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精神保健福祉士として働く

精神保健福祉士の職場は多様です。業務の内容も多岐にわたります。
ここでは、さまざまな現場で活躍する精神保健福祉士の「職場と仕事の内容」をご紹介します。
「精神保健福祉士」という仕事の特性とその奥深さ、可能性を感じ取ってみてください。


第3回 就労支援事業所

吉野敏博さん Yoshino Toshihiro
NPO法人かながわ精神障害者就労支援事業所の会 就労継続支援B型ホープ大和

一般企業の会社員時代、ある出来事をきっかけとして「人生を支援する」ことに取り組みたいと志を立てた。そのためには知識を積み上げることが必要と、福祉を学ぶために大学での修業に4年を投じ「精神保健福祉士」を取得。初めに就職した大学病院の精神科デイケアで、患者がデイケアを卒業した後の就労支援活動に魅力を感じた。より積極的に就労支援に携わろうと、現在の所属法人が就労継続支援B型事業所を立ち上げたときにこのスタッフとして参加し転職。同法人は地元企業とのつながりが強く、就労支援を追求する上でも理想の職場だった。その後12年勤続し現職。

私の職場

 NPO法人かながわ精神障害者就労支援事業所の会は、前身を「職親会」とする、精神に障害のある方を雇用している企業、障害者雇用を検討している企業が会員となる法人です。活動内容は、企業向けの障害者雇用・メンタルヘルス研修や座談会の開催、会員企業への企業実習などです。働きたいと考えている当事者だけでなく、精神障害者を雇用したい、雇用を継続したいと考えている企業も支援の対象となります。
 私が所属する就労継続支援B型ホープ大和は、地域に根差した就労支援施設として2010年に設立しています。就労支援とそのための生活支援を充実させるため職員は年々増員し、現在は常勤6名・非常勤6名の12名体制で事業所を運営しています。

仕事の内容

 「就労支援」の特色として、B型事業所内での作業とあわせて、企業に出向いて作業を行う施設外就労に力を入れていることが挙げられます。日々の職業訓練を企業の中で直接行うことで、働く力を身につける上での課題が見えやすくなり、一人ひとりの目標も立てやすくなり、課題解決へ向けた成果も確かめやすくなります。そのことが利用される方の働き続ける力にもなってくれています。現在、施設外就労は毎日行っており、毎日9時から16時までこちらで働く方もいらっしゃいます。
 同様に力を入れているのが「生活支援」です。就労は生活面が安定してこそとの視点から、通院同行や余暇活動支援、家族支援、住居支援など生活全般にかかわる支援に取り組んでいます。この生活支援を手厚くするため職員を増員しているのは先述したとおりです。
 また、障害のある方にとって住みやすい地域になるよう、事業所として大和市障害者自立支援協議会に参加し、地域課題の掘り起こしやその解決に向けた「地域支援」にも取り組んでいます。企業への支援としては、大和市の商工会議所の会員となり、商工会議所と連携した企業訪問や企業からのお悩み相談に対応しています。

作業を的確に行う、納期を守る、職業訓練としての経験を蓄える。
一人ひとりがそれぞれの「働きたい」を実現しています。

「ある日」の勤務から

ホープ大和の特徴が表れているある日の流れをご紹介します。企業訪問や研修企画の打ち合わせなど、作業場での作業以外に精力的に取り組んだ一日でした。

9:00 職員の朝礼

一日の作業と流れを確認し、利用者さんの欠席連絡状況などを職員間で共有。利用者さんの日々の状況もふまえ、かかわりとして気になるポイントを再確認する。

9:30 利用者さんとの朝礼

各作業場で、今日の一日の流れ(作業内容・納品日など)を確認。また、予定しているイベントやお知らせを職員からお伝えする。

10:00 モニタリングに同席

利用者さんのサービス利用状況をご本人と担当職員、相談支援専門員で振り返る。私からはサービス管理責任者として全体がどう見えているかという客観的な意見を述べる。よいと感じられたことを伝え、改善すべきと感じられた点はご本人が取り組みやすいように提案。

