をしたのは私です
渡辺寿恵(わたなべ すみえ)
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