【チームの活性化】カンファレンスで部下から意見が出ないことに危機感を覚えています
Q、【チームの活性化】カンファレンスで部下から意見が出ないことに危機感を覚えています
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もっと詳しい状況は?
グループホームで施設長をしている秋田といいます。コロナ禍のなか、手洗いと消毒の徹底、ケア手順の見直し、外出制限、家族対応、頻繁なシフト変更など、大変な一年でした。対処すべきことが山積みで、自ら率先して仕組みをつくり、スタッフに指示を出し、なんとか乗り切ってきました。でも、最近、ケアそのものについても私の指示を待つスタッフが現れてきて、危機感を覚えています。
先日も、ベテランのAスタッフから「食事摂取が難しくなってきた佐藤さん、どうしたらいいか指示をお願いします」、とカンファレンスで言われてしまいました。これまでだったら、ケアスタッフが集まって情報を共有しながら、声かけ、食事に集中できる環境、食事内容、嚥下機能の評価などについて試行錯誤をしながら最善の支援は何かを検討していました。
もう一つ気になることがあって、それは、このスタッフの発言に対して、誰一人として「私たちで○○してみませんか」といった意見がなかったことです。職員の人間関係がよくないみたいで・・・。
チームの雰囲気が停滞気味なのは確かだと思うのですが、どのように介入したらいいの分かりません。アドバイスをお願いします。
A、 介護は複雑でクリエイティブな仕事であることを共有したうえで、安心して意見を言える環境(心理的安全性)をチームに確保しましょう。
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【ポイント】
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- ●介護の仕事はクリエイティブであることを共有しましょう。
- ●チームで学習し続けるスタンスを持つことを目指します。
- ●安心して意見を言える環境(心理的安全性)を確保します。
【先生の解説】
ミーティングやカンファレンスで意見を求めても、皆が下を向いてダンマリを決め込む。仕方がないからリーダーが粛々と物事を決めて進めていく…。そんな光景は珍しいことではありません。しかし、これでは支援の質はあがらず、利用者さんの笑顔や尊厳、自立支援は遠のくばかり。どうしたらいいのでしょうか?
巷には会議で意見を出してもらうためのテクニック本があふれています。一時的にはこれでうまくいくかもしれませが、小手先なテクニックで済ませるのではなく、職員一人ひとりが腹落ちするような対応策を考えたほうがよいのではないでしょうか。
そのためには、介護の仕事というものが、自分の頭で考え、創意工夫を積み重ねていく仕事であることを共有する必要があります。
創意工夫を積み重ねるチームとして、ミーティング等を活性化するための3つのポイント!
①介護の仕事はクリエイティブ(創造的)であることを共有する
どんな業界であれ、仕事というものはルーティンの業務、複雑な業務、イノベーションの業務が組み合わさって構成されています。もちろん、3つの業務の比率は仕事の内容によって違います。組み立て工場のライン作業はルーティンの業務が大半を占め、企業家の仕事はイノベーションの業務の比重が高いといえます。
介護の仕事は、どの業務の比重が高いと思われますか。
日々の支援は同じことの繰り返しのように見えますから、ルーティン業務が大半を占めると世間は考えているようです。
でも、私たちは一人ひとりにあった支援を心がけていますし、利用者のその日の体調や気分を考慮して、支援のタイミングや内容を常に変化させています。場の状況や文脈を読み解き、臨機応変に対応することも求められます。
もう、おわかりですね。介護の仕事は、ルーティン業務ではありません。複雑な業務が大半を占めるクリエイティブな仕事です。
介護には絶対的な正解はなく、皆で解をつくりあげるもの。これが介護の仕事の醍醐味です。
秋田さんが最初にすべきは、このことを職員達にしっかり伝えることです。
コロナ対応として秋田さんは数多くことに自ら対応してきました。これらはマネジメント業務です。それゆえ、秋田さんは自分で判断して、職員に方針を伝えて、具体的な行動を指示してきました。
でも、日々の介護はそういうものではありません。絶対的な正解がない複雑な業務ゆえに、メンバーがそれぞれの情報をもちよって意見を述べ、最善と思える方法を探っていく、それを繰り返す協働作業です。
②チームで学習し続けるスタンスを持つ
介護の現場では、指示された行動をそのまま実践に移してもうまくいきません。その場で微調整する必要がありますし、判断が求められることもあります。そもそも介護は、アセスメントし、根拠に基づいて仮説を構築し、それを実践し、その結果から教訓を得て、次の実践に活かす、このサイクルの連続です。
秋田さんが質問を受けた利用者さんの食事についても、本人の体調、食へのこだわり、食事量、食事内容、椅子やテーブルの環境、嚥下機能、食事動作など、考えることは沢山あります。利用者さんについて知っている情報を職員達で共有しながら、対話を行います。異なる意見は歓迎されますし、わからないことや疑問に思ったことも率直に述べます。
そうすることで、チームメンバー全員で学び合いながら、支援の質を高めていく、これが基本です。
下の図をみてください。左の「実行するためのチームづくり」は、コロナ禍での秋田さんのマネジメント業務についての基本的なスタンスです。
右の「学習するチームづくり」は日々の支援についての基本的なスタンスです。両者を対比することで、日々の支援は右の「学習するチームづくり」で行うことが腑におちるのではないでしょうか。
秋田さんと職員達の話し合いのなかで
ここまでの話をざっと説明したところ、秋田さん、合点がいき、図表を用いて介護の仕事としての特性をミーティングでじっくり話し合ったそうです。
多くの職員は、「コロナ禍で求められた施設長による緊急対応としてのチーム運営を、日々の支援にまで当てはめてしまうようなところが私たちにはあったんですね」と気がついたようです。
職員達と話し合うなかで、秋田さんは、思いがけない指摘をC職員から受けました。
「施設長、コロナ対応の時には具体的な指示を私たちにくれるじゃないですか。その時って、私たちに意見求めることがほぼないですよね。それもあって、なんとなくミーティングで意見を述べるのに躊躇してしまう雰囲気があるんです」
「先日、ベテランのAさんが食事の支援について施設長に指示を求めた時、ほんとはみんなで考えませんか、と言いたかったんですけど、私、言えませんでした・・・」
秋田さんは、皆が意見を率直に述べないのは、職員達の人間関係の悪さが理由かと思っていただけに、自分に問題があったことに戸惑ってしまいました。
③安心して意見を言える「心理的安全性」を確保する
学習するチームをつくる際には、異なる意見を歓迎し、率直に対話することが欠かせないのですが、この時のキー概念が心理的安全性です。
わかりやすくいうと、「チームのなかで自分の思ったことを述べても、何ら不利益を被ることはない。リスクをとって意見を述べてても大丈夫」、という風土のことを言います。
よく似た言葉に信頼がありますが、信頼は個人と個人の間で成立するものです。
これがチームメンバー全員のなかに成立していると心理的安全性が担保されているということになります。
質問する、意見を求める、異論を述べる、間違いについて話す、助けを求める、提案する、懸念について話し合う。簡単なようでいて簡単なことではありません。介護の現場では心理的安全性はとても大切です。
まとめ
「私のコロナ禍の対応そのものが、自由闊達な対話の場を消失させ、意見を述べない雰囲気を生み出し、静まり返ったミーティングを生み出していたこと、反省です。事実を職員達と共有して、気持ちを新たにチームづくりに励みます!」。
秋田さんの表情は晴れ晴れとしていました。
この記事は私が書きました
井上由起子(いのうえ ゆきこ)
日本社会事業大学専門職大学院教授
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