11:00 企業訪問、就労定着支援

一般就労した利用者さんのサポートとして雇用現場(企業)を訪問し、ご本人、職場担当者に声を掛ける。困りごとはなくても定期的な訪問やオンラインを活用した日々のやり取りが大切。他愛ない会話の中から順調な就業状況を確認できた。

12:00 昼休み

昼食をとりながら、職員と午前中の作業場の様子やかかってきた電話の内容などざっくりと聞く。休憩時間でもあり、確認にとどめる程度。

13:00 企業実習の訪問、振り返り

この日は利用者さんの企業内実習の最終日。訪問し振り返りに同席。「生活や体調を安定させる」「仕事でメモを取る」など、実習のなかで確認された課題への対応について社員から指導を受ける。ご本人は就職への意識をさらに高めた様子。

15:00 オンライン研修会打ち合わせ

企業実習から戻り、秋に予定している企業向けオンライン研修会の企画検討を行う。県内の企業が知りたいと思っていること、現在困っていることに寄り添い、参加したいと思ってもらえるプログラムになるよう研修委員間で知恵をしぼる。

16:00 作業終了、報告

作業の終了時刻となり、作業の進捗状況と連絡事項を報告する。一日の作業を終えた利用者さん一人ひとりの様子を見て、労いの言葉をかけ、今日できたことを伝えていく。小さな変化もその場で伝えることが大切。

17:00 職員の終礼

今日の作業のなかで感じたこと、気づいたことなどを職員間で報告。そのなかで職員一人ひとりの見方や感じ方の違いも確認でき、この日の事業所の全体状況として共有。

17:30 記録記入

利用者個々の記録を作成。今日休んだ方や電話応対をした方の記録作成、就労した方のメールや電話での対応はこのときに行う。ホープ大和ではWEBによる日報システムを導入しており、就労した方の勤務状況や体調の変化をWEB上で確認できる。それらへコメント送信も行う。

18:00 退勤

作業、相談業務、地域活動を含め、職員の業務は定時で終えられようにしている。誰もが働きやすい職場づくりは施設長・サービス管理責任者の責務。今日もこの時間に業務終了。おつかれさまでした。

「働きがい」について

 この仕事は「人生にふれる」ことがとても多いと感じています。働くこと、地域で暮らすこと、人とかかわりながら生きること、そうした人生そのものへの支援に携わっているわけですから、それはそのとおりです。そのなかで出合う利用者さんのさまざまな喜びの言葉や、企業の方が口にされる「(障害者雇用を)やってみてよかったよ」という言葉が精神保健福祉士としての大きな働きがいになっています。
 そして、活動全体を通じて何より感じているのは、「自分自身が学ばせていただいている」ということです。経験を重ねるなかで、目の前にあることだけではない想像する力を持つことの大切さや、相手の希望に添った提案力、必要に応じてそれを変化させていく調整力を持つことの大切さを学んできました。さまざまな人生にかかわらせていただく実際の体験とその蓄積から、自分自身の成長を感じられるというのは、この仕事だからこその喜びであると感じています。

「精神保健福祉士」の醍醐味

 私が勤務しているホープ大和は、いわゆる就労継続支援B型事業としての業務には収まりづらい活動に多数取り組んでいます。定期の企業訪問や企業からの相談対応、研修の企画運営、精神障害に限らない地域課題の解決へ向けた各種のアクションなど、これらは時に事業所としての本来業務を飛び越えていくこともあります。しかし、新しいことにチャレンジし、新しいものを開拓していく、これこそが「ソーシャルワーク」と感じています。日々の業務に忙殺されたとしても、時々は立ち止まって自己点検する、「精神保健福祉士」としての専門性をじっくり考えてみる、そのようにして今後も歩み続けたいと思います。

神奈川県と開催した企業向けオンライン研修。
企業支援の事例を発表しているところです。

